トピックス
 

2007年3月30日

三期生研究報告書
(2003年10月〜2007年3月)
 
1. はじめに
(360 KB)
2. 目次
( 206 KB)
3. 磯部寛之
(540 KB)
4. 大谷啓太
(943 KB)
5. 大友明
(890 KB)
6. 大野雄高
(353 KB)
7. 高村禅
(603 KB)
8. 塚越一仁
(334 KB)
9. 舟窪浩
(6,669 KB)
10. 座談会
(276KB)
 

2007年3月5日

松田一成研究者
平成18年度丸文研究奨励賞を受賞
 

「ナノと物性」領域の松田一成研究者財団法人丸文研究交流財団平成18年度丸文研究奨励賞を受賞しました。

【研究課題名】
ナノイメージング分光の開拓とそれを用いた半導体量子構造の波動関数マッピングに関する研究

【研究概要】
 今日ナノサイエンスの急速な進展に伴い、ナノメートルスケールの解像度をもつ光学顕微鏡の実現が切望されています。本研究では、近接場光学顕微鏡の解像度を数10ナノメートルレベルまで飛躍的に向上させ、ナノイメージング分光という新しい手法を開発しました。これは、極限まで小さいサイズをもつナノの光を実現したことを意味します。さらにこの技術を利用し、従来難しいと考えられていた“半導体量子構造中の波動関数を実空間上で直接見る“ことを可能にしました。これは、今後新しい量子光デバイスの設計・作製に大きく貢献する成果であるとともに、ここで開拓した新しい手法は、物理分野に限らず化学・生物などの幅広い研究分野で活用されることが期待されます。
  本賞は、科学技術の進歩ならびに次世代の産業創出に資する創造的産業技術の向上に対して最も貢献が期待される顕著な研究業績を表彰するものです。

 
 

2007年3月5日

塚越一仁研究者
平成18年度丸文学術賞を受賞
 

「ナノと物性」領域の塚越一仁研究者財団法人丸文研究交流財団平成18年度丸文学術賞を受賞しました。

【研究課題名】
ナノスケール制御による次世代エレクトロニクス開発と有機エレクトロニスクへの応用展開

【研究概要】
 ナノスケールの加工技術と評価技術を構築することで、ナノスケール物質の特性を引き出すことが可能となります。例えば、直径が1nmにも満たないフラーレンに電極を作製すると、小さなユニット固有の電気特性を引き出せます。このナノユニット伝導の追及は、未来の分子スケールエレクトロニクスへの新しい展開を拓くための基礎となるだけでなく、得られた知見や技術を近未来エレクトロニクス実現のための技術開発に展開することもできます。塚越研究者は微細加工技術を追及し、ナノスケールカーボン材料の電気伝導においてスピン制御伝導を見出しました。さらにナノカーボン研究での電極界面の伝導制御技術を発展させて、フレキシブルエレクトロニクスの鍵となる有機薄膜トランジスタの特性制御のための界面伝導を探求しました。これらで開拓されたナノ材料基礎探求およびデバイス応用の基礎技術は、今後のナノサイエンスおよびナノテクノロジー、さらにプラスチックエレクトロニクスの発展の起点と位置づけられます。


本賞は、科学技術の進歩ならびに次世代の産業創出に資する創造的産業技術の向上に対して最も貢献が期待される顕著な研究業績を表彰するものです。

 
 

2006年8月1日

二期生研究報告書
(2002年11月〜2006年3月)
 
1. はじめに
(293 KB)
2. 目次
( 17 KB)
3. Wilfred van der Wiel
(503 KB)
4. 岩井伸一郎
(767 KB)
5. 大岩顕
(571 KB)
6. 尾上順
(475 KB)
7. 近藤高志
(647 KB)
8. 須田淳
(704 KB)
9. 田中健太郎
(1,901 KB)
10. 町田友樹
(705 KB)
11. 松田一成
(670 KB)
12. 山本雅哉
(380 KB)
13. 湯浅新治
(630 KB)
14. 座談会
(6,112 KB)
 

