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  研究課題の紹介
高分解能ARPESによる鉄系高温超伝導体の微細電子構造の研究

氏名
佐藤 宇史 役職 准教授
所属 東北大学 大学院理学研究科
研究室URL http://arpes.phys.tohoku.ac.jp/
※所属・役職名は研究参加期間終了時点のものとなります。

研究実施の概要(終了報告書より抜粋)

1)実施概要

 本研究では、超高分解能角度分解光電子分光(ARPES)法を用いて鉄系高温超伝導体の電子状態を精密に決定することによって、その高温超伝導発現機構を解明することを目的とする。これを実現するために、現有の高分解能光電子分光装置の励起光源系や電子エネルギー分析系の改良を行い、1meV以下の精度の超高分解能ARPES実験を可能にした。改良した装置を用いて鉄系超伝導体単結晶のフェルミ面、エネルギーバンド分散、準粒子、超伝導ギャップ、および擬ギャップを直接観測する事により、フェルミ準位(EF)近傍の微細電子構造を明らかにした。また、電子ドープ型およびホールドープ型や、様々な結晶構造を有する鉄系超伝導体について系統的なARPES実験を行うことによって、鉄系超伝導体の高温超伝導メカニズムについて電子状態の立場からの知見を得た。

 装置の改良においては、より統計精度の高い超高分解能ARPES測定を実現しつつ微小単結晶の測定におけるシグナル強度不足や試料劣化の問題を克服するために、マイクロ波励起型ヘリウム放電管の差動排気系を強化し、紫外線を通しつつ残留ガスを防ぐ真空紫外線(VUV)フィルターの設置を行った。また、エネルギー分析器の分解能を向上させるために、高感度検出器を設置し、電子レンズパラメータの調整、浮遊電場の除去、地磁気の遮蔽などの改良を行うことで、900 meVの超高エネルギー分解能を実現した。

 改良した高分解能光電子分光装置および国内外の高輝度放射光施設を用いて、ホールドープ型および電子ドープ型BaFe2As2系(122系)、LaFeAsO系 (1111系)、AFeAs (A:Na,Li)系(111系)、FeSe1-xTex系(11系)、およびペロブスカイト挿入型Sr2VO3FeAsの高分解能ARPESを行い、各物質におけるEF近傍の電子状態、具体的には、バンド分散、フェルミ面、超伝導ギャップを高分解能で直接決定した。その結果、常伝導状態における基本的電子構造と超伝導ギャップの対称性を明らかにすることに成功し、すべての物質系(過剰ドープ領域を除く)で共通してブリルアンゾーンのG点中心の1-3枚のホール的フェルミ面とM 点中心の1-2枚の電子的フェルミ面を観測した。また、ホールドープ型Ba1-xKxFe2As2、電子ドープ型BaFe2-xCoxAs2、NaFe1-xCoxAs、LiFeAs、およびFeSe1-xTexにおいて超伝導ギャップの波数・フェルミ面・温度依存性を決定することに成功し、すべての物質で超伝導クーパー対形成に伴う明瞭な準粒子ピークを観測し、超伝導ギャップがノードの無いs波対称性を示すことを明らかにした。また、超伝導ギャップの大きさはフェルミ面によって異なることも同時に見出した。また、122系の過剰ドープ領域のホールドープ型(電子ドープ型)試料においては、M点(G点)の電子(ホール)面がほぼ消失するのに対応して超伝導転移温度も抑制(または消失)されることも明らかにした。これらの実験事実から、鉄系超伝導体の超伝導機構には、ブリルアンゾーンのG点とM点を繋ぐフェルミ面同士のバンド間散乱が重要な役割を果たしていると結論した。

2)顕著な成果

1) Ba1-xKxFe2As2超伝導体の不足ドープ領域における擬ギャップの観測

概要:ホールドープ型鉄系超伝導体Ba1-xKxFe2As2の高分解能ARPESを行い、不足ドープ領域の電子状態を決定した。その結果、超伝導転移温度以上において電子状態密度における擬ギャップを観測することに成功した。

2)BaFe2As2系超伝導体における超伝導機構の電子-ホール対称性

概要: 電子ドープ型鉄系超伝導体BaFe1.85Co0.15As2の高分解能ARPESを行い、超伝導ギャップの対称性を直接決定する事に成功した。その結果、超伝導機構の「電子-ホール対称性」が成り立っている事を明らかにした。

3)BaFe2As2におけるディラックコーン的バンド分散の直接観測

概要:鉄系超伝導体の母物質BaFe2As2の高分解能ARPESを行い、反強磁性相におけるEF近傍の電子バンド分散を精密に決定する事に成功した。その結果、バンド分散における「ディラック電子的振る舞い」を初めて明らかにした。


  



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