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  研究課題の紹介
鉄ヒ素系超伝導体の転移温度決定因子の解明と物質設計への適用

氏名
永崎 洋 役職 主任研究員
所属 (独)産業技術総合研究所 エレクトロニクス研究部門
研究室URL http://unit.aist.go.jp/esprit/super-ele/eisaki.html
※所属・役職名は研究参加期間終了時点のものとなります。

研究実施の概要(終了報告書より抜粋)

1)実施概要

 本研究課題は、鉄ヒ素系高温超伝導体研究における次の中心テーマ

(1)なぜ、鉄とヒ素の組み合わせが高温超伝導にとって最適か
(2)高温超伝導を最適化するパラメーターは何か
(3)更なる転移温度(Tc)の向上は可能か

に対して明確な回答を与えることをその目的とし、高圧合成法をベースとした新超伝導物質の開発および純良単結晶・多結晶試料の作製を行う「物質開発・合成」グループ、静水圧高圧下電気抵抗測定や光学反射率測定等の輸送特性評価や中性子を用いた磁気特性、結晶構造評価を物質横断的に遂行する「物性測定・評価」グループ、および第一原理計算に基づく実験結果の理論的解析および新物質探索指針の提案を行う「理論」グループが互いに連携することで、様々な角度から鉄系高温超伝導体の新物質開発と物性解明を推進した。更に、平成22年度には岩手大学吉澤正人教授を研究代表者とする「超音波物性」グループが新たに加わり、鉄系超伝導体の弾性常数の精査を行った。
本研究で取り上げた代表的なテーマは以下の通りである。

  • 酸素欠損型Ln1111系(LnFeAsO1-y:Ln=希土類元素)を対象とした新合成手法の開発、電子相図の確定、Tc向上指針の確立
  • Ln1111系(SmFeAsO1-y)、Ba122系((Ba1-xKx)Fe2As2)における同位体効果の検証
  • 高圧合成法と理論計算に基づくCaAlO3ペロブスカイト相を含む新鉄系超伝導体物質開発
  • 静水圧下高圧輸送現象測定による、鉄系超伝導体の電子相図確立、Tc向上の試み
  • Ln1111系多結晶(LnFeAsO1-y)、Ba122系単結晶((Ba1-xKx)Fe2As2、Ba(Fe1-xCox)2As2、BaFe2(As1-xPx)2)を用いた精密輸送現象測定、光学測定(東大内田グループとの共同研究))、特にTcと輸送現象との関連性の解明、母物質近傍におけるネマティック相の電荷ダイナミックスの特徴の抽出等
  • Ba(Fe1-xCox)2As2における弾性常数測定

 本研究で得られた成果は次項で詳述するが、それらはいずれも、鉄系高温超伝導体におけるユニークな「散乱(電荷ダイナミックス)」、「構造(フォノン)」、「磁性(スピンダイナミックス)」の特徴を抽出するものであり、それらの要素の複合的な寄与が鉄系超伝導体の特徴的な電子相図、および高温超伝導を生み出す源となっていることを強く示唆するものである。
例えば、「構造(フォノン)」の観点から本系を概観すると、その特徴は「正四面体配置におけるTc最適化」、「構造的量子臨界性」という2つのキーワードに集約される。前者は現在では「Lee Plot」としてすでに広く定着しているが、本研究では同指針が実際の物質(たとえばLaFeAsO1-y)のTc向上に有効である(Tcが28Kから35Kへ上昇)ことを実証した。更に、構造の制御はTcの変化をもたらすだけにとどまらず、電気伝導の振る舞い(高Tc物質になるほどTに比例する散乱が支配的となる)にも顕著な影響を与えていることが示された。本結果は、電荷キャリアの散乱機構と超伝導対形成機構が同一の起源を有することを強く示唆するものである。一方、後者の量子臨界性は弾性常数の顕著なソフト化として観測され、母物質から低ドープ領域に至る領域の物性を強く支配することが示された。この領域では、電荷ダイナミックスは「電子ネマティック相」とも称される特徴的な異方性を有する。同結果は、本系の構造揺らぎ、およびその原因として考えられる軌道揺らぎが超伝導発現に本質的役割を果たしていることが示された。
本研究の結果を元に、上述の研究課題への回答は以下のようにまとめられる。

  1. 鉄ヒ素の組み合わせの特異性:特徴的な結晶(軌道)・磁気構造を有する隣接秩序相の存在が鍵であり、その揺らぎを利用した強い電子散乱が対形成を促している。
  2. Tc決定要因は?: 鉄ヒ素系のTcは基本的に「Lee Plot」に支配され、正四面体配置において実現する強い電子散乱が最高Tcに必須と考えられる。一方、他の鉄リン系と比べて小さなP-Fe-Pボンド角を有するCa4Al2O6Fe2P2において、鉄リン系の最高Tcとなる17Kが得られたことから、鉄リン系では構造敏感性は存在しないことが示された。
  3. 更なるTc向上は?:既知の構造を有する物質については、ブロック層のチューニングによるFeAs4の正四面体化によってそれぞれの物質群が有するポテンシャルの最大値まで上昇させることが可能。Ln1111に関してはその上限値は55Kにとどまるが、ペロブスカイト含有型においては更なる上昇の余地があると思われる。更に、本研究では達成できなかったが、新たなブロック層の開発もTc向上には有効と期待される。

2)顕著な成果

1)高圧合成法を基盤とする鉄系超伝導体の新物質開発、特性向上指針の確立、および同位体効果の検証

概要:高圧合成を用いた新物質開発、構造および物性評価、更にバンド計算に基づく理論的評価の連携を通じて、Ln1111系およびペロブスカイト含有型鉄ヒ素系超伝導体において、FeAs4四面体が正四面体配置となる時にTcが最大となることを実証した。更に、Ln1111系および(Ba,K)122系において、そのFe同位体効果が、通常の電子−格子相互作用から期待される振る舞いから著しく逸脱することを示した。

2)鉄系超伝導体の相図の理解と特徴的電荷・スピンダイナミックスの抽出

概要:Ln1111系、Ba122系の良質多結晶、単結晶を対象とした系統的物性評価を行い、反強磁性、超伝導両秩序相において出現する特徴的な電荷・スピンダイナミックスの様相、特に、Tcと電荷ダイナミックスとの関連、構造・磁気相転移近傍の異方的電子状態を明らかにした。

3) 鉄系超伝導体における構造的量子臨界現象の発見および軌道揺らぎと超伝導発現機構の関連性の解明

概要:鉄系超伝導体Ba(Fe1-xCox)2As2の弾性定数測定から、「構造的量子臨界現象」とも称せられる特徴的なC66弾性定数の弾性軟化現象を発見した。更に、この弾性異常が本系のTcと密接に相関することを明らかにし、鉄系超伝導体における構造揺らぎおよびその原因である軌道揺らぎと超伝導発現機構との関係の重要性を指摘した。


  



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