光波の伝播を特徴づけるのは、位相や電場ベクトルの時間波形あるいは空間分布である。超短パルスレーザーの進展に伴い、光波の時間波形制御は新たな研究領域を生み出し、アト秒パルス光やモノサイクル波に至る究極の制御技術が確立されつつある。これに対して、空間分布はレーザー共振器の固有モードであるガウスビームを用いることが未だ主流であり、光波の空間分布制御は未開拓な研究領域といえる。
トポロジカルチャージとは光波の空間分布(トポロジカルな分布)に依存して現れる角運動量(軌道角運動量)である。したがって、ガウスビームなどの通常の光では決して現れない。
トポロジカルチャージを効率良く利用できれば、例えば、液中やガス中に浮遊するサブミクロンレベルの極微粒子に光照射だけでトルクを与え、任意の回転速度で駆動できる。また、超短パルスレーザーのトポロジカルチャージを利用すれば、カイラル分子の分子コンフォメーションをはじめとするトポロジカルな物質構造制御ができる可能性がある。さらに、高出力なトポロジカル光波を用いれば多光子励起や高次高調波発生などの非線形光学効果を簡単に引き起こすことができるので、トポロジカル光波が生み出す波動場の広がりは超分子や高分子における電子の波動関数の広がりと同程度になる。この場合、トポロジカル光波のトポロジカルチャージは超分子や高分子における電子の波動関数の軌道角運動量に直接作用するので、通常の光では決して起こらない光化学反応を効率よく誘起することができる可能性がある。
これまでの研究成果としてトポロジカル光波をレーザー共振器の固有モードとして発振させることに成功した。この手法を用いれば10Wを超える高出力なトポロジカル光波を容易に発生させることができる。また、モードロック、Qスイッチなどの手法を組み合わせることで高強度トポロジカル光波の創成も可能である。
残りの研究期間において、本研究プロジェクトで実現した高出力トポロカル光波を武器に、非線形光学への応用研究を展開し、多様なトポロジカル光波を高効率でかつ自在に創製(デザイン)する。
具体的には
- 高強度光多重渦の発生
- 位相共役波発生や非線形光波混合を用いたトポロジカルチャージの制御
- トポロジカル光波による高調波発生
など光波の創成と分光応用への展開を図る。
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