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研究チームの研究成果

単一磁束量子回路による再構成可能な低電力高性能プロセッサ

研究代表者

高木 直史

(名古屋大学大学院情報科学研究科 教授)

平成18年度研究報告

1.研究実施の概要

 半導体CMOS集積回路によるプロセッサの性能向上は、回路の微細化に伴う発熱(消費電力)の問題から、限界に達して来ている。また、メモリの性能がプロセッサの性能に比べて低いためにコンピュータ・システム全体としての性能を向上できないという問題(メモリウォール問題)が顕著化してきている。本研究では、これらの問題を解決するために、超伝導単一磁束量子(SFQ)回路による再構成可能な大規模データパス(RDP)を有するプロセッサの基盤技術を確立し、今後0.5um超伝導集積回路プロセス技術が確立されれば10テラフロップス級デスクサイド・コンピュータが実現可能であることを示す。そのために、RDPアーキテクチャ技術の確立、SFQ回路による再構成可能な回路の構成法の開発、SFQ-RDPに適した算術演算ユニットの構成法の開発、SFQ論理回路設計技術の開発、SFQ回路プロセスの高度化及び高信頼化を行う。
  平成18年度は、RDPアーキテクチャ技術に関しては、二電子積分計算プログラムを対象としたアプリケーション分析、オンチップ・ネットワーク構成の検討、演算資源割当てツールの開発を行った。SFQ回路による再構成可能な回路の構成法の開発に関しては、SFQ回路に適した新たな設計手法を提案することによりRDP搭載用25GHzALUの開発を行い、一部の機能を除き正常動作を確認した。さらに、来年度目標の2並列1段(2x1)RDPの全体設計を先行実施し、スイッチネットワークの正常動作などを確認し、2x1RDPの開発に目処をつけた。また、データストリームバッファ用の非同期読み書き可能なFIFOバッファの高速動作実証に成功した。SFQ-RDPに適した算術演算ユニットの構成法の開発に関しては、要素回路である4-bitビットスライス加算器、浮動小数点加算器用シフト加算ユニット、レイテンシの小さなビットシリアル乗算器を設計し、いずれも30GHz〜40GHzでの高速動作実証に成功した。さらに、浮動小数点除算器用の除算回路の構成法を開発した。また、浮動小数点演算器の構成について検討した。以上の研究は、当初の計画より、若干先行して進んでいるが、浮動小数点演算器はさまざまな構成が考えられ、どの構成を採用するかの決定には、さらに検討が必要である。
  SFQ論理回路設計技術の開発に関しては、超電導工学研究所のアドバンストプロセスに基づく論理セルライブラリの検討を行った結果、従来のデバイス構造では高集積化に対して課題が残ることが判明した。平成19年度より、超電導工学研究所が本プロジェクトに参加することにより、デバイス構造そのものの変更が可能となり、より高集積化に適したデバイス構造を追求することができる。当初本年度目標としていた論理セルライブラリ及び回路設計ツールの基本方針の決定は、このような経緯により、新デバイス構造に基づいたものとして、平成19年度前半までに実施することとした。また、フレキシブル配線技術として、従来のジョセフソン伝送線路(JTL)と受動配線(PTL)の交差技術を確立した。SFQ回路プロセスの高度化及び高信頼化は、平成19年度より、超電導工学研究所がプロジェクトに参加して、進める。

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2.研究実施内容

1.RDPアーキテクチャ技術
RDPアーキテクチャを決定するため、以下の三つの項目について研究、開発を行った。
@ 二電子積分計算プログラムを対象としたアプリケーション分析
  初期項ならびに漸化計算の表式に従い、二電子積分計算プログラムの実行において必要となる浮動小数点演算の種類(除算、開平、指数関数、誤差関数、積和など)、出現頻度、ならびに、それらの出現順序を分析した。また、これらの結果に基づき、RDPにおけるFPU(Floating-Point Unit)アレイ構成を検討した。
A RDPアーキテクチャの検討
図   二電子積分計算プログラムを対象とし、CMOS90nmプロセスを用いた場合の、配線資源であるORNの面積と演算資源面積との間のトレードオフ関係を解明した(右図)。また、二電子積分計算プログラムを対象としてRDPアーキテクチャを検討した。
B RDP向け演算資源割当てツールの開発
  実行対象プログラムのデータフロー・グラフを入力とするRDP向け演算資源割当てツールを開発した。本ツールには、搭載するFPU数やORN(Operand Routing Network)の配線能力を制約条件として与えることができる。

