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  研究課題の紹介
局所構造制御による鉄砒素超伝導薄膜の物性制御基盤技術の構築

氏名
生田 博志 役職 教授
所属 名古屋大学 大学院工学研究科
研究室URL http://iku.xtal.nagoya-u.ac.jp/

研究実施の概要(終了報告書より抜粋)

1)実施概要

 良質な超伝導薄膜は基礎物性測定に用いる試料としても、またジョセフソン素子などの超伝導接合作製等においても、必要不可欠である。本研究では分子線エピタキシー(MBE)法による鉄系超伝導体の薄膜成長を目指して研究を進めた。これまでに発見された鉄系超伝導体の中で最高の超伝導転移温度(Tc)を示すのはLnFeAs(O,F) (Ln:ランタノイド、以下Ln-1111)系であり、最高でTc=56 Kを有する。したがって、薄膜成長の観点からも、最も重要な系である。しかし、この系は5つの元素から構成され、複数のアニオンを含むため、結晶成長が非常に困難である。実際、単結晶試料でも、Ln-1111系は未だに得られる結晶のサイズは限られている。薄膜成長については、本研究の開始時にはパルスレーザー蒸着(PLD)法によるLa-1111薄膜の論文が2つのグループから報告されていた。一方のグループは、La-1111相の成長に成功したものの、フッ素ドープには成功しておらず、得られた薄膜は超伝導転移を示さなかった。また、もう一方のグループでは室温で蒸着したのちに外に取り出して石英管中に封入して高温焼成するという手法でTc~11 Kの薄膜を報告していた。しかし、これは本来のTcよりも低い上、不純物等を含んでおり、膜質が高くない。また、超伝導接合作製には、超伝導薄膜のその場(in-situ)成長を実現することが非常に重要である。

 そこで本研究では、Ln-1111系超伝導薄膜のin-situ成長を目指して研究を開始した。最初に各原料の蒸気圧等を調べて適切な原料を選定した。また、2つないし3つの原料の組み合わせで成膜を行い、得られる相を調べた。その上で、これらの実験から得られた知見を参考に、GaAsを基板とし、主にLn=Ndの系で様々な条件で成膜を行った。その結果、まずフッ素がドープされていない母相薄膜の成長にMBE法では初めて成功した。また、さらに成長条件を変えて調べたところ、成長時間を延ばすことで超伝導薄膜が得られることがわかり、世界で初めてLn-1111超伝導薄膜のin-situ成長に成功した。
このようにしてLn-1111超伝導薄膜のin-situ成長に成功したが、これは成長時間を延ばすことで実現したものであり、まだ制御性が十分にあるとは言えない。そこで、次にこれら超伝導薄膜の成長機構を調べたところ、成長初期にフッ素がGaAs基板と反応して消費されたこと、および成長後期にはNdOF相が成長してそこからフッ素が拡散することがポイントであることがわかった。そこで、これらの知見に基づき制御性よく超伝導薄膜を得る手法を確立することに取り組み、Gaをフッ素ゲッターに用いたフッ素供給量の制御法や、Nd-1111層上に意図的にフッ化物層を成長して拡散によりフッ素をドープする手法などを開発した。これによりGaAs以外にも様々な基板上にLn-1111超伝導薄膜を制御性よく成長することが可能になった。特に、基板依存性を調べた結果、CaF2でバルク試料に匹敵するTc=56 K (オンセット)の薄膜を得ることに成功し、CaF2が鉄系超伝導体薄膜の基板として有効であることを明らかにした。

 以上により、Ln-1111系の高いTcを有する超伝導薄膜の成長手法を確立することができた。しかし、将来的な超伝導接合作製のためには、表面層が超伝導相である薄膜が望ましい。また、超伝導接合作製には、薄膜表面の平坦性も非常に重要である。そこで、超伝導接合の作製に耐えうる高品位のNd-1111薄膜の成長を目指して、さらに詳細な検討を行った。その結果、表面にNdOF層を形成することなく超伝導薄膜を得る手法として、FeF3をフッ素源とするin-situアニール法を開発した。また、表面平坦性と成膜条件の関係を詳細に調べ、表面粗さが酸素圧に特に敏感であることなどを明らかにした。
一方、本研究ではTcが比較的高いにもかかわらず、これまで報告例のなかったBaFe2(As,P)2薄膜の成長にも取り組んだ。この系はバルク試料の研究から非常に結晶性が高いことが知られており、デバイス応用の観点からも興味深い。そこで、それまでの経験に基づいて成膜条件の最適化を行った結果、系統的にP置換量が変化した一連の薄膜の成長に成功し、超伝導組成ではいずれも鋭い超伝導転移を示す良質な薄膜が得られた。また、成膜条件を最適化した結果、 (La,Sr)(Al,Ta)O3を基板にした時に最高でオンセットが30 K、ゼロ抵抗が28.5 KのTcを持つ試料が得られた。

2)顕著な成果

1) LnFeAs(O,F)系超伝導薄膜のin-situ成長に世界で初めて成功した

概要: 現在知られている鉄系超伝導体で最高のTcを持つLnFeAs(O,F)系は、本研究以前にはその場(in-situ)成長で超伝導薄膜が得られた例はなく、報告されていた薄膜の膜質も高くなかった。本研究ではMBE法を用いて詳細に成長条件を最適化した結果、世界で初めてLnFeAs(O,F)薄膜のin-situ成長に成功した。

2) NdFeAs(O,F) 高Tc超伝導薄膜の成長手法の確立

概要: 本研究では、NdFeAs(O,F)超伝導薄膜を制御性よく成長する手法を確立した。特にCaF2が基板として有効であ ることを示し、バルク試料に匹敵する超伝導特性を有する薄膜の成長に成功した。これがきっかけで他の研究グループでもCaF2基板上に鉄系超伝導体の成長が行われ、やはり良好な超伝導薄膜が得られている。

3)BaFe2(As,P)2薄膜の成長に世界で初めて成功した

概要: BaFe2(As,P)2Tcが比較的高く、またバルク体の研究から高い結晶性を持つことが知られているにもかかわらず、薄膜成長の報告例がなかった。本研究ではMBE法で薄膜成長を行い、バルク体試料に匹敵する高いTcを持ち、鋭い超伝導転移を示す薄膜を得ることに成功した。


  



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