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研究チームの研究成果

環境知能実現を目指す超低消費電力化統合システムの研究開発

研究代表者

市川 晴久

(電気通信大学 情報理工学部 教授)

平成19年度
平成20年度
平成21年度
平成22年度
平成23年度
事後評価結果

平成19年度研究報告

1.研究実施の概要

  超低消費電力化(ULP)技術の創出が豊かな生活の実現、産業技術競争力の強化への可能性 を拓くことを示すため、ULP技術に支えられるユビキタスネットワーク戦略とその統合システムを提案した。 日本の産業戦略強化に向け、ポストIPネットワークをベースとしたULP統合システムの目 指すセンサネットワーク研究の究極の姿として、実世界の様々な事象をリアルタイムにネットワーク で利用可能なコンテンツとするシステム (環境知能)の実現を目指し、フルワイヤレス(バッテリレス) で動作するセンサノードと実世界のイベント推論ソフトウェアの研究開発を進めている。さらに、ポ スト IP ネットワークとなる可能性を秘めたユビキタスワイヤレスネットワーク研究と連携をとり、ユビキ タスな環境知能構築を狙う。これにより ULP 技術が、豊かな生活の実現、産業競争力の強化を狙 う戦略のキー技術となることを示す。
  今年度(10月〜)は、ポストIPをベースとしたULP統合システムの方向性に関する議論を開始し、かつ、 そのシステムのベースとなる、アクティブタグを利用したシステム構築を開始した。最終年度の デモシステム構築に向け、環境知能志向のフルワイヤレスセンサノード用にコア技術となるパルス系 低消費電力無線技術に関してチップ、ボード設計・実験による送受信機動作を確認し、また、微弱・低周波振動に 対応する発電MEMS構造の基本的設計論を確立し、基本構造試作・評価等により、その方向性が正しいことを 確認した。また本研究が実現を目指すセンサノードはバッテリレスを目指すがゆえに,極低ビット・極低サンプリング レートとなる。そのため、実現するシステムは、環境に配備されたセンサデータに対して極低ビット・極低サンプリング レートで蓄積されたものを想定せざるを得ない。
  そこで、本年度は、極低ビット・極低サンプリングレートで検出できるイベントの洗い出しを行った。とりわけ、 1bit 表現、1 sec.サンプリングを仮定し,既存の検出可能イベント群(10bit表現,30msec.サンプリングで検出可能)の 中から個々のイベントを検討し、極低ビット・極低サンプリングレートで検出可能なイベントを特定した。

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2.研究実施内容

1. 市川チーム (環境知能統合システムの研究)

・  ユビキタス環境知能統合デモシステムの構築の準備段階として、環境知能統合システム基盤ネットワークの構築準備に取り組んだ。当該年度では、実用システムではあるが、機能的には環境知能の原始段階と考えられるアクティブ RFID による実験システム構築を開始した。ここでは、実用アプリケーションが動作すること、ユビキタスワイヤレスネットワーク研究と連携させるためソフトウェア無線技術が適用できること、技術者コミュニティとの研究開発連携のためにオープンソースを活用することを意識した設計を進めている。次年度は多様な端末システム、アプリケーションとの統合および異なる組織が運用する環境知能の相互接続技術を検討する環境を構築し、後期フェーズでのユビキタス環境知能統合デモシステムの構成について設計指針を得る。
図1.環境知能とユビキタスワイヤレスネットワークADUNとの統合イメージ図1.環境知能とユビキタスワイヤレスネットワークADUN との統合イメージ

・ ULPの産業戦略立案に関しては、12月のULPアドバイザおよび関連チームメンバによるブレーンストーミングにおいてポストIPへの取り組みを基本とし、破壊的イノベーション戦略と持続的イノベーション戦略の両面からなり、かつ究極ゴール追求と現状からとの挟み撃ちアプローチによる統合戦略素案を提案した。本ブレストの意見交換結果も交え、今後は多様な端末システム、アプリケーションとの統合のための環構築を目指し、各ULPプロジェクトとの連携フレームワーク設計、RFIDアプリケーションコミュニティのメンバ候補を調査検討するとともに、コミュニティで共有し、育てるシーズとなるアプリケーションの開発、それを促進するアプリケーション開発環境の検討を進める。