2.SFQ回路による再構成可能な回路の構成法の開発
  従来の2umプロセスによる25GHz動作2並列2段(2x2)SFQ-RDPの実現に向けて、25GHz動作ALUの開発を行うとともに、2並列1段(2x1)のRDPの全体設計を行った。また、データストリームバッファ用のFIFOバッファの高速動作実証に成功した。
@ 25GHz動作ALUの開発
  SFQ回路に適した新たな設計手法を提案し、動作速度の高速化を図った。これは、従来クリティカルパスとなっていた論理セル間の帰還ループを排除し、代わりに非破壊読み出し機能を持つメモリを用いて同様の機能を実現するというものである。その結果、18GHzから25GHzまで高速化が図れた。実際、試作した回路において、一部の機能を除いて25GHz動作を確認した。未動作機能に関しても、それを修正した設計を終了、試作中である。
A 2x1 RDPの全体設計
  上記のALUの開発状況を踏まえ、平成19年度の目標である2x1 RDPの全体設計を先行して行った。これにより、接合数、占有面積などの情報を得るとともに、バッファやALU間を結ぶスイッチネットワークの正常動作を確認した。
B データストリームバッファ用のFIFOバッファの高速動作実証
  非同期読み書き可能なFIFOバッファの新たな実現方法を提案した。2umプロセスを用いて本回路を試作し、32GHzでの非同期的な読み書き動作の実証を行なった。

3.SFQ-RDPに適した算術演算ユニットの構成法の開発
  要素回路を開発するとともに、浮動小数点演算器の構成について検討した。
@ 浮動小数点演算器の要素回路の開発
  浮動小数点演算器の要素回路として、ビットスライスアーキテクチャに基づくSFQ加算器、シフト加算ユニット、レイテンシの小さなビットシリアル乗算器、冗長2進表現を用いた非回復型除算アルゴリズムに基づくシストリック除算器を提案した。ビットスライスアーキテクチャに基づくSFQ加算器については、最適なビットスライス幅と動作性能の検討を行い、小規模で高い処理能力を有する加算器が実現できることを明らかにし、実際に4-bitビットスライス加算器を2umプロセスを用いて試作して、30GHzでの高速動作を実証した。シフト加算ユニットおよびビットシリアル乗算器については、動作性能の検討を行い、2umプロセスを用いて試作して、それぞれ35GHzおよび39GHzでの高速動作を実証した。また、シストリック除算回路については、シミュレーションにより、20GHzで動作するとの見積りを得た。
A 浮動小数点演算器の構成の検討
  浮動小数点加算器及び乗算器について、いくつかの構成法を検討した。さまざまな構成が考えられ、どの構成を採用するかの決定には、さらに検討が必要である。

4.SFQ論理回路設計技術の開発
  超電導工学研究所のアドバンストプロセスに基づく論理セルライブラリの検討を行った結果、従来のデバイス構造では高集積化に対して課題が残ることがわかった。また、フレキシブル配線技術として、従来のジョセフソン伝送線路(JTL)と受動配線(PTL)の交差技術を確立した。
@ フレキシブル配線技術の検討
  フレキシブル配線技術の検討として、従来のジョセフソン伝送線路(JTL)と受動配線(PTL)の交差について検討を行った。フレキシブル配線技術では、今後PTLと JTLの交差が多数生じる。この部分では、磁気的結合が結合係数4%程度となる。この影響について検証するため、交差部が多数存在する回路を設計・評価した。適切な構造を取ることにより、SFQパルスの正確な伝送及び回路動作余裕に影響がないことが確認され、交差技術を確立することができた。
A 論理セルライブラリ及び回路設計ツールの検討
  SFQ回路は直流電流駆動回路であり、高集積化に伴い駆動電流は増大する。SFQ回路は超高感度磁気センサの集合体であるため、この駆動電流に伴う磁場の影響を抑えることが最重要課題となる。超電導工学研究所のアドバンストプロセスでは、回路の駆動電流が、回路の接地面の下層、つまり、デバイス構造の最下部超伝導層(電源層)を流れる構造をとる。これは、駆動電流を供給したとき、回路の接地面が磁気シールド層として機能し、回路側への影響を抑制することを意図したものである。しかし、実際にこのシールド効果を評価したところ、必ずしも十分な効果が得られず、現在の構造及びレイヤパラメータでは集積化に課題が残ることがわかった。このため、デバイス構造そのものを変更することとし、論理セルライブラリ及び回路設計ツールの基本方針の決定は、平成19年度前半に持ち越した。

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3.研究実施体制

1. 高木グループ

(1) 研究分担グループ長:高木 直史(名古屋大学大学院情報科学研究科、教授)
(2) 研究項目

  • 多層配線プロセスに対応した論理回路設計ツールの開発
  • SFQ-RDP用算術演算ユニットの構成法の開発

2. 村上グループ

(1) 研究分担グループ長:村上 和彰(九州大学大学院システム情報科学研究院、教授)
(2) 研究項目

  • 二電子積分計算プログラムを対象としたアプリケーション分析
  • 大規模再構成可能データパス・アーキテクチャの検討

3. 吉川グループ

(1) 研究分担グループ長:吉川 信行(横浜国立大学大学院工学研究院、教授)
(2) 研究項目

  • 多層配線プロセスに適した論理セル開発
  • SFQ算術演算ユニットの高速動作実証

4. 赤池グループ

(1) 研究分担グループ長:赤池 宏之(名古屋大学大学院工学研究科、助手)
(2) 研究項目

  • 超伝導多層配線による広帯域フレキシブル超伝導配線技術及び論理セル設計技術の開発
  • SFQ回路による再構成可能なデータパスの実証

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