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  研究課題の紹介
量子ビームによる鉄系高温超伝導の物性研究

氏名
社本 真一 役職 研究主席
所属 (独)日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門
研究室URL http://nsrc.tokai-sc.jaea.go.jp/index.html
※所属・役職名は研究参加期間終了時点のものとなります。

研究実施の概要(終了報告書より抜粋)

1)実施概要

 当チームはこれまでに発見された鉄系超伝導体のなかで、もっとも高い超伝導転移温度Tc=55 Kが見つかっているLnFeAs(O,F)系(Ln;ランタニド元素)を主な対象として、中性子と放射光X線を横断的に利用することで、鉄系超伝導体とその母相を含めた関連物質の結晶構造、電子状態ならびに原子間、スピン間および電子間の相互作用の強さについて、理論計算との比較からその本質を明らかにし、類似構造で超伝導体が多く見つかっている重い電子系との比較を目指すとともに、アクチノイド化合物を含めた物質探索と単結晶育成を進めた。

  放射光X線での非共鳴非弾性散乱によるLaFeAsO1-xFx粉末試料およびPrFeAsO1-y単結晶試料のフォノン測定ではFe-Asの格子振動に第一原理計算との間に顕著な違いがあることを発見した。また中性子非弾性散乱による磁気励起測定では、LaFeAsO1-xFx系の高品質の粉末試料を用いた系統的研究から、母相および高いTcの超伝導相で見えたスピン揺らぎが、フッ素濃度の高いオーバードープ試料(x=0.16;Tc~7 K)でなくなることがわかった。一方、超伝導相の磁気励起にはレゾナンス的な振舞が観測された。また超伝導ギャップにノードをもつBaFe2As1.3P0.7 (Tc=30 K)でも同様な現象が観測され、理論との比較から同一のフェルミ面内のわずかな部分の符号反転で説明可能であることがわかった。

  鉄系超伝導体では第一原理計算が有用であり、多くの知見が得られている。我々のチームでも理論的な解析から構造とTc との強い相関を、水素吸蔵鉄系超伝導体を例として示した67)が、これは中性子回折によるPrFeAsO1-xFxとPrFeAsO1-yの系統的な結晶構造解析の結果とも一致し、この系ではドープしたキャリア数自身は、モット絶縁体とは対照的にあまり重要なパラメータではないことがわかった。このことは母相で複数個のフェルミ面があることと整合している。

  また鉄K吸収端における共鳴非弾性X線散乱(RIXS)スペクトル測定を行い、理論計算結果と比較することによって、RIXSスペクトルが電子間斥力(U〜3 eV)の大きさや局所的な反強磁性磁気相関を反映していることを明らかにした。

  放射光X線を用いた核共鳴散乱法では、母物質AFe2As2 (A=Sr, Eu) の57Fe核共鳴非弾性散乱スペクトルの温度依存性を測定し、鉄元素を選択してフォノン状態密度を抽出した。その結果、特定の光学振動モードの異常が、正方晶構造下での低温相斜方晶構造の局所的揺らぎに対応していることが示された。

  5 バンドのタイトバインディング模型にオンサイトの電子間相互作用を導入したモデルミルトニアンから出発し、平均場近似によって反強磁性秩序状態の秩序パラメータを決定した。非磁性状態と磁気秩序状態のバンド構造を計算し、バンド間遷移による面内光学伝導度を求めた。実験と同じ磁気モーメントを持つ磁気秩序状態では、実験で観測されているような低エネルギー領域での励起ピークが現れることを確認した。また、反強磁性秩序状態で特定の波数方向に生じるディラック型分散の形状と特徴を明らかにするとともに、ディラック分散の存在に伴う伝導特性の特徴や、バンド間遷移による面内光学伝導度の異方性の起源を解明した。

  アクチノイド系の物質探索では、U-T-Al三元系(T:鉄族元素)において新物質を発見した。URu2Al10は斜方晶YbFe2Al10型結晶構造をとる。ウラン化合物としては非常に珍しく、結晶場励起が観測された。



2)顕著な成果

1)PrFeAsO1-y単結晶のフォノン分散

概要:Fe-Asのフォノン振動のみが、第一原理計算から予想されるエネルギーより見かけ上ソフト化していることを見出した。また鉄系超伝導体で単結晶を用いたフォノン測定に世界で初めて成功した。この成果は単結晶育成グループ、放射光非弾性X線散乱グループに加えて、理論チームが加わったことで初めて実現できた成果である。

2) 反強磁性秩序状態の秩序パラメータの決定

概要:バンドのタイトバインディング模型にオンサイトの電子間相互作用を導入したモデルハミルトニアンから出発し、平均場近似によって反強磁性秩序状態の秩序パラメータを決定した。この結果は、NPG Nature Asia Materials research highlight に掲載された。

3)LaFeAsO1-xFx系オーバードープ試料での磁気揺らぎの消失

概要:LaFeAsO1-xFx粉末試料x=0.06および0.08の超伝導相(Tc>24 K)で、母相のスピン密度波相と同程度のスピン揺らぎの散乱強度が残る一方で、x=0.16のTc~7 Kのオーバードープ試料ではそのスピン揺らぎが見えなくなったことから、スピン揺らぎと高いTcとの相関が明らかになった。これは超伝導の対称性の変化も示唆している。


  



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