2 NTTチーム (フルワイヤレス端末および極低ビットイベント表現の研究開発)

  実世界の事象をリアルタイムにワークコンテンツ化するために重要な基礎・基盤的研究開発を進めた。実世界のセンシングに要するエネルギーを極限まで抑えるために、自然エネルギー(生活空間の振動エネルギー等)を利用して、バッテリレス動作する“フルワイヤレス”センサノード実現のための、超低エネルギーなワイヤレス回路・端末技術、さらには発電・ゼロパワーセンシングにむけたMEMS技術開発を開始した。さらに、フルワイヤレスセンサノードから送られてくる、少量ビットのセンシング結果からでも実世界の様々な出来事を推論する環境知能システムの構築を進めた。

@ フルワイヤレス端末の研究開発
 @-1 ワイヤレス回路・端末技術
  キャリア信号を用いない超低電力オールディジタル化広帯域ベースバンド直接伝送方式を、本研究計画で対象とするワイヤレス端末に適用させることを目指して、下記の項目を実施した。
(1)受信信号抽出・出力システムの試作および機能評価として、まずは、アナログ信号である受信出力信号から、送信ベースバンド信号に対応したデジタルデータを抽出するための入出力回路の設計と、抽出したデータから PC ベースで解析し表示できる装置を実現した(図2)。既存 FPGA ボードを用いて約 11Mbps で PC に転送するインターフェースを実装し、高い時間分解能と、連続して到来する ID 信号を識別する機能を確認した。
(2)上記受信システムを用いて、市販の接点素子によって振動イベントを検知したタイミングでテスト端末からIDを送信し、受信側でそのIDを表示する実験を実施した。各種受信パラメータ制御性の確認を行うとともに、時間分解能(相対値)約 1msec の結果を得た(図3)。本年度の結果により、本超低電力無線方式の基本的な送受信動作を確認し、目標とするワイヤレス端末の実現性評価に向け前進した。次年度は、振動イベントなどのセンシング情報を本無線方式により送受信する実験を行うとともに、消費電力レベルの確認、複数端末を想定した性能検討を行う予定である。

図2.受信機能評価のブロック図      図2.受信機能評価のブロック図

図3. 伝送実験結果                  図3. 伝送実験結果

 @-2 MEMSデバイス技術
  身の回りの振動からエネルギーを収穫する振動発電デバイスと、極低電力でモノの動きをセンシングする振動センサをターゲットに、MEMS技術によるフルワイヤレスセンサノード用の振動デバイスの実現を目標にしている。今年度は、
● 振動デバイスの基本構造検討として、身の回りにある低周波の振動で動作する振動デバイスの構造の検討・設計、
● MEMS製造プロセスの基盤構築として、振動子の作製に必要な厚膜めっきプロセスの基本検討、
を実施した。
図4.Auめっきで一体作製した振動デバイスの可動構造とばねの走査電子顕微鏡像図4.Auめっきで一体作製した振動デバイスの可動構造とばねの走査電子顕微鏡像  振動子の構造検討にあたっては、デバイス作製 技術として厚膜 Au めっきプロセスを用いた MEMS 製造技術 を利用することを考慮し、身の回りの振動で動作する振動子 の構造、サイズについてモデル計算により検討した。身の回 りの振動は数 100 Hz 以下の周波数領域に振動エネルギー が分布することが多く、このような低周波領域のエネルギー を効率よく収穫(変換)するためには、振動子の共振周波数 が低い必要がある。振動子を製造する材料として Au を用い ることにより、(1)Au は密度が大きいことから他の材料と比較 して質量の大きな可動部を形成することができ、(2)ヤング率 が小さいという特徴からばね定数の小さいばね部を形成す ることができる。質量の大きい可動部とばね定数の小さいばね部を厚膜 Au めっきで形成することで、振動子の共振周波数を低くすることができる。モデル計算による検討の結果、 数 100 Hz 以下で水平方向に振動する振動子を Au めっきで作製する場合、サイズが数mm□の可動部と幅が数μm のばね部を厚膜めっきで作製する必要があるという指針を得た。次に、構造検討した振動子の作製に必要となる厚膜 Au めっきプロセスの基本検討を実施した。Au めっきの膜厚として数 10μm 程度を考えたとき、サイズが数mm□の大面積可動部は厚さと横方向寸法のアスペクト比が小さいパターンであり、幅が数μm のばね部はアスペクト比が大きなパターンである。すなわち、振動子の可動構造を作製するためにはアスペクト比が大きく異なるパターンを形成する必要があり、このようなパターンを Au めっきで形成するプロセスを検討した。寸法の大きく異なるパターンを同時に形成するための露光条件の検討とめっき形成条件を検討することにより、アスペクト比が 500 倍異なるパターンにおいても均一な膜厚でめっきを形成することができた(図4)。以上、今年度得られた結果から、厚膜めっきプロセスによって低周波で振動する振動子を作製可能と判断し、来年度はこの振動子を搭載するMEMS振動デバイスの試作、動作確認を実施する。

