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佐藤チーム
三浦裕亮研究員が日本気象協会より
山本・正野論文賞受賞

受賞者:三浦裕亮
((独)海洋研究開発機構・地球環境フロンティア研究センター・主任研究員)

受賞式:2008年11月20日


受賞名:日本気象協会山本・正野論文賞
    
受賞理由:      
マッデン・ジュリアン振動(MJO)は、熱帯域での(周期40〜50日の)気圧振動であるが、その実態は高度15kmに及ぶ発達した積乱雲群が東西スケール数千キロの大規模な集合体となり、平均約5m/s の速度でインド洋上から太平洋上へとゆっくり移動する現象である。MJOには赤道沿いに吹く強い西風など独特の大気循環を伴い、熱帯低気圧の発生やモンスーンの活動、エルニーニョ現象など、世界の気象・気候にも多大な影響を及ぼすことが明らかになってきている。このようなことから、熱帯域のみならず世界的な週間予報から季節予報の精度向上のため、MJOの適切な予測が期待されていた。しかし、従来の大気モデル(大気海洋結合モデルを含む)ではMJOを十分に再現することができなかった。三浦氏は、雲の生成・消滅を直接計算できる全球大気モデルを用いて、MJOの詳細な再現に成功した。MJOに伴う雲集団が発生から1カ月間先まで予測できる可能性を世界で初めて実証したもので、週間予報から季節予報の精度向上への見通しを示すとともに、世界的な大気モデル開発の方向性にも影響を与えることが予想される。 本論文で三浦氏は、雲の生成・消滅を直接計算できる全球大気モデルNICAMを用いて、平成18年12月にインド洋上で発生し、平成19年1月にかけて太平洋上へ移動した、MJOに伴う大規模雲活動の再現実験の結果を示した。再現実験では、水平メッシュ3.5kmで平成18年12月25日0UTCを計算開始時刻とした7日実験と、水平メッシュ7kmで同月15日0UTCを計算開始時刻とした30日実験とを行った。 水平メッシュ3.5kmの実験により、MJOに伴う広域雲分布の詳細構造を現実的に再現することができた。水平スケール数百キロの組織化した雲群がいくつも存在し、全体として東南アジア島嶼部を広く覆っている結果を得た。また、水平メッシュ7km の実験では、大規模雲活動のインド洋上から太平洋上への移動を時間的・空間的に精度良く再現することができた。さらに、MJOに伴いジャワ島の南に発生した熱帯低気圧について、計算開始から2週間以上を経た平成19年1月2日に、現実的な発生予測に成功した。特に、MJOが海洋大陸上を伝播する際に、ニューギニア島東方での下層の水蒸気量の蓄積の役割を指摘した点は重要である。東方からの約5日周期の擾乱に伴って下層の水蒸気が蓄積し、ニューギニア島東方でのメソ対流の活発化をもたらす。これにより、MJO本体がニューギニア島をジャンプすることが可能になるというメカニズムを明らかにした。  本論文の研究は、超高解像度の全球大気モデルを地球シミュレータ上で動かすことで初めて実現できたものであるが、本研究の成果は単に既存のモデルを走らせるだけで得られたものではない。三浦氏は、全球雲解像モデルによるMJOの再現実験を成功させたのち、その結果を詳しく解析し、東方からのロスビー波的な擾乱の伝播と水蒸気の蓄積の役割に着目した。作業仮説を裏付けるため、地形の起伏をゼロにした実験、海面水温を時間的に固定した実験などの感度実験を行うことにより、上記のMJOの海洋大陸上の伝播メカニズムを明らかにした。これらの成果はMJO研究のブレークスルーになると期待される。 以上の理由から、日本気象学会は三浦裕亮氏に2008年度山本・正野論文賞を贈るものである。      




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