戦略的創造研究推進事業「生体分子の形と機能」領域における研究テーマの一環として、稲葉 謙次 個人研究者(平成13年度新規採択)による「大腸菌における蛋白質ジスルフィド結合導入システムの分子機構に関する研究」がEMBO Journal (2002) 21, 2646-2654 及び Journal of Biological Chemistry (2004) 279, 6761-6768に相次いで報告され、その内容はScience誌 Editor's Choice (2002) 296, 1767 でも取りあげられました。
ジスルフィド結合(アミノ酸の1つであるシステインの間に形成されるS-S架橋結合)は、多くの分泌蛋白質や細胞表層蛋白質が安定な立体構造をとり、正しい機能を発揮する上で極めて重要です。細胞内にはジスルフィド結合を効率よく導入するためのシステムが備わっており、そのシステムはDsbA(可溶性酵素)、 DsbB(膜蛋白質)、及びユビキノン(呼吸に関与する補酵素)によって構成されています。蛋白質がジスルフィド結合を形成することで生じた2つの電子はまずDsbAが受け取り、その後DsbBを介してユビキノン分子に渡されます。私はこの一連の電子の流れにおいて、途中(DsbA-DsbBの間で)酸化還元電位が逆転していることを発見しました。また、DsbA再酸化反応中にユビキノンが活性化し(淡黄色から強い赤紫色へ変色する)、これが反応を駆動する上で重要な意味をもつことを明らかにしました。さらに、DsbBのループ間で形成されるジスルフィド結合とユビキノンの活性化が、電位の逆転にもかかわらず電子を効率的に輸送するキーとなっているという新たな反応モデルを提唱しました。
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