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研究代表者: 伊藤耕三(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)
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課 題 名: トポロジカルゲルを利用した医療用生体機能材料の創製
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トポロジカルゲルの滑車効果の解明と制御およびその応用
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自己組織化、超分子、高分子、ゲル、架橋
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1839年にグッドイヤーにより発見された高分子の架橋という現象は、その後タイヤに応用され、高分子産業の興隆をもたらしたことは良く知られています。それ以来、架橋点は高分子鎖に固定しているというのが、高分子の科学と技術で常識とされていました。最近、私どもの研究室では、超分子構造の一種であるポリロタキサン(ネックレス状の分子集合体)を応用し、ナノスケールの架橋点が自由に動く高分子材料(トポロジカルゲルまたは環動高分子材料)を創製し、架橋点の運動性を制御することに成功しました。一般に、化学的に架橋された高分子材料では、架橋に伴う不均一性の増大のために、外部からの張力が最も短い高分子鎖に集中し、高分子の潜在強度を十分に活かすことなく破断することが多く、S字型の一軸応力伸長特性を示すことが知られています。 これに対して、架橋点が自由に動くトポロジカルゲルでは、線状高分子が架橋点を自由に通り抜けることができるため、高分子鎖の張力が均等になるような平衡位置に架橋点が移動し、ゲル全体の構造および応力の不均一性を分散することが可能であるとともに、J字型の応力伸長特性を示すことが、本研究により実験的および理論的に明らかになりました。架橋点が滑車のように振る舞うことから、このような高分子鎖間に働く協調効果を滑車効果と呼んでいます。J字型の応力伸長特性は、哺乳類の皮膚や筋肉、血管などの生体組織でよく見られ、破壊エネルギーの蓄積を防ぐなど生体材料として様々な利点があり、生体機能の維持にきわめて重要な役割を果たしていることが知られています。したがって、トポロジカルゲルは滑車効果によって生体組織の代替材料としては理想的な力学特性を示すことが分かりました。
本研究ではさらに、温度や電場、イオン強度、光などを用いてこの滑車効果を制御することにも成功しました。外部刺激による架橋点の凝集と解離を通じて、滑車効果を制御できることが分かり、その結果、材料全体の力学特性が、J字型とS字型の間できわめて劇的に変化することが明らかになりました。たとえば、温度制御の場合には、低温で透明で、膨潤し、柔らかくJ字型の応力伸長曲線を示すトポロジカルゲルが、高温では白濁し、収縮し、硬くS字型の曲線を示すように劇的かつ可逆的に変化し、しかもその転移温度が広範囲に制御可能です。これは、生体用機能性ゲル材料としてDDSなどに応用可能です。架橋点が自由に動く高分子材料は、トポロジカルゲルとして世の中に登場しましたが、以上のように、本研究によって滑車効果の原理と機構が明らかになった結果、ごく最近では繊維や塗料、フィルムなど液体を含まない高分子材料にも展開し、高分子材料全般において滑車効果の有効性が明らかになりつつあります。
本研究の成果は、高分子科学における新しい概念を世界で初めて提示し、その原理と機構を実験的および理論的に明らかにしたことにより、高分子科学における新しい分野を切開いたという点で、科学技術上の貢献が高いと認識しています。しかし、本技術についてはさらに、物質に限定されない基本特許が日米中で成立しており、しかも50件を超える関連特許が出願されて実用化が急速に進み、高分子産業に技術革新をもたらしつつあるという点で、社会・経済上の貢献もきわめて高いと考えています。架橋点が自由に動く高分子材料は、履歴のないJ字型の力学特性を示す、ヤング率が低く伸長性が高い、破壊エネルギーを低下させる、生体軟組織に近い力学特性を示す、高分子材料の永久歪を自動的に緩和する、架橋により高分子の運動性が低下しない、など従来の架橋点が固定された高分子材料では十分に実現できなかった数多くの有用な特性を示すことから、ゲルだけではなく高分子材料全般にイノベーションをもたらしつつあり、自動車産業、家電産業、情報電子産業、医療機器産業、化粧品産業、繊維産業への技術展開・波及を通じて、我が国の産業競争力を大いに高めることが予想されています。
1. Kohzo Ito. "Novel cross-linking concept of polymer network: Synthesis, structure, and properties of slide-ring gels with freely movable junctions". Polymer Journal, 39, 488-500 (2007).
2. Toshiyuki Kataoka, Masatoshi Kidowak, Changming Zhao, Hiroyuki Minamikawa, Toshimi Shimizu and Kohzo Ito. "Local and network structure of thermoreversible polyrotaxane hydrogels based on poly(ethylene glycol) and methylatedα-cyclodextrins". Journal of Physical Chemistry, B, 110(48), 24377-243823(2006).
3. 特開2005-154675、「ポリロタキサン及びその製造方法」、出願日:平成15年11月28日、出願人:伊藤耕三、発明者:伊藤耕三、荒木潤、趙長明