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  研究課題の紹介
鉄ニクタイド系超伝導体の薄膜を用いた高周波伝導度スペクトロスコピーによる物性解明及び新物質開発

氏名
前田 京剛 役職 教授
所属 東京大学 大学院総合文化研究科
研究室URL http://maeda3.c.u-tokyo.ac.jp/index_j.html
※所属・役職名は研究参加期間終了時点のものとなります。

研究実施の概要(終了報告書より抜粋)

1)実施概要

 本プロジェクトの狙いは,鉄ニクタイド系超伝導体の物理測定に耐えうる高品質単結晶薄膜を作製し,それらを用いて,薄膜試料でないとできない物性研究を行うことである。特に,(1)マイクロ波からテラヘルツまでの複素電気伝導度スペクトロスコピーによる低エネルギー電荷励起の完全理解,(2)薄膜化および新物質開発による転移温度の上昇,(3)ジョセフソン接合の作製とそれに基づくデバイス応用のポテンシャルの評価 を行う.また,バルク単結晶を用いたマイクロ波領域での表面インピーダ測定などの物性評価も適宜行い,薄膜を用いた研究にフィードバックする.

  本課題採用後に研究を開始し,鉄ニクタイド系の超伝導体を取り扱うための環境整備から研究を開始した.平成20-21年度は,鉄系超伝導体の高品質な薄膜作製に注力し,研究を進めた.その結果,プロジェクト開始から半年程度でFeSe1-xTex薄膜を8種類の酸化物基板上に作製することに成功し,基板からの酸素の侵入を防ぐことが良質な薄膜を作製するためのキーであることを世界に先駆けていち早く明らかにした.この知見をもとに,非酸化物基板を使用することが有効であると考え,比較的マッチングのよいCaF2(100)面上に 製膜を行ったところ,バルク単結晶を上回るTcを有する薄膜が再現性よく得られた.低温高磁場下でのJcは20K以上のTcを持つBa(Fe,Co)2As2のそれを凌駕しており,応用的に高いポテンシャルを持つことを示している.平成21年度後半からは,薄膜試料やバルク単結晶を用いた物性測定を開始し,以下のようなことを明らかとした.

  1. ホール効果:電子状態を明らかにする目的で,6端子形状に製膜された薄膜のホール効果の測定を行った.FeSe1-xTex薄膜の測定から,常温での支配的なキャリアはホールであること,温度の低下とともにホール係数は減少し,低温では負に符号反転すること,また,100K以上のホール係数の温度依存性と超伝導転移温度との間に強い相関があることなどを明らかにした.また,FeTe薄膜で,超伝導が発現する試料,しない試料各々で易動度を比較した.超伝導試料では低温まで正孔の易動度が有限に残ることがわかり,超伝導発現のためには,正孔・電子両方の遍歴性が必須であることが示された.この結果は,バンド間散乱が超伝導発現に重要な役割を果たすことを示唆している.
  2. テラヘルツ領域の伝導度スペクトロスコピー:Co量の異なるBa(Fe,Co)2As2薄膜で行った.最適ドープ域の試料では,超伝導ギャップの大きさなどの超伝導体の基礎パラメータを明らかにした.母物質BaFe2As2では,反強磁性転移温度(TN)以上ではDrude modelに従う典型的な周波数依存性を観測する一方,TN以下では伝導度の実部はDrude的であるのに虚部のみ強く抑制されたようなスペクトルが得られた.これは,光学伝導度で用いられているローレンツ振動子では再現できず,Dirac cone上の準粒子のバンド間の散乱を考慮することでよく説明できることがわかった.反強磁性と超伝導が共存する不足ドープ域の試料でも,電気伝導度の虚部がTN付近から急激に減少する振る舞いを観測した.この振舞も,Dirac cone上の準粒子によるものとして説明することができる.
  3. マイクロ波表面インピーダンス測定:測定には,化学量論比的な組成を持ち,純良単結晶を得ることが可能なLiFeAsと最も単純な結晶構造を持つFeSe1-xTexの単結晶を用いた.磁場侵入長の温度依存性から,前者の超伝導ギャップにノードがないことを,また,後者では不純物散乱によるギャップレス状態が実現していることを見いだした.さらに,超流体密度の温度依存性が両物質で大きく異なること,その違いは温度依存の効果を考慮した準粒子の平均自由行程とコヒーレンス長の大小関係を用いて説明できることを明らかにした.前述のホール効果や後述の不純物効果の結果をあわせて考えると,FeSe1-xTexでは電子面とホール面で符号が異なる,いわゆるs±の対称性であることが強く示唆される.



2)顕著な成果

1)FeSe1-xTex薄膜の作製と基板依存性の解明

概要:8種類の酸化物基板上に同一条件でFeSe1-xTex薄膜を作製した結果,特定の基板では基板から薄膜に酸素が侵入していることがわかり,その酸素が超伝導特性を阻害する要因であることを明らかとした.さらに,非酸化物基板CaF2上に作製した薄膜では,基板からの酸素の侵入を完全に断つことができ,バルクを上回るTcを再現性よく得ることができた.

2)LiFeAs, FeSe1-xTex単結晶のマイクロ波表面インピーダンス測定による超伝導対称性の解明

概要:磁場侵入長の温度依存性から,LiFeAsは超伝導ギャップにノードがないことを, FeSe1-xTexは不純物散乱によるギャップレス状態が実現していることを見いだした.また,両物質では超流体密度の温度依存性が大きく異なっており,それが,温度依存の効果を考慮した準粒子の平均自由行程とコヒーレンス長の大小関係を用いて説明できることを明らかにした.ホール効果や後不純物効果の結果をあわせて考えると,FeSe1-xTexでは電子面とホール面で符号が異なる,いわゆるs±の対称性であることが強く示唆される.

3)Ba(Fe1-xCox)2As2薄膜を用いたテラヘルツ伝導度測定からみた超流体および準粒子ダイナミクス

概要:母物質BaFe2As2薄膜の伝導度スペクトルは,反強磁性転移温度より高温では,Drudeモデルで説明できるが,反強磁性相では,虚部のみが抑制されたような特異なものであった.これは,Dirac cone上に存在する準粒子のバンド間の散乱を考慮することで説明できることがわかった.


  



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