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  研究課題の紹介
鉄ニクタイド系化合物超伝導体の微視的・非経験的理論研究

氏名
黒木 和彦 役職 教授
所属 電気通信大学 大学院情報理工学研究科
研究室URL http://www.e-one.uec.ac.jp/~kuroki/
※所属・役職名は研究参加期間終了時点のものとなります。

研究実施の概要(終了報告書より抜粋)

1)実施概要

 本研究計画のねらいは主として以下の4点にまとめられる。(i) 第一原理バンド計算に立脚した鉄系超伝導体の有効模型の構築、(ii) 鉄系超伝導の発現機構、物質依存性の理解とより高いTcを得るための指針、(iii) 多バンド系超伝導状態の研究やペアリング状態を判別する手段の考案、(iv) 鉄系超伝導に限らず、より広い視野からの高温超伝導研究。

 (i)の有効模型構築については、1111系、122系、111系、11系についての第一原理計算からの低エネルギー有効模型の構築を行った。鉄のd軌道に注目した5軌道模型については、おおまかにいって、1111系、122系、111系、11系の順でワニエ軌道のサイズが大きい。これはこの順でアニオンp軌道との混成が強いことに起因する。そのため、裸のクーロン相互作用はこの順で小さいことがわかった。また(iii)において重要となる不純物ポテンシャルや不純物が存在する場合のフェルミ面の変化をsuper cellを用いた第一原理計算によって調べた。

 (ii)の超伝導発現機構に関しては、大きく分けて、スピンの揺らぎを媒介としたs±ペアリングと、軌道揺らぎを媒介とするs++ペアリングに関する研究を行った。鉄系超伝導の発見直後から指摘されたように、鉄系超伝導体の大きな特徴として、非連結なフェルミ面があり、フェルミ面間を指し渡す波数において発達するスピンの揺らぎによって、フェルミ面間で超伝導ギャップ(秩序パラメーター)の符号が反転したs±超伝導が自然に期待される。ただし、多軌道系であるために単一軌道系よりも事情は複雑であり、結晶構造によって変化するバンド構造とフェルミ面によって、場合によっては超伝導ギャップにノードが入ることが示される。また、ニクトゲンが正四面体構造をとる近傍においてフェルミ面の枚数が最大化されることに伴ってTcも最適化されること示された。一方、軌道揺らぎの理論においては、鉄系超伝導体のクーロン相互作用に加えて電子格子相互作用に着目し、フェルミ面の軌道間ネスティングによる軌道揺らぎを研究した。軌道揺らぎの発達によって符号反転の無い超伝導状態s++波状態)が発現すること、さらに斜方晶転移や弾性定数C66のソフニングがもたらされることを見出した。

 (iii)のペアリング状態の判別については、不純物効果や中性子散乱実験の解析など、幅広く研究を行った。ペアリング状態を判定する手法の一つとして、鉄系超伝導体の5バンド模型を用い、Bogoliubov-de Gennes 方程式を解くことで、非磁性不純物近傍の局所状態密度を求めた。その結果、非磁性不純物近傍の局所状態密度の測定によって、s±状態とs++ 状態を実験的に区別する手法を提案した。また、多バンド超伝導体における位相モードについても研究を行い、3バンド以上の系に特徴的な複数のモードが存在することを示した。

 (iv)については、鉄系超伝導体以外に、銅酸化物高温超伝導体についても、多軌道性という観点から、物質依存性を再訪した。Tcの低いLa系銅酸化物においてフェルミ面上におけるd3z2-r2軌道成分の混成が強いことに着目し、dx2-y2+d3z2-r2の二軌道模型を構築して、超伝導の解析を行った。その結果、この二つの軌道間のエネルギー差がTcとフェルミ面の形状を決定する大きな要因となっていることを示した。
以上の成果により、チーム全体として45編の原著論文を著し、45件の国際会議招待講演を行った。国内外に向けて研究成果を発信し、十分なインパクトを与えることができたと考えている。当初の目的のかなりの部分は達せられた一方で、未解決の問題も残り、さらにはプロジェクトの発足当時には考えていなかった様々な興味深い問題も見つかり、今後の研究につながることとなる。



2)顕著な成果

1)スピン揺らぎ理論に基づく鉄系超伝導の物質依存性に関する研究

概要:第一原理バンド計算をもとに構築した鉄系超伝導体の多軌道有効模型に対して、RPAまたはFLEX近似を適用することによって、Tcや超伝導ギャップの物質依存性についての解釈をスピン揺らぎ機構の観点から与えた。鉄系超伝導体が多軌道系であり、かつフェルミ面がポケット状の小さいものであることに起因して、小さな構造上の変化に対してフェルミ面が敏感に変化し、超伝導に影響を及ぼすことを示した。

2)軌道揺らぎ理論に基づく超伝導発現機構および構造相転移の研究

概要:鉄系超伝導体のクーロン相互作用に加えて電子格子相互作用に着目し、フェルミ面の軌道間ネスティングによる軌道揺らぎを研究した。軌道揺らぎの発達によって符号反転の無い超伝導状態(s++波状態)が発現すること、さらに斜方晶転移や弾性定数C66のソフニングがもたらされることを見出した。

3)鉄系超伝導体における不純物効果

概要:鉄系超伝導体の5バンド模型を用い、Bogoliubov-de Gennes 方程式を解くことで、非磁性不純物近傍の局所状態密度を求めた。その結果、非磁性不純物近傍の局所状態密度の測定によって、s±状態と s++ 状態を実験的に区別する手法を提案した。


  



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