2006年4月24日

湯浅新治研究者
東京テクノ・フォーラム21平成18年度ゴールド・メダル賞を受賞
 

「ナノと物性」領域の湯浅新治研究者東京テクノ・フォーラム21平成18年度ゴールド・メダル賞を受賞しました。

【受賞テーマ】
次世代メモリ・MRAMの実用化に道を拓くスピントロニクス研究

【研究概要】
 湯浅新治研究者は酸化マグネシウム(MgO)をトンネル障壁を用いた磁気トンネル素子を開発し、従来の数倍という高性能(磁気抵抗効果)を室温で実現するとともに、製造装置メーカーと共同で同素子の量産化技術の開発にも成功しました。この成果は、次世代不揮発メモリの有力候補である磁気抵抗メモリMRAMの高集積化に道を拓いただけでなく、超高記録密度ハードディスクの読み出し磁気ヘッドへの応用が可能となりました。既に主要なデバイスメーカーが同素子を用いた製品開発を開始しており、この技術が世界的な主流になるとともに、今後数年以内に製品が世に出るものと期待されています。

 
 

2006年4月18日

大谷啓太研究者
平成18年度文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞
 

「ナノと物性」領域の大谷啓太研究者平成18年度文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞しました。

【業績名】
半導体工学分野における量子カスケードレーザの研究

【業績概要】
 量子カスケードレーザは、発光層をカスケード状に並べた構造を用いてフォトンエネルギの小さな波長領域においても高出力発振を可能とした半導体レーザです。しかしこれまで材料の性能のために閾値電流密度が高いという問題がありました。
 大谷研究者はこのレーザの極限の性能が構成する材料によって決まることを見出し、消費電力及び動作波長領域の点で優れているナロウギャップ半導体InAsに注目しました。さらに結晶成長中に界面に形成される界面ボンドをコントロールして格子歪を補償する技術を開発し、InAs量子カスケードレーザを世界に先駆けて実現するとともに低閾値電流密度発振に成功しました。
 InAs量子カスケードレーザは、中赤外から遠赤外領域における高性能小型光源として環境モニタリングや生体イメージング、有毒化学物質検出などへの応用展開が期待されています。
 本賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者におくられるものです。

 
 

2006年4月18日

松田一成研究者
平成18年度文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞
 

「ナノと物性」領域の松田一成研究者平成18年度文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞しました。

【業績名】
ナノ光学分野における量子構造のナノイメージング分光の研究

【業績概要】
 現在、ナノスケールの解像度をもつ光学顕微鏡の実現が切望されています。近接場光学顕微鏡はそのポテンシャルをもちながら、現状では心臓部分であるプローブ性能が悪く、イメージング測定と合わせ分光測定を行う場合、その解像度は典型的には100-150nmと十分ではありません。松田研究者は、二段テーパー形状プローブや押し付け法による開口作製技術を開拓し、解像度を30nm まで向上させイメージング分光を行うことに成功しました。さらに、このような極微小なナノの光を実現することで、半導体量子構造中の電子―正孔対の量子状態(波動関数)を実空間上で直接イメージングできることを示しました。本成果は、量子情報処理などの基礎となる新しい量子光デバイスの設計・作製に貢献する成果であり、学術的にはナノイメージング分光という新しい手法を開拓し、ナノスケール光学(フォトニクス)の新領域を切り開いたと位置づけられます。
 本賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者におくられるものです。

 
 

2006年4月18日

田中健太郎研究者
平成18年度文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞
 

「ナノと物性」領域の田中健太郎研究者平成18年度文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞しました。

