2007年4月、T.Corbitt達により、一般相対性理論がその存在を予測する「重力波」という極めて微小な時空の歪みを直接検出するために研究されてきた、レーザー干渉計を用いた極限的微小変位計測技術を応用した「新しい方式」のOptical CoolingとTrappingが提案され、かつ、それが「超巨視的物体」に対しても、将来的に可能であることが示された。この方法では、レーザー輻射圧による力が優勢な光共振器系(単に、鏡で構成される Fabry-Perot共振器)に特異的に出現する「光ばね力(位置比例力)」と「光粘性力(速度比例力)」を利用し、その「光ばね共振周波数」でのグラムスケール鏡を含む力学系の共振振幅のOptical Cooling とDampingを行う。この「光バネ力学系」は、例えば、数Wクラスのレーザーが入射された、数千程度のフィネスを持つ、少なくとも片方の鏡の質量が1グラム程度である「Detuned Fabry-Perot共振器」によって実現される。「Detuned」とは、Fabry-Perot共振器を、最も共振する位置から、鏡の位置やレーザー周波数を意図的にシフトさせて「半共振」状態にするという意味である(図1)。この状態では、鏡に対し、その輻射圧による「光ばね力(位置比例力)」が働くことは容易に想像できるため、簡単にグラムスケール鏡をOptical Trappingできるかに思えた。しかし、近年、「光粘性力(速度比例力)」も存在することが発見され、かつ、それは、性質が悪いことに、「光バネ力」が「正バネ」の時、「光粘性力」は「速度加速力」、「光バネ力」が「反バネ」の時、「光粘性力」は「速度減速力」となり、究極的には、鏡の持つ「熱振動」が振動励起源として残存するために、このままではTrappingもCoolingもできない。その問題に対し、一つのレーザービームによってDetuned共振器内で発生させている「光バネ力」と「光粘性力」との比が、そのDetuneされている量によって異なることに着目し、二本のレーザービームを逆向きに、かつ量を違えてDetuneすることにより、合成された「光バネ力」を「正バネ力」に維持しながら、合成された「光粘性力」を「速度減速力」にすることが可能となり(図2)、「光ばね共振周波数」でのグラムスケール鏡を含む力学系の共振振幅の Optical Cooling とDampingの実現された。もし、その共振振幅を、さらに10-18 [m rms]程度まで下げることができれば、そのモードの実効温度を2桁マイクロケルビンまで下げ、結果、モードの量子数で1000付近を達成することが可能となる。本研究では、まずこの段階の実現を目指している。将来的には、冷凍機などを使用した古典的な冷却技術などにより、古典的な熱雑音によって制限されているその共振振幅をさらに低減し、現在、世界各地で建設されている重力波望遠鏡ですでに達成されている10-19 [m/rHz] 台に突入できれば、その実行温度は1桁マイクロケルビン、量子数も1〜2桁程度になり、「グラムスケールの物体」の量子性を顕在化させられるかもしれない。
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