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酸化ストレスを感知する分子制御を解明
−酸化ストレスを原因とする疾患に対する治療法創出へ道を拓く−
 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究「山本環境応答プロジェクト」(研究総括:山本雅之・筑波大学先端学際領域研究センター教授)の研究グループは、細胞に存在するKeap1蛋白質が生活習慣病をはじめとする様々な疾患要因のひとつである酸化ストレスを感知し、生体防御に関わる遺伝子の発現を制御していることを明らかにした。
 本研究の成果は、生体防御系の制御メカニズムの重要な一局面を解明し、Keap1が酸化ストレスのセンサーとして機能する可能性を示すものである。本研究成果は、2月17日付けの米国科学アカデミー紀要「PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」に、2報の連報論文として発表された。
 生物にとって、酸素は生物がエネルギーを合成する上で必要不可欠な物質であるが、その化学的性質から生体内のDNAや脂質を酸化させるなどの有害性を併せ持つ。また食物や薬物にも、この酸素と同じような有害性をもつ物質が存在する。これら酸素をはじめとする物質による有害性を総じて“酸化ストレス”と呼んでいる。したがって私たち生物は、この酸化ストレスに対する防御機構を獲得することによって進化したことになる。一方、近年、酸化ストレスはガンや動脈硬化・糖尿病などの生活習慣病の発症要因のひとつとされている。この酸化ストレスに対する生体内防御システムの分子機構の包括的理解は、生命科学の進展や、創薬などの化学治療に貢献すると考えられる。
 大腸菌や酵母などの下等生物からヒトをはじめとする高等生物に至るまで、ほとんどの生物が持っている「酸化ストレス防御機構」は、生体の恒常性(ホメオスタシス)に貢献している。その詳細な分子メカニズムは生物種により異なるが、以下の3つに順序立てて考えることができる。それは、@酸化ストレスの感知、A細胞内シグナルへの変換、Bシグナルに応答した生体防御因子の制御、である。
 本研究グループでは、世界に先駆けて単離・同定したKeap1-Nrf2 システムが、酸化ストレス応答の重要な役割の一端を担っていることを、試験管ないしマウス個体による解析から明らかにしてきた。Keap1は、高等生物では未同定である酸化ストレスを感知するセンサーとして機能することが予想されており、転写因子Nrf2を介した酸化ストレス防御因子や毒物代謝酵素の遺伝子発現を制御している。
 今回の研究では、Keap1がどのように酸化ストレスを感知し、Nrf2の活性を抑制しているのかを解析し、この生体防御機構を分子レベルで解明することに成功した。その結果は以下の通りである。
 酸化ストレスが無い状態では、細胞骨格を形成しているアクチン繊維を足場として、細胞質に存在する蛋白質Keap1はNrf2と結合する。そのために、Nrf2は核に移行できず、酸化ストレス防御遺伝子の発現も抑制されていることが明らかにされた。一方、細胞が酸化ストレスにさらされると、Keap1 蛋白質を構成するアミノ酸のうち、2つのシステインが酸化され、Keap1に結合していたNrf2は、核へ移行し酸化ストレス防御遺伝子の発現を活性化して、酸化ストレスの傷害から細胞を防御していることが明らかになった。
 本研究は、「酸化ストレスに起因する疾患の生体内における分子標的を解明した」という点でも化学治療分野に大きな成果をもたらした。すなわち、本研究チームがすでに報告したブロッコリーの新芽(ブロッコリースプラウト)に多く含まれる物質がKeap1に作用して酸化ストレス防御系を活性化し、ガンの発症を抑制するという、マウスや生化学実験を用いた研究結果がより詳細に解明されたことになる。日本人の食生活も欧米化し、生活習慣病が問題になりつつある現在、本研究の成果が社会還元する可能性は極めて高いと考える。
細胞内の酸化ストレスに対するKeap1の制御機構
細胞内の酸化ストレスに対するKeap1の制御機構
細胞に存在するKeap1蛋白質が生活習慣病をはじめとする様々な疾患要因のひとつである「酸化ストレス」を感知し、生体防御に関わる遺伝子の発現を制御していることを培養細胞による分子生物学的手法から明らかにした。

Keap1(Kelch-like ECH-associated protein1)
酸化ストレスを感知するセンサーと考えられている。細胞質に存在するKeap1は、細胞骨格を形成するアクチン繊維に結合し、転写因子Nrf2を細胞質に留め、酸化ストレスに対する防御因子の発現スイッチをオフにしている。細胞が酸化ストレスに暴露されると、Keap1がそのシグナルを感知し、Nrf2を細胞質に留めることが出来ず、自由になったNrf2が核へ移行し、防御因子の発現スイッチをオンにし、細胞を防御する。
Nrf2(NF-E2 related factor 2)
環境応答に関与する遺伝子を制御する蛋白質因子。この因子が、標的遺伝子が持っている特定のDNA配列(制御領域)に結合する。このDNA配列に結合する時には、パートナー分子である小Maf因子(small Maf ; sMaf と図では略している)と二量体になっている。そして、酸化ストレス防御因子の遺伝子発現を制御している。
アクチン繊維
細胞骨格(細胞の形を作っている構成蛋白質の総称)を形成するタンパク質のひとつ。
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