【業績名】
超分子化学分野における錯体型人工DNA分子システムの研究

【業績概要】
 原子や分子をデザインした空間配置で集積化する方法論の確立はナノサイエンス、ナノテクノロジーの発展に必須です。遺伝情報を保存している生体高分子であるDNAの骨格構造が、ビルディングブロックの配列化に適した分子構造である点に着目し、本研究では、DNA核酸塩基間の水素結合を基にした二重鎖の分子認識や会合力を金属錯形成に置き換えた人工DNAを構築しました。金属錯体型人工DNAが金属錯体を形成しながら二重鎖を形成することを利用し、(1) 人工DNAが金属錯体の機能を精密集積化する場になること、(2) 金属錯体型塩基対形成によってDNAの高次構造を制御できること、を見いだしました。これらの研究成果は、新しい分子素子構築や遺伝子発現制御などにつながり、機能性材料や医薬など幅広い分野での展開が期待されます。
 本賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者におくられるものです。

 
 

2006年3月6日

湯浅新治研究者
平成17年度丸文学術賞を受賞
 

「ナノと物性」領域の湯浅新治研究者財団法人丸文研究交流財団平成17年度丸文学術賞を受賞しました。

【研究課題名】
磁気トンネル接合素子のトンネル磁気抵抗効果の研究

【受賞理由】
 本賞は、エレクトロニクスと情報通信(IT)の諸領域で活躍する40歳以下の若手研究者に授与されるものです。湯浅氏は、極薄の絶縁膜の上下に磁性体を配した磁気センター素子の研究を進め、良質のMgOを絶縁層とすることで、磁気感度が飛躍的に高まることを示し、磁気ディスクや新型磁気メモリーに高性能化の道を開きました。

 
 

2006年2月13日

尾上順研究者
平成17年度手島記念研究賞を受賞
 

「ナノと物性」領域の尾上順研究者財団法人手島工業教育資金団平成17年度手島記念研究賞を受賞しました。

【受賞論文】
J. Onoe, T. Nakayama, M. Aono, and T. Hara: “Structural and electrical properties of an electron-beam-irradiated C film”, Appl. Phys. Lett. 82, 595-597 (2003).

【論文概要】
 フラーレンC薄膜に電子線(加速電圧3kV)を照射しますと、C分子同士が融合反応を起こし、赤外分光及び理論解析から図1に示すようなピーナッツ型構造をもつ新しいナノカーボンポリマーが生成することを発見しました。さらに、四端子測定を用いて、室温・大気下でこのナノカーボンの電気伝導特性を調べた結果、電流-電圧特性がオーミックな金属的性質を示し、比抵抗も1-10 cmと照射前のフラーレン薄膜のそれ(10ー10cm)に比べて劇的に減少することを見出しました。電子線は微細加工に利用されていることから、今回発見した導電性ナノカーボンはナノデバイスへの応用が期待できます。また、負の曲率をもつナノカーボンはトポロジー分野でシュバルツ構造に属していることから、本研究はトポロジーと物性科学の新しい学際領域を切り開く成果と見なすことができます。

 
 
図1 負の曲率をもつ新しいトポロジー構造のピーナッツ型ナノカーボンの構造図
 
本賞は理工系大学における研究を奨励するため、特に優れた研究業績をあげた大学関係者に対しおくられるものです。
 
 

2005年11月28日

舟窪浩研究者
2005 MRS Fall Meeting Poster Award を受賞
 

「ナノと物性」領域の舟窪浩研究者の研究グループは2005 MRS Fall Meeting Poster Awardを受賞しました。

【受賞ポスター発表】
Growth Mechanism of c-Axis-Oriented Epitaxial Bismuth Layer-Structured Dielectric films
Kenji Takahashi , Muneyasu Suzuki , Mamoru Yoshimoto and Hiroshi Funakubo

【ポスター発表概要】
 自然超格子構造を有するビスマス層状誘電体のc軸配向薄膜が、高い誘電率と絶縁性を同時に示す“サイズ効果フリー特性”を持つことに着目し、成長機構を検討しました。その結果、この膜が完全な2次元成長をしており、リーク電流が大きくなることから従来問題とされてきた大きな凹凸がまったく観察されないという“自己平滑化機構”を持つことを初めて見出しました。このことは、成長させる基板を選ぶことなくフラットな膜が得られることを意味しており、この膜の高容量キャパシタとしての非常に高い可能性を示唆しています。

