研究最前線

国際協力でエイズ予防のワクチン開発に成功

動物実験で好結果。臨床実験に道
顔写真 本多 三男
(ほんだ みつお)
(国立感染症研究所エイズ研究センター第一研究グループ長)
科学技術振興事業団 国際共同研究事業
クレイドE型エイズワクチン研究プロジェクト代表研究者
世界的にエイズ感染者の増加が深刻な問題化している中で、日本(代表研究者:国立感染症研究所 本多三男グループ長)とタイ保健省医科学局が協力して共同研究を行い、エイズ発症を予防する新型ワクチンを開発しました。動物実験で、ワクチンの安全性と有効性が認められ、人に投与する臨床実験への道を開きました。
ねらいと背景
安全で安価なワクチン狙う
 エイズ(AIDS)は、HIV(エイズの原因ウイルス)感染を原因とするウイルス感染症です。HIVが発見されたのは1981(昭和56)年で、1983(昭和58)年にはHIVの遺伝子構造が解明されましたが、未だにエイズの治療法は確立されていません。このプロジェクト*では、安全性が高く、生産を世界各地で行え、安い価格で入手できるクレイドE型ワクチンの実現を目指しています。世界のHIV(エイズの原因ウイルス)感染者やエイズ患者の数は増え続けており、UN−AIDS(国連エイズ計画)によると世界のHIV感染者・エイズ患者数は2001年末現在で約4000万人と推定されています。地域別では、HIVの感染者の95%以上はサハラ砂漠以南のアフリカと東南アジア・南アジアの2地域で占められています。日本のHIV感染者は、厚生労働白書によれば毎年数百件報告され拡大傾向が続いています。日本でのHIVは、以前は欧米諸国で流行しているクレイドB型(単にクレイドBとも言います)が主なものでしたが、近年タイで流行しているクレイドE型が増加 しています。HIVには、大別してウイルスの遺伝子構造の違いによりA型からK型まであります。クレイドとは、型を意味します。
【注】
* 科学技術振興事業団 国際共同研究事業「クレイドE型エイズワクチン研究プロジェクト」。共同研究期間は平成10年度3月〜平成15年度3月
HIV/AIDS感染状況
出典:UN-AIDS 2002 より
内容と特徴
WHOの専門家から高い評価
 開発したワクチンは、結核の予防に使用されるBCGと天然痘ワクチンの一種ワクシニアを用いた「遺伝子組換え型ワクチン」(BCG、ワクシニアの遺伝子の一部をエイズの遺伝子と組換えたワクチン)です。HIVに感染すると、体内の免疫機能を持つ細胞が破壊されるため、免疫システムが破壊されます。HIVは体内に入ると"姿"を変えていきますが、その変化のスピードに対応するには、予測するデータがまだ少ないため、効果的なワクチンを作ることがなかなかできませんでした。
 新開発の遺伝子組換え型ワクチンは、本物のウイルスの侵入前に投与し、あたかもエイズウイルスが侵入してきたかのような免疫反応を体に起こさせ、エイズウイルスに対するキラー細胞を誘導します。本物のウイルスが侵入したときには、このキラー細胞がエイズウイルスを破壊します。共同研究は、ワクチン投与の適正化やワクチンの安全性・安定性について、サルを用いた動物実験を中心に行いました。平成13年度末には、WHO(世界保健機関)、CDO(米疾病対策センター)などの専門家が動物実験の成績について評価を行っておりますが、次のステップであるワクチンを人に接種する臨床試験に向けて準備を進めることが妥当であるとの評価を得ています。
写真
細胞の断面の電子顕微鏡写真

データ
展望
タイ政府が実用化に向け臨床試験を計画
 新ワクチンは、世界中で接種されているBCGを使用していることから安全性が高く、普及しやすいという利点があるとされています。このワクチンの実用化に成功し、1回から数回の接種で感染や発症を予防できれば、エイズ対策に大きく貢献するものと期待されます。
 タイでは、1987年ごろからエイズが本格的に流行し、今では大きな社会問題になっています。エイズ対策に努めているタイ政府は、この国際共同研究で開発したプロトタイプワクチンの実用化に向け、今後パイロット生産と臨床試験をタイで実施したいと日本側に協力を要請してきています。
研究者のコメント
「これまで日本・タイの共同研究で、両国の研究協力の枠組みの構 築や若手研究者の育成に努めてきました。今後の研究課題として、人にワクチンを接種する臨床試験があります。臨床試験では、研究者のレベルを超えるいろいろな問題が生ずる可能性がありますが、それらの問題に対応して新ワクチンづくりを進めたいと思っています。」

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