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研究代表者・研究課題

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事故予防のための日常行動センシングおよび計算論の基盤技術

西田 佳史

西田 佳史
独立行政法人 産業技術総合研究所
デジタルヒューマン 研究センター チーム長

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研究概要

 ユビキタス型・インターネット型人間センシング技術、大規模な人間行動蓄積データの処理技術、人間行動の計算論とを統合することで、個々の人の「現在の状態」を観察するだけでなく、「一歩先の状態」を観察するセンシングの基盤技術を確立します。これらの技術を、要素技術としてだけでなく、社会システム技術として乳幼児・高齢者の事故予防分野へ応用し、実際的な成果をあげつつ、事故予防のためのセンシングおよび計算論の基盤技術に寄与します。これにより、「日常の知の体系」とでも呼べる新しい知の体系を創造するための具体的な方法論を提示することが期待できます。


研究のアプローチ: ユビキタスセンサやウェアラブルセンサを用いることで子どもの日常行動のデータを収集する技術,インターネットを利用して事故事例を収集する技術(行動センシング技術),そして,これらのデータから事故の背後にある因果関係を再利用可能な知見として抽出する技術(行動モデリング技術),さらに,抽出された因果構造に基づいて,事故を再現できる映像として可視化し,インターネットなどを利用して保護者に情報提供する技術(行動モデル活用技術)を組み合わせることによって,事故予防の社会的なループをより強固で意味のあるものへと発展させられる.こうした社会のループができあがれば,安心・安全な社会を支える様々なサービスが可能になる.例えば,どこかで生じた子どもの事故の情報が即座に収集され,その子どもと似た子どもの保護者にいち早く伝達することで,同じような事故が繰り返されることを未然に防いだり,子どもにとって安全な製造物や環境の設計支援への応用などが考えられる.特に,リスク・マネジメントや育児支援の観点からは,子どもの心身の成長や発達を促す「リスク」と,死亡や重篤な障害に生じさせる「ハザード」をしっかりと分類し,ハザードの回避方法のみならず,リスクの効用(良い面)を明らかにしていくことへもつながる.


研究概要

研究概要


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実証実験

 ユビキタス型センシング技術,インターネット型センシング技術,人間行動の計算論(シミュレータ)を統合し,持続的に発展する社会的なシステムとして運用可能なシステムを提案・検証する.大規模な検証として,育児支援情報雑誌を発行している企業の協力を得てインターネット型センシングによるデータベースの構築実験と,構築されたデータベースの利用実験を実施する.さらに、ユビキタス型センシング技術によって計測した行動データを実時間で乳幼児行動シミュレータに入力し,シミュレータが,医療現場・一般家庭・保育所で収集された事故・怪我のデータベースと,乳幼児行動のモデルから,その月齢,その環境にある乳幼児がつぎにどんな行動をとり得るのかのシミュレーションを行うことで,その月齢にある乳幼児の危険箇所を実時間提示する検証実験を行なう.

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重要技術

(1)研究室における日常行動

 センシング安価なセンサや,マイコンの発展により,研究室のレベルでは,センシング機能を持った空間を構築することが容易になりつつある.日常生活空間で発現する乳幼児の多様な行動をセンシングするシステムとして,10m程度のオーダである日常生活空間で行なわれる行動現象をcmオーダで計測可能な超音波位置計測装置を開発してきた.開発システムを,日常生活空間を模擬した部屋に取り付け,実際の乳幼児やお母さんの行動の計測実験(90人)を行なうことで,例えば,9ヶ月〜2歳の乳幼児の場合,40cm程度の距離にある対象物に対して最も興味を持ちやすいといった知見が得られている.


(2)日常生活空間における日常行動センシング

 ウェアラブルセンシング技術を用いることで,研究室といった限られた空間内の日常行動だけでなく,一般家庭での日常行動もセンシング可能となる.例えば,把持行動は,誤飲といった事故の解析における基礎データとなり得るもので,日常生活における把持データを計測するために,ウェアラブルな筋電計を試作した.およそ3割程度の誤差で把持回数を推定することが可能になっている.把持回数のオーダは推定できそうである.日常把持以外にも,一日何回特定の行動を行なっているのか?などに関する定量的なデータや知見は全くない状態にある.もし,こうした情報が提供できれば,製品開発や,乳幼児行動の科学における基礎データとして有益な情報となる.


(3)社会における日常行動センシング

 乳幼児の事故や怪我の事例は,インターネット技術を用いて収集可能である.近い将来,収集するのに適した場所は,病院である.我々の調査からは,事故や怪我の情報を被害者の自発的な訴えのみに頼っていては,そのほとんどが収集できないことが分かっている.そこで,医師・病院と協力することで,事故・怪我の情報を収集する事故サーベイランスシステムを開発する.こうしたシステムにより,事故情報をセンシングすることで,事故や怪我の情報のみならず,どんな物体が居間に置かれているのか,物体と乳幼児はどのようにインタラクションしているのかといった日常生活や日常行動の情報も収集可能になる.


(4)日常行動のモデリング

 研究室で収集された子どもの行動データや,子どもの行動発達や怪我に関するデータなどは,いずれも統計的なデータとして蓄積されることが多い.乳幼児周辺の物体の存在,物体と乳幼児の行動の関係,月齢と行動の発達の関係など複数の不確定な要因の結果として表れる行動を計算機上で表現するための方法として,確率的な枠組みが便利である.個々の要因を適切な因果関係を用いて,計算機上で確率的に表現することでモデル化し,さらに,統合することで,日常環境で生じる乳幼児行動の包括的なモデルの構築が可能となる.


(5)持続的に発展するセンシングとモデリング

 最近では,各家庭にインターネットが普及しているので,事故・怪我の収集の場を,一般家庭に広げることで,迅速に膨大なデータを収集し,かつ,その場で乳幼児の保護者に有用な情報を提供できる新しいデータベース構築法も可能になりつつある.例えば,乳幼児の保護者が育児情報をWEB上で見る際に,自分の子どもの月齢や,その子どもが起こした怪我や事故を入力することで,すぐさま,その場で,それまでに蓄積されている子どもの属性や事故事例を参照し,その子どもが近い将来起こしやすい事故を推定し,事故をグラフィカルに提示する機能を有するデータベースである.入力された子どもの属性や怪我や事故の情報は蓄積され,推定精度を高めながら持続的に発展し続けるデータベースである.


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