 
 

2005年11月1日

古薗勉研究者
2005年度日本人工臓器学会論文賞を受賞
 

「ナノと物性」領域の古薗勉研究者は2005年度日本人工臓器学会論文賞を受賞しました。

【受賞論文】
Nano-Scaled Hydroxyapatite/Polymer Composite IV.Fabrication and Cell Adhesion of a 3D Scaffold Made of Composite Material with a Silk Fibroin Substrate to Develop a Percutaneous Device T. Furuzono, S. Yasuda, T. Kimura, S. Kyotani, J. Tanaka and A. Kishida J. Artif. Organs, 7. 137-144(2004)

【論文概要】
 独自に合成したロッド状焼成ハイドロキシアパタイト(HAp)ナノ粒子をシルクフィブロイン繊維(長さ約100mm)に共有結合により被覆した新しい無機・有機複合材料を創出しました。また本複合繊維を用いて三次元構造体を作製し、この3D構造体から新規な経皮デバイスの加工まで展開しています。当該デバイスは高い細胞接着性・増殖性を示し、またこの接着メカニズムについても検討を加えております。  当該論文において、セラミックスの硬い・脆いといった欠点を克服した画期的な複合材料製造技術について発表されており、さらにこの柔軟なセラミックス繊維を用いて軟組織適合性経皮デバイス製造法まで展開したことにより、日本人工臓器学会論文賞に値すると評価されました。

 
 

2005年9月20日

湯浅新冶研究者
平成17年度日本応用磁気学会論文賞を受賞
 

「ナノと物性」領域の湯浅新冶研究者は平成17年度日本応用磁気学会論文賞を受賞しました。

【受賞論文】
「MgO(001)トンネル障壁界面Fe(001)単原子層の磁気状態:
X線吸収及びX線磁気円二色性による研究」
日本応用磁気学会誌、29巻4号、pp.463〜467(2005)
著者:齋藤真司、三代川廣野、片山利一、湯浅新治、神野友之、花島幸司、齋藤敏明、
   鈴木義茂、間宮一敏、小出常晴

【論文概要】
本論文では、大きな磁気抵抗(MR)比を示すFe(001)/MgO(001)/Fe(001)系の磁気トンネル接合(MTJ)でのMgO/Fe界面におけるFe 1原子層(ML)の電子状態と磁気状態を評価するために、MgOに接するFe 1MLとFe 2MLの試料を作製して、FeのL2,3吸収端XASおよびXMCDスペクトル測定を行い、Fe 1MLが酸化していないことを見いだしました。この結果は、大きなMR比を得るには電極表面の酸化を防止することが必要な条件であることを示唆しています。本論文の成果は、MRAMおよび磁気センスヘッドの性能を向上させる上で重要な知見を提供するものであり、波及効果は極めて高く、応用磁気の学理発展に寄与するものと評価されました。

 
 

2005年9月7日

湯浅新冶研究者
2005年度(第27回)応用物理学会論文賞JJAP論文賞を受賞
 

「ナノと物性」領域の湯浅新冶研究者は2005年度(第27回)応用物理学会論文賞JJAP論文賞を受賞しました。

【受賞論文】
High Tunnel Magnetoresistance at Room Temperature in Fully Epitaxial Fe/MgO/Fe Tunnel Junctions due to Coherent Spin-Polarized Tunneling Shinji YUASA, Akio FUKUSHIMA, Taro NAGAHAMA, Koji ANDO and Yoshishige SUZUKI
Jpn. J. Appl. Phys. Vol.43 (2004) pp.L588-L590, Part 2, No.4B