A. 極低ビットイベント表現の研究開発
  本提案で研究開発するフルワイヤレスセンサノードは極低ビット・極低サンプリングレートとなる。 そのため、実現するシステムは、環境に配備されたセンサデータに対して極低ビット・極低サンプリングレートで蓄積されたものを想定せざるを得ない。そこで、当該年度は、極低ビット・極低サンプリングレートで検出できるイベントの洗い出しを行った。とりわけ、1bit 表現、1 sec.サンプリングを仮定し,既存の検出可能イベント群(10bit 表現, 30 msec.サンプリングで検出可能)の中から個々のイベントを検討し、極低ビット・極低サンプリングレートで検出可能なイベントを特定した。
  仮定できるセンサノードを、情報は1 bit(2 値ディジタル信号)、それと同程度 (3〜10 値ディジタル信号)とし、加速度・照度について閾値以上・以下の判定で行う方針をとる。サンプリングレートは平均して1 bit/sec.だが、IDを持つことができると仮定した。その上で、目標を現行実世界検索システムの40イベントの半分のイベントの検索と置いた。ただし,現行システムは、10 ビット表現のデータで 30msec.ごとのサンプリングを行っている。
  その前提のもとで、現行の実世界イベント検索システムが検索できる40イベントを吟味し、2値ディジタル信号/sec.で検索できそうなイベントの抽出を行った。抽出したイベントは以下。
be-and-remain-in-particular-condition,
be-and-remain-in-particular-state,
become-greater-in-amount,
become-smaller-in-amount,
cause-to-move,
cause-to-stop,
change-condition,
change-location,
change-state,
continue-certain-state,
continue-in-situation,
stay-put,
undergo-change.
これらのうち、
change-location 前後の文脈に関係なく「動く」、
cause-to-move 始め止まっている状態から「動く」、
stay-put じっとして「動かない」、
increase 暗から明へ、
change-state 静から動(逆も)、または、暗から明(逆も)。
  これらにつき、言語語彙タグ付きデータを利用し、仮定できる情報量で検出できるか否かをある条件のもとで判定し,サンプリングレート 500msec.でほぼ検出できることを確認した。

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3.研究実施体制

1. 電気通信大学グループ

(1) 研究分担グループ長 : 市川 晴久(電気通信大学、教授)
(2) 研究項目
  統合システムの研究開発

  • 環境知能統合システム基盤ネットワークの構築
  • ユビキタス環境知能統合デモシステムの構築

2. 「NTT」グループ

(1) 研究分担グループ長:研究分担グループ長:武藤 伸一郎(NTTマイクロシステムインテグレーション研究所、研究グループリーダ)
(2) 研究項目
  フルワイヤレス端末および極低ビットイベント表現の研究開発

  • ワイヤレス端末・回路技術の研究
  • MEMS デバイス技術の研究
  • 極低ビットイベント表現の構築
  • フルワイヤレスセンサノードを用いた実証

4.成果発表等

論文発表(原著論文)

  • H. Ichikawa, M. Shimizu and K. Akabane, “Ubiquitous Networks with Radio Space Extension over Broadband Networks”, Trans. IEICE,Vol.E90-B,No.12, pp.3445-3451,2007.

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