マイクロ流体デバイス開発のための流体―構造連成共振現象逆解析
産業技術総合研究所 先進製造プロセス研究部門
マイクロ熱流体研究グループ 松本純一 研究員 
 
 近年、微細加工技術の進歩により数μm〜数mmサイズのマイクロマシンの開発が盛んに行われ、 その関連技術の発展は急速に進んでいます。マイクロマシンは、スケールが小さいことから、体内埋め込み用医療機器、 高性能で小型な産業機器等の開発が可能となる機械技術として医療・情報産業からの需要が高まっており、その開発は産業界にとって重要です。

 マイクロマシンの技術開発の中では、化学工学の分野を中心に、 特にポンプ・バルブといったマイクロ流体デバイスの開発が関心を集めています。マイクロ流体デバイス内部の流体(液体)挙動は通常スケールの流体とは異なり、 微小スケールの影響で粘性力が極端に卓越した独特な流れ現象を起こします。 このような現象下では流れが遅く流体の挙動が緩やかなため一般的に運動効率がさほど上がりません。 より高性能なマイクロ流体デバイスを開発するために運動効率の高効率化が求められています。

 戦略的創造研究推進事業のさきがけ「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」領域における松本研究員のプロジェクトでは、 マイクロ流体デバイスの運動効率の高効率化において、流体のもつ固有の振動数(流れの周期)と構造物のもつ固有の振動数(振動の周期)とが 互いに干渉し合って大きな振動を起こす同期現象(流体−構造連成の共振現象)を利用し、アクチュエータ(電圧素子部分)の小さな力を、いかに大きなエネルギーに変換して 流体に作用させられるかが重要なポイントになると考えました。そして、コンピュータを用いた三次元実モデルの数値シミュレーションにより、共振をうまく利用して小さな力のアクチュエータ源で構造物を駆動させ、 流体を大きく動かすことを可能にする共振制御解析手法の確立を目指しました。

 大きな共振振動を発生させるためには、単純に構造物の振動量を大きくするだけでは効果が得られません。 流体と構造物の持つ固有の振動数(固有値)を近い値となるようにコントロールしなければならないのです。 しかし、共振振動などに代表される流体−構造連成問題に特有な固有値に関する現象は非常に複雑なので、 この現象をコンピュータ上に再現し、その計算結果を用いて逆解析を行う解析技術は難易度が高く、未だに解決できません。

 この問題を解決するために、本プロジェクトでは複雑な固有値を制御することに着目し、共振制御解析を行い、 大規模並列三次元解析にてその有効性を検証しました。複雑な連成挙動を数値解析手法にて計算するためには、精度がよく安定であり、 流体―構造連成の正確な相互作用を表現でき、高効率な大規模解析への適用が可能な手法が必要となります。

 本プロジェクトではこれらの条件を全て満たす新しい流体解析方法である、 直交基底気泡関数要素安定化方法を用いた強連成手法を開発しました。この手法により、高精度を保ちながら計算効率が高く、 省メモリ化を実現した大規模並列解析を行うことができるようになりました。この解法を軸として、流体―構造連成問題に取り組んだ結果、 64プロセッサを搭載したPCクラスタを使用して、数千万自由度、固定値解析では一億自由度、 逆解析では数百万自由度の計算を可能とするプログラムの開発に成功しました。 これらの研究は近い将来のマイクロ流体デバイスの高機能化、小型化に資する数値解析技術の開発に大いに役立ちます。