【受賞理由】
 1995年にFe/アモルファスAl-O/Feの三層構造からなる磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction: MTJ)において室温で18%のTMR(Tunnel Magnetoresistance)効果が報告されました。これを契機に不揮発性メモリ(Magnetoresistive Random Access Memory: MRAM)の開発が始まり、現在数メガビットのMRAMが入手可能となっています。しかしながらMRAMをさらに大容量化させることの困難さも明らかになってきました。ここ10年間の研究により磁気抵抗(MR)比が室温で約70%まで向上したものの、強磁性電極のスピン分極率が決める理論限界とされるこの値をもってしても大容量MRAMの実現には不十分だからです。2001年にこの限界を超える新構造のMTJが理論的観点から提案されました。トンネル障壁に単結晶MgOを用いて、強磁性電極中の特定の対称性を持つ電子のみをトンネルさせるというアイデアです。しかしAl-O系MTJに比べて低いMR比しか観測されないという実験報告が相次ぎ、この論文が書かれた当時はMgO系MTJの実現は困難とする見方が支配的となっていました。
本論文は、MgO系MTJに対する懐疑的な状況を根底から覆した画期的なものです。受賞者らは高度なMTJ作製技術を駆使して、完全エピタキシャルFe/MgO/Fe構造のMTJを作製し、世界で初めてAl-O系MTJを越える室温で88%のMR人、従来の約2倍の380mVという出力電圧を実証しました。MgOと強磁性電極間の界面の制御がポイントでした。
この論文の結果は、その後さらに発展させられ、室温で200%を大きく越えるMR比、MgO系MTJの量産技術、磁気ヘッド用の低抵抗MTJ、コヒーレント・トンネル過程の実証などの数多くの成果が受賞者らにより次々と報告されることになりましたが、本論文はその出発点であるとともに、世界のMTJ研究の転換点になったという特筆すべき意義を持つものであり、JJAP論文賞にふさわしいとの評価を得ました。

 
 

2005年8月1日

一期生研究報告書
(2001年12月〜2005年3月)
 
1. はじめに
(251 KB)
2. 目次
( 84 KB)
3. 市田正夫
(336 KB)
4. 王正明
(2,570 KB)
5. 古賀貴亮
(4,308 KB)
6. 菅原聡
(1,546 KB)
7. 竹内淳
(536 KB)
8. 田中秀和
(3,844 KB)
9. 戸田泰則
(1,848 KB)
10. 古薗勉
(488 KB)
11. 水野清義
(1,962 KB)
12. 渡辺正裕
(2,039 KB)
13. 座談会
(1,699 KB)
 

2005年4月25日

湯浅新冶研究者
37回新技術開発財団市村学術賞を受賞
 

「ナノと物性」領域の湯浅新冶研究者37回新技術開発財団市村学術賞(貢献賞)を受賞しました。

【研究テーマ名】
超Gbit-MRAMのための高性能TMR素子の開発

【研究概要】
 厚さ1~2ナノメートル(nm)の非常に薄い絶縁体(トンネル障壁)を2枚の強磁性金属の電極で挟んだ素子をトンネル磁気抵抗素子(TMR素子)といいます。2つの強磁性電極の磁石の向きが反平行(“0”に相当)なときの素子の電気抵抗(RA)は、平行(“1”に相当)なときの電気抵抗(RP)より高い値を示し、この現象はトンネル磁気抵抗効果(TMR効果)と呼ばれています。この電気抵抗が変化する割合を百分率で表した「磁気抵抗比(≡ (RA−RP)÷RP)」が素子の性能指数となります。TMR素子は情報を不揮発(電源を切っても記憶が消えない性質)に記憶できるため、これを用いた新しい不揮発性メモリMRAMの研究開発が世界規模で精力的に行われています。このように固体中の電子スピンを利用した新しいエレクトロニクス分野は「スピントロニクス」と呼ばれ、急速な発展を見せています。
 MRAMは将来的には不揮発・高速・大容量といった理想的な性質を兼ね備えた究極のメモリになると期待されていますが、大容量化が最大の課題となっています。アモルファス酸化アルミ(Al-O)をトンネル障壁に用いた従来型のTMR素子では磁気抵抗比が70%程度(室温)しかないことが、MRAM大容量化の障害となっていました。大容量MRAMを実現するためには、この倍以上の磁気抵抗比が必要となります。受賞者は、Al-Oに代わる画期的なトンネル障壁材料として酸化マグネシウム(MgO)に着目しました。アモルファスAl-Oと異なりMgOは結晶性物質(原子が規則的に配列した物質)であり、電流を運ぶトンネル電子が散乱されにくいため巨大な磁気抵抗が得られると理論的に予測されてきましたが、Al-Oを超える性能は実現されていませんでした。湯浅研究者は超高真空成膜技術を駆使して高品質の結晶MgOトンネル障壁を持つ新型TMR素子を作製し、従来の2倍を超える巨大な磁気抵抗を初めて室温で実現しました。さらに製造装置メーカーと共同で、この新型TMR素子を大面積基板上に量産するための製造プロセスの開発にも成功しました。MgOトンネル障壁を用いた高性能TMR素子は、次世代の大容量MRAMや超高密度ハードディスク磁気ヘッドを実現するための中核技術になると期待されています。
 本賞は、大学ならびに研究機関で行われた研究のうち、学術分野の進展に貢献し、実用化の可能性のある研究に功績のあった技術研究者におくられるものです。

