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  研究課題の紹介
鉄ニクタイド系層状超伝導体の電子状態相図の完成

氏名
神原 陽一 役職 専任講師
所属 慶應義塾大学 理工学部情報工学科
※所属・役職名は研究参加期間終了時点のものとなります。

研究実施の概要(終了報告書より抜粋)

1)実施概要

 鉄ニクタイド系層状超伝導体は6種類以上の構造が発見されており, 各物質それぞれについて, 超伝導発現機構を決定する上で重要な磁性相と超伝導相の共存・非共存に関する研究が盛んに行われている. SmFeAsO1-xFx (Sm-1111系)は比較的早い時期に報告がなされたにも関わらず, (i) 単相・均一組成の結晶を得ることが困難であり, (ii) 単位格子中に二種類以上の磁性イオンを有していたことから, 磁性相と超伝導相の共存・非共存に議論のある状態であった. 本課題は単相・均一組成の試料合成方法確立, 同一試料に対する空間的, エネルギー的に様々なスケールでの結晶構造評価, 電気測定, 磁気測定, 元素選択的な内部磁場測定を行うことでSmFeAsO1-xFxの電子磁気状態相図を完成させ, 磁性相と超伝導相の共存・非共存の議論を解決した. さらに, 得られた知見をPowder in tube (PIT)法による超伝導線材の開発に応用した.

  平成20年度は旧所属であるERATO SORSTから継続した研究としてFe系高温超伝導体の内もっとも高いTcを示すLnFeAsO1-xFx(Ln = La, Sm)の電子状態相図の完成を目的として, 試料合成, 物性測定を行った. また研究環境の立ち上げを行った.
平成21年度は得られた試料に対する電気抵抗率測定, 磁化率測定, 低温結晶構造解析, 体積べガード則によるF濃度(x)の定量, 57Feメスバウワ分光(MS), 149Sm核共鳴前方散乱スペクトル(NRFS)を測定しSmFeAsO1-xFxの電子・磁気状態相図を完成させ, 原著論文として報告した.

 平成22年度は東京工業大学応用セラミックス研究所研究員から慶應義塾大学理工学部専任講師への転職に伴い, 研究設備の移動, および研究環境の再立ち上げを行った.
平成23年度はSmFeAsO1-xFxをex-situ PIT法により線材化し, 輸送臨界電流密度(Transport Jc) 〜 4000 A/cm2のデバイスの作製に成功した. この値は単結晶などで観察されるTransport Jc の最大値に比べ2-3ケタ程度小さいが, 2011年12月現在, 混合アニオン型の超伝導体 (Sm-1111系など)としては最も高い値である. さらに, PIT法に用いるシース材の探索を行った.

 結晶構造相転移と超伝導転移の関係をより詳しく調べるため, 微視的な測定としてScanning tunneling spectroscopy (STS)を測定した結果,超伝導ギャップが電気測定と矛盾せず観察された. また22-94 meVの擬ギャップの存在が明らかになった.
SmFeAsO1-xFxの結晶構造中の局所構造(FeAs層)と電子構造の相関をFe-K端, As-K端X線吸収スペクトルのX線吸収端微細構造解析(EXAFS), X線吸収端近傍構造解析(XANES)により明らかにした. 超伝導を示すSmFeAsO1-xFxのFe-As結合の平均二乗変位, すなわち格子の局所的な歪みの温度依存性を確認した. これはフッ素ドープ(電子ドープ)による格子の局所歪み, すなわちポーラロンと超伝導転移温度 (Tc)の強い相関を示す. XANES よりFeAs層のFe d電子とAs p電子の低温での再配分が確認された. SmFeAsO1-xFxの光学コヒーレントフォノンの時間分解測定を行い, キャリア・フォノンの相互作用による正のチャープ(振動数変化、この場合は振動数は増大)の存在をA1g(Sm)モードについて世界に先駆けて報告した.

 本研究では鉄ニクタイド系層状超伝導体の電子磁気状態相図の完成と超伝導線材の開発を行った. 今後は数nm程度の局所的な磁気秩序が議論の対象となると考えられる.



2)顕著な成果

1)SmFeAsO1-xFxの電子・磁気状態相図の確定

概要: SmFeAsO1-xFxの結晶と磁性の電子状態相図を作成した.非ドープのSmFeAsOは144 K 以下で反強磁性体であり、Feあたり0.34μBの磁気モーメントを示すことが明らかにした. SmFeAsO1-xFxにおける超伝導とFeの反強磁性磁気格子と超伝導相は共存しない.

2)SmFeAsO1-xFxを使用した超伝導線材の作製

概要: SmFeAsO1-xFxの超伝導線材をex situ Powder in tube 法 (合成された超伝導粉末を加工しやすいシース材に入れた後, 圧延, 線引きを施しケーブル状にする方法)により作製した. 反応性固相バインダー法と名付けた手法を導入し4.2 Kで臨界電流密度4000 A/cm2を記録した.

3)鉄系超伝導体SmFeAsO1-xFxの線材化に必要なシース材の検討

概要: 鉄系高温超伝導体 SmFeAsO1-xFxを超伝導線材として応用する際に最適なシース材(脆い超伝導体の周囲を加工の容易な金属で覆うPowder in tube法で使用する金属材料)を調べ, 1000 ℃の熱処理下では銅がシース材として有力な候補であることを明らかにした.


  



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