主な研究成果

米国科学雑誌「ネイチャー・ジェネティックス」に論文掲載

「NSD1遺伝子のハプロ不全がソトス症候群の原因解明に成功」

戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「染色体転座・微細欠失からの疾病遺伝子の単離と解析」の研究代表者である新川詔夫 長崎大学医学部原爆後障害医療研究施設分子医療部門教授らのグループは、過成長と精神発達遅滞を呈するソトス症候群の原因がNSD1 (nuclear receptor biding SET domain protein)遺伝子の減少(ハプロ不全:両親から受け継いだ2つある遺伝子のうち1つがない状態)によることを証明した。
この研究成果は4月10日付けの米国科学雑誌「ネイチャー・ジェネティックス」に発表された。
ソトス症候群は、幼少期から小児期にかけての過成長、骨年齢の促進などの成長障害と精神遅滞、時に伴う中枢神経系の形態異常などの神経系の異常と、特徴的な顔貌(長頭を伴う大頭や突出した額等を伴う)を有する先天性奇形症候群で過成長症候群の中では最も頻度が高いものの一つと考えられている。大多数は孤発例(家族に疾患の既往がないのに、突然ある人に発症すること)である。
今回、5q35(染色体5番長腕バンド35)に転座切断点を有する症例が2例報告されたことから、同領域にソトス症候群の責任遺伝子が存在すると考え、同領域から遺伝子を単離した(図a)。これらのうちマウスのNsd1遺伝子のホモローグ、すなわちヒトNSD1遺伝子が転座点近傍に存在することを見出し、その完全長を単離し、ゲノム構造を決定した。NSD1は全長で8088bpの蛋白翻訳領域を有し、少なくとも23個のエクソンからなり、ヒト胎児の脳や筋肉などの組織で発現していた。同症候群で染色体異常の伴わない38人の患者について突然変異検索を行ったところ、4例に蛋白の切断をきたす点突然変異を同定した。
さらに染色体標本の入手できた30症例中19例にNSD1全長を含む領域約2.2Mbの欠失を、1例にやや狭い欠失を認めた(図b)。これらの結果から、患者の77%において、NSD1遺伝子のヘミ接合性染色体欠失(2つの染色体のうち1方が無い状態)ないしヘテロ接合性点突然変異のいずれかを有していることが推察され、ソトス症候群の原因はNSD1蛋白の不足(ハプロ不全)であると結論した。
マウスNsd1蛋白は、核レセプターを介したクロマチンレベルでの転写調節作用を有することが示唆され、ヒトNSD1蛋白も同様に成長や脳発達に関わる種々の遺伝子発現調節に重要な役割を果たしていると考えられる。本研究によって、小児神経領域における頻度の高い精神発達遅滞症例の原因がまた一つ明らかになり、今後、精神発達遅滞の診断・治療への新たな展開が期待される。また成長障害のメカニズムの新しい視点を提供したことで画期的である。

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最終更新日:2003年01月06日