 

2005年4月20日

湯浅新冶研究者
平成17年度文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞
 

「ナノと物性」領域の湯浅新冶研究者平成17年度文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞しました。

【業績名】
単結晶TMR素子の開発とコヒーレントTMR効果の研究

【業績概要】
 非常に薄い絶縁体(トンネル障壁)を2枚の強磁性電極で挟んだ「トンネル磁気抵抗素子(TMR素子)」を用いた新しい不揮発性メモリMRAMの研究開発が、世界規模で精力的に行われています。MRAMは将来的には不揮発・高速・大容量といった理想的な性質を兼ね備えた究極のメモリになると期待されていますが、現状ではTMR素子の出力が小さいために大容量化が困難な状況にあります。
 湯浅研究者は新材料の酸化マグネシウムをトンネル障壁に用いた新型TMR素子を開発し、従来の3倍を超える巨大な出力性能を実現するとともに、その物理的な機構の解明にも成功しました。新型の高性能TMR素子は、次世代の大容量MRAMや超高密度ハードディスクを実現するための中核技術として、高度情報化社会の基盤となることが期待されます。
 本賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者におくられるものです。

 
 

2005年3月7日

大谷啓太研究者
丸文研究交流財団より16年度丸文研究奨励賞を受賞
 

「ナノと物性」領域の大谷啓太研究者は2005年3月7日(月)丸文研究交流財団より16年度丸文研究奨励賞を受賞しました。

【受賞対象研究課題】
「InAs量子カスケードレーザの研究」

【研究業績概要】
 量子カスケードレーザは活性領域のバンド構造を制御したレーザで、構造の設計次第で中赤外からテラヘルツ帯までの広い波長範囲の光を出すことが可能です。本研究では構造設計だけでなく材料設計の観点からも検討を進め、狭ギャップ半導体InAsを用いれば低消費電力化が可能であることを理論的に示し、又1000層以上の超格子構造における界面ボンドの組み合わせを制御することによって世界に先駆けてInAs量子カスケードレーザを実現しました。小型、高性能な長波長光源は、近年有毒ガスを検出するセンサや生体・医療イメージング光源などへの応用が期待されています。
  本賞は、科学技術の進歩ならびに次世代の産業創出に資する創造的産業技術の向上に対して将来的に貢献が期待される研究業績、または成果を挙げつつある研究を表彰するものです。

 
 

2004年11月15日

磯部寛之研究者
フラーレン・ナノチューブ研究会第1回大澤賞受賞決定
 

「ナノと物性」領域の磯部寛之研究者フラーレン・ナノチューブ研究会第1回大澤賞の受賞者に決定しました。 授賞式は2005年1月8日(土)第28回フラーレン・ナノチューブ総合シンポジウム会場にて行われます。

