講演概要

黒田 真也
黒田 真也 東京大学大学院情報理工学系研究科 特任助教授
シグナル伝達機構のシステム解析
  〜細胞の反応をコンピュータシミュレーションで予測〜
細胞は、シグナル伝達機構と呼ばれる分子ネットワークを用いて細胞の増殖や分化などの生命現象を制御している。その仕組みを解明するために、細胞が増殖因子に対して反応する様子をコンピュータシミュレーションで再現し、増殖因子を投与する速さと濃度の情報をシグナル伝達機構が別々に処理することにより増殖や分化を制御することをシミュレーションで予測して、実験により実証した。生体でもシミュレーション結果と同様の現象が起きていると推測でき、治療薬の開発の効率化に役立つことが期待される。


橋本 浩一
橋本 浩一 東北大学大学院情報科学研究科 教授
微生物群によるオーガナイズドバイオモジュール
  〜多数の微生物とコンピュータシステムの融合を目指して〜
現在の MEMS 技術では、マイクロサイズのアクチュエータは実現されているが、その状態を観測するセンサの組み込みが難しく、プログラムにより多彩な機能を提供することが実現できていない。しかし,微生物は細胞内にセンサとアクチュエータを内蔵する優れたマイクロマシンであり、微生物をフィードバック制御するシステムが構築できれば、多様な機能を提供するマイクロシステムが実現できる。このように、本研究は、多数の微生物とコンピュータシステムの融合により、柔軟かつ多機能なマイクロシステムの実現を目指すものである。


岡田 真人
岡田 真人 東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授
神経活動のスパイク揺らぎと機能的アーキテクチャー
  〜脳の視覚情報処理の仕組みを眺めて創る〜
脳の中にある多数の神経細胞がスパイクと呼ばれる活動電位で情報交換することで、我々は認識、記憶、思考などの高度な情報処理をおこなうことができます。したがって、個々の神経活動だけを観測しても脳の情報処理の仕組みはわかりません。そこでまず、神経かつ細胞が集まった神経回路網の全体の動きを可視化すること、具体的には顔情報の処理過程を眺める手法を提案しました。その結果を元に神経回路網のモデルを創り、脳における顔の情報処理の仕組みを解明しました。

齋木 潤
齋木 潤 京都大学大学院人間・環境学研究科 助教授
知覚と記憶の協調による視覚認知の成立過程
  〜瞬時に物が見えるように思える仕組み〜
われわれは瞬時に多くの物体からなる複雑なシーンが理解できると思っているが、本当はたった2つの物体の色と形の組合せでも正確に記憶できない。外界の詳細な組合せ的構造を認知する能力の限界は、シーン全体の概略的情報の中から重要な場所を効率的に発見しそこの情報に選択的にアクセスする機構によって補完されている。これら焦点的システムと分散的システムの協調により、外界の複雑な心的表象を形成することなく外界を認知している(或いはしていると思っている)ことが明らかになった。


坂上 雅道
坂上 雅道 玉川大学学術研究所脳科学研究施設 教授
推論・思考を可能にする神経回路
  〜抽象的思考の神経科学的基礎〜
発達した脳神経系を持つ動物は、未知の環境においても、過去の経験に基づきながらそこに適応する能力を持っている。これを可能にするのが抽象化機能であり、その中核に「推移的推論(三段論法)」がある。この機能の神経科学的基礎を明らかにするためにサルに推論課題を学習させ、その課題遂行中の前頭前野ニューロン活動を調べた。前頭前野には外部刺激を状況依存的にグループ(カテゴリー)化するニューロンがあり、その時々の意味を特定の刺激ではなく、グループの意味としてコードすることができることが明らかとなった。この神経メカニズムが、ヒトで頂点に達する抽象的思考を可能にする神経回路の基板になっていることが示唆された。

岡田 義広
岡田 義広 九州大学大学院システム情報科学研究院 助教授
実世界指向の具象化プログラミング
  〜積み木のように3次元グラフィックス応用ソフトウェアをプログラムする〜
実世界にある事物やそれに対する操作のメタファーを積極的にプログラミングに活用することにより、より人間の思考に近い感覚・操作によりプログラミングが可能になると考えられます。本研究では、画面上に見え、手で直接触れることができる形式でソフトウェア部品を提供し、実世界で体を使い物を組み立てるのと同様な操作によって、それらソフトウェア部品を組み合わせ機能合成することにより3次元グラフィックス応用ソフトウェアの開発が行えるためのプログラミング環境を研究しました。

田浦 健次朗
田浦 健次朗 東京大学大学院情報理工学系研究科 助教授
分散管理された計算機の高度な協調利用
  〜1,000台の計算機を誰にでも〜
計算機やネットワークのハードウェアの標準化・廉価化が急速に進んだことで、高性能な計算環境は、原理的には誰でも構築可能なものになりました。しかし、そのような環境を効率的に利用し、誰でも簡単に恩恵を受けられるようなソフトウェアは未発達で、導入や管理、維持の手間も非常に大きいのが現状です。本研究では、ごく少数の、非常に標準的なツール(SSH/Python)のみを使って、誰でも簡単に、多数の計算機を効率的に操ることができるツールGXPを設計、開発しました。数百ノード、1,000以上のプロセッサを持つ環境でテストされており、実際に大量の計算パワーを必要としている人が低い導入障壁で用いることができるツールです。


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