離散・連続複合系の分散最適化シミュレーション
東京大学大学院 情報理工学系研究科数理情報学専攻 室田一雄 教授 
 
 現在使われている多くのシステムは、連続的に変化する現象によって組み立てられているシステムと、 離散的に変化する現象から成り立っているシステムとが混在する複合システムです。前者を連続系システム、後者を離散系システムと言います。 例えば、道路交通をシミュレーションする際、「車が時速何キロでどれだけの時間を走行したときにどの位置にいるのか」という現象は連続系システム、 一方で、「途中赤信号で停止する」、「歩行者を優先して一時停止する」などの現象は離散系システムに含まれます。 このように両者が合わさってはじめて、実際の道路交通をシミュレーションすることができるようになります。

 近年、このような複合システムは重要性を増しており、ありとあらゆる場面で使われています。 なかでも与えられた条件を満たすものの中から一番良いものを計算により見つけ出す、すなわち最適化シミュレーションに複合システムが利用され、 力を発揮しています。例えば、飛行機の強度や容積を保ちつつ最も軽くするにはどうすればよいか、という問題は工学的に意味のある最適化問題です。 ところが、競合関係にある独立な要素から成り、数理モデル全体の詳細が把握できないような、極めて多数の独立したエージェントからなる分散的な状況においては、 数理的基礎に基づいた最適化シミュレーションの方法論が未だに確立されていません。

 その例として、各企業で独立に開発されたモジュール(部品)を組み合わせて作られる工学システムの設計・解析のシミュレーションのような分散的システムは、 サブシステム(エージェントやモジュール)の内部構造が外から分からないようなブラックボックスになっているので、外部からの入力に対する答えのみしか把握できず、統括できないという問題点があります。 このような、その場限りのシミュレーションに頼らざるを得ない現在の技術では、最適化シミュレーションのプロジェクトごとに巨大な数学モデルが構築されるものの、それが十分に利用されず、結局、莫大な費用が浪費される危険性が高いのです。 知的資産を社会に蓄積していくためには、確固たる数理的基礎をもった分散最適化シミュレーション技術を確立することが求められています。

 戦略的創造研究推進事業のさきがけ「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」領域における室田教授のプロジェクトでは、連続変数の最適化を行うための凸解析と、 離散変数の最適化を行うためのマトロイド理論を融合した最適化方法、すなわち離散凸解析の理論を手掛かりとして、連続系と離散系の数学的取り扱いの統合手法の基礎を確立しました。

 また、同じ連続系でも、分布定数系(無限自由度系)と集中定数系(有限自由度系)とでは、 従来の最適化アルゴリズムには不必要な乖離があることが指摘されていました。そこで本プロジェクトでは凸解析の視点を積極的・意識的に用いることによって、 分布定数系と集中定数系を包括する連続系、さらには、離散系をも包括する複合システムのシミュレーション技術の基礎を確立しました。 本研究の成果は、競合的にエージェントを含む地球規模の環境問題や独立に開発された多数のコンポーネントから成る工学・医療システムなどの広範なシミュレーション問題を取り扱うためのプラットフォームを与えるために有効であり、 実用ソフトウェア開発の活性化、効率化、信頼性向上に貢献します。