【受賞対象研究発表】
「両親媒性フラーレン集合体による遺伝子導入」

【研究発表概要】
 フラーレンは近年大量工業生産が開始され、さまざまな分野での応用が期待されるナノ分子です。なかでもフラーレンを利用した生体機能分子の開発には、大きな期待が寄せられています。磯部寛之研究者はフラーレンを官能基化することで、遺伝子導入能をもつ分子集合体の構築に成功しました。遺伝子の機能解析の技術や、さらに今後の発展が期待される遺伝子治療における利用が期待されています。
  本賞は、フラーレン及びその関連物質についての理論・実験・応用開発に関する発表に対して若手研究者におくられるものです。

 
 

2004年9月22日

湯浅新冶研究者
平成16年度 日本応用磁気学会優秀研究賞を受賞
 

「ナノと物性」領域の湯浅新冶研究者は平成16年度日本応用磁気学会優秀研究賞を受賞しました。

【受賞研究テーマ名】
「単結晶磁気トンネル接合素子の開発とコヒーレントTMR効果の実現」

 磁気トンネル接合素子のTMR効果は、不揮発性磁気メモリ(MRAM)や高感度磁気センサーの中核技術となっています。従来の磁気トンネル素子は多結晶の電極層とアモルファスAl-Oトンネル障壁層から構成されており、電子のトンネル過程は散乱の多い拡散的な伝導モデルで説明されてきました。受賞者は、高品質の単結晶電極層と原子レベルで平坦な界面を作製することによって、電極内と界面における電子散乱を画期的に低減することに成功しました。この結果、トンネル電子の運動量保存や共鳴トンネル効果などを、スピン偏極した系で初めて実証しました。 さらに、トンネル障壁も単結晶化した全単結晶トンネル素子を作製し、トンネル電子の波動関数の対称性が保存されるコヒーレントなTMR効果を実現しました。これによって、室温で磁気抵抗比88%という、従来素子の特性を凌駕する巨大なTMR効果を実現しました。この巨大なTMR効果を示すトンネル素子は、次世代の高集積MRAMの基本技術になることが期待されています。

 
 

2004年9月1日

竹内淳研究者
2004年度(第26回) 応用物理学会論文賞 JJAP論文賞を受賞
 

「ナノと物性」領域の竹内淳研究者は2004年度(第26回)応用物理学会論文賞JJAP論文賞を受賞しました。

【受賞論文】
Electron Spin Flip by Antiferromagnetic Coupling between Semiconductor Quantum Dots
A. Tackeuchi, T. Kuroda, Y. Nakata, M. Murayama, T. Kitamura and N. Yokoyama
Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 42 (2003) pp.4278-4281,Part 1, No. 7A, 15 July 2003.

【論文概要】
 半導体中の電子スピンを操ることが可能になれば、新しい自由度が一つ手に入ります。3次元的に電子を閉じ込めるナノ構造である量子ドットに電子を注入してコヒーレンス時間を長くし、スピンをデジタル情報の0と1に対応させれば、情報処理の可能性が生まれます。スイスのD. Lossらは、隣接するドットのスピンどうしで交換相互作用を働かせることにより量子コンピューティングを実現できると提案し、大きな注目を浴びています。しかし、これまでドット間の交換相互作用は実験的に検証されていませんでした。
  本論文は、量子ドット間の交換相互作用の働きによって反強磁性結合が生じ、スピンが反転する過程を直接的に観測した画期的な実験結果です。高い結晶成長技術により縦方向に量子力学的に結合したInAlAs/InAs半導体量子ドットの作製に成功し、加えて高度な時間分解測定技術により、スピンが80ps前後で反転する過程を実測し、反強磁性秩序が50-80K以下の温度で存在することを明らかにしています。今後の量子情報処理への応用と、半導体の基礎物理学の研究の両面において極めて重要な研究報告であり、JJAP論文賞として評価されました。

 
 

