量子干渉をkeyとする共鳴三準位系の光学過程は、電磁誘起透明化(EIT)に始まり、超低速光伝搬や単一光子レベルでの量子コヒーレンス操作など、多くの魅力的な現象を生み出しました。他方、同等の三準位系を遠共鳴に拡張すると、広帯域サイドバンド光の同軸発生や超短パルス光の生成など、光源としての様々な応用が開けてきます。
このプロジェクトは、遠共鳴三準位系を用いて、完全にコヒーレントに振動/回転する高密度(〜1020cm-3)の分子集団を生成し、それを超高周波(数GHz〜数百 THz)の光変調器として用いることで、実用レベルの超高繰り返し超短パルス光列を発生させることを目的としています。我々はこの原理に基づいて、これまでに10 THz繰り返し、パルス幅12 fs、ピーク強度> 2 MWの超短パルス光列の発生を確立しています。このプロジェクトでは、これをさらに発展させ、“キャリアエンベロープオフセット及びキャリアエンベロープフェーズが固定された10 THz繰り返しモノサイクル光”を発生させることを目指します。高密度コヒーレントフォノンの断熱生成、Rydberg励起状態の空間的量子局在、高効率単色テラヘルツ波発生など、光パルスの高精度高繰り返し性という軸での研究領域が切り開かれることを展望しています。
図1は、上記の原理に基づき、パラ水素を媒質として発生させた高次のラマンサイドバンド光系列のスペクトルです。赤外から真空紫外近傍の超広帯域にわたるサイドバンド光系列が、効率よく、かつ、位相整合条件に制約されず全て同軸に発生しているのが見て取れます。(a)はパラ水素の純振動遷移(125 THz)を励起した場合、(b)は純回転遷移(10 THz)を励起した場合、(c)は振動(125 THz)と回転(10 THz)の両方を同時励起した場合です。
図1
図2は、図1(b)のラマンサイドバンド光系列を対象に、その群速度分散を補正し、再びフーリエ合成することで得た、10THz繰り返し超短パルス光列の自己相関波形です。この測定データは平均化をおこなっていません。細実線は自己相関波形から導かれる時間波形(パルス幅12 fs)、挿入図は得られた超短パルス光のビームパターンを示しています。この手法で、極めて質の高い超高繰返し超短パルスレーザー光列を実現できることがわかります。
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