2004年3月27日

磯部寛之研究者
平成15年度 第53回日本化学会進歩賞を受賞
 

「ナノと物性」領域の磯部寛之研究者は、平成16年3月27日平成15年度第53回日本化学会進歩賞を受賞しました。

【受賞研究業績】
両親媒性フラーレンの分子設計とその集合体機能

【研究業績概要】
 疎水性と親水性、この相反する性質を併せ持つ分子は両親媒性分子と呼ばれ、水中で自己組織化能を獲得し、分子集合体を形成します。磯部寛之研究者は、[60]フラーレン(C60)が大きな球状炭素骨格をもつことに着目し、これを疎水基としてもつ両親媒性分子の創製と新機能を開拓してきました。独自の反応開発により、剛直な疎水基をもつ両親媒性分子という斬新な分子設計を可能とし、直鎖状の柔軟な炭化水素長鎖を疎水基とした従来の両親媒性分子には実現できない機能をもつ分子集合体の開発に成功しています。  本賞は、化学の基礎または応用に関する優秀な研究業績を挙げた若手研究者におくられるものです。

 


 

2004年3月16日

松田一成研究者
平成15年度 財団法人 光科学技術研究振興財団 研究表彰を受賞
 

「ナノと物性」領域の松田一成研究者は平成15年度財団法人光科学技術研究振興財団 研究表彰を受賞しました。

本賞は平成15年度募集課題(光科学の未知領域の研究―とくに光の本質について)において、光科学に関する基礎的な研究又は光科学技術の向上に役立つ研究で、その内容が独創的であり、研究の成果が科学技術と産業経済の発展に寄与する可能性のある研究を行った研究者に送られるものです。

【受賞論文】
Near-field Optical Mapping of Exciton Wave Function in a GaAs quantum dot
( GaAs量子ドットにおける励起子波動関数の近接場光学マッピング)
K. Matsuda , T. Saiki, S. Nomura, M. Mihara, Y. Aoyagi, S. Nair, and T. Takagahara
(Physical Review Letters 91, (2003) 177401-1-17401-4)

  近接場光学顕微鏡の空間分解能を従来の 150nm(λ/5)から30nm (λ/30)まで向上させ、またよりサイズの大きい良質な量子ドット構造を作製することによって、 初めて量子ドット中に閉じ込められた励起子の光による波動関数の実空間観測に成功しました。

 
「ナノと物性」領域研究最前線
2000年3月
半導体ナノ構造体中に現れる新スピン物性の制御と応用
独立行政法人 科学技術振興機構 さきがけ研究者
NTT物性科学基礎研究所 機能物質科学研究部 客員研究員
古賀 貴亮
 
電子は、電荷の自由度と共にスピンの自由度をもっています。これまでのエレクトロニクスでは、半導体中で電子の電荷自由度のみを利用して様々なデバイスを実現してきました。私の携わっている半導体スピントロニクス(スピンを利用したエレクトロニクス、スピンエレクトロニクス)という研究分野では、これまでのエレクトロニクスでは利用されてこなかったスピンの自由度を利用した新しいデバイスを開発することを目的としています。

半導体スピントロニクスの分野で、私がさきがけ研究で特に目指すのが、半導体中の伝導電子スピンのゲート電圧による制御です。微小な磁石ともいえる電子スピンは従来、外部からかける磁場によって制御するのが主流の方法でした。電子スピンを、磁場ではなく(ゲート電圧により制御可能な)電場により制御できることは以前より提案されていましたが、本さきがけ研究の成果として、そのような現象がより一層明確になり、理解も進んできました。将来的には、このような研究成果を生かして、スピンの向きが異なる電子を分離するスピンフィルターを磁性材料を一切用いずに作製するという世界初の試みにも挑んでいきたいと思います。[参考文献 日経先端技術30号(2003年1月27日発行)4頁]
 
 
図:磁性材料を一切用いずに実現可能なスピンフィルターのポテンシャル図(左)とそのスピンフィルターの理論的なI-V特性(右)
 
 
 
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