水の循環系モデリングと利用システム

 

第5回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

鈴木雅一研究チーム


P011 インドシナ半島の降水現象の季節性と年々変動
P012 (その1)タイ山岳地・サラワクの降水変動
(その2)マレーシア熱帯雨林の雨水・渓流水の水質
P013 (その1)サラワク熱帯雨林の土壌呼吸の年変動
(その2)タイ熱帯落葉林の直径成長季節性
P014 常緑及び落葉熱帯季節林のエネルギー・水収支の季節変化
P015 (その1)東南アジア熱帯雨林と熱帯季節林の降水変動が
     土壌水分動態に与えるインパクト
(その2)タイ、マレーシアの熱帯林における
     水・炭素収支の季節変化、年々変動


 
P011 インドシナ半島の降水現象の季節性と年々変動
里村雄彦(京都大),山本恵子(京都大),横井覚(東京大),安形康(東京大),
木口雅司(東京大),松本淳(首都大学東京),川村隆一(富山大),中田淳子(岐阜大),
馬淵和雄(気象研)

  本研究では、インドシナ半島を中心としたアジアモンスーン地域における降水の様々な時間スケールでの変動を明らかにすることを目的として研究を推進した。
 短時間スケールでの降水変動の実態を詳細に解明するために、インドシナ半島の北緯18度付近、カンボジア、中部ベトナムに自記雨量計観測網を構築し、各地の日変化特性が地形の影響を受けて大きく変化すること、特に初冬季のベトナムでは年による日変化の違いが大きいことがわかった。
 北緯18度線に沿ってインドシナ半島を横断するように高時間分解能雨量観測網を展開し、降水日変化の季節・地域特性を明らかにすることが本研究の目的である。2005年度中に雨量観測網はほぼ完成した。昨年度から本年度にかけて2006年雨季のデータを順次回収し、降水日変化地域特性の解析を行った。 
 また、季節内変動については、インドシナ半島の地形の影響によって、各地での季節内変動が大きく異なることがデータ解析から明らかとなった。さらに、ベトナムにおける初冬季の豪雨は、シベリアからの寒波の吹き出しと、南方にある熱帯擾乱の相互作用によって発生していることが、事例および統計解析から明らかになった。
 年々変動については、再解析データなどのデータの統計解析と大気海洋結合モデルによる研究を進め、ENSOの衰退期(冬から夏)には、熱帯インド洋の海気相互作用とアジア大陸の陸面水文過程を介し、モンスーン開始の遅速や6窶狽V月のモンスーン降水量変化が、またENSOの発達期(夏から冬)には、8窶狽X月のモンスーン降水量に大きな影響が現れることが、明らかになった。さらに、3次元気候モデル用に開発され大気窶柏A生間のエネルギー収支・二酸化炭素収支を見積もることができる植物生態モデルBiosphere-Atmosphere Interaction Model (BAIM)を用いた気候モデル計算により、アジア域熱帯林における植生変動は、地域的な水収支・炭素収支に有意な変動をもたらすことが明らかとなった。

 
P012 (その1)タイ山岳地・サラワクの降水変動
蔵治光一郎(東京大学),Kowit Punyatrong(タイ国立公園野生生物管理局)

 タイ北部の山岳地帯に位置するメーチャム流域に設置した19地点の自記雨量計による降水の高時間・空間分解能の観測を行い、降水量、降水時間、降水強度等の標高依存性について解析した。1999〜2007年における年降水量、年平均降水強度、年降水時間と標高の関係は、どの年でも標高が高くなるにつれて降水量、年降水時間が増加する傾向がみられるが、年平均降水強度は標高によらず一定であった。年降水量、年平均降水強度、年降水時間の年々変動を調べたところ、年降水量の年々変動についても年降水量の標高依存性と同様に、年降水時間の変動が年降水量の変動を決めており、年平均降水強度の年々変動の影響は小さかった。インタノン山東側と西側の降水量の標高依存性を比較した結果東側、西側ではともに同程度の標高依存性がみられ、東側が西側に比べて特に少雨である傾向はみられなかった。
 ボルネオ島の降水の変動が熱帯雨林の生態系に及ぼす影響をするために、この地域の降水がどのようなメカニズムで降るのかを知るため、ボルネオ島北岸において海岸からの距離が降水の日周変動パターンを決めているという仮説を立て、それを検証するためにランビル国立公園付近の海岸線から内陸に向かって4地点に雨量計を設置して観測を行った。海岸では夜のピークが顕著であり午後のピークは明瞭でないが、内陸に向かうに従って午後のピークが明瞭になっていくことがわかった。この地域の降水量の日周変動パターンを決めている一つの重要な要因は海岸からの距離であることがわかった。

  (その2)マレーシア熱帯雨林の雨水・渓流水の水質
五名美江・蔵治光一郎(東京大学)

 マレーシア・サラワク州の低地熱帯雨林(ランビル国立公園)内に設定した2小流域(TL、CL)で2005年8月から水文・水質観測を実施し、降雨量・流出量・電気伝導度(EC)を連続観測した。降雨・林内雨・渓流水は水質分析用に週1〜2回定期的に採水した。2流域末端での出水時の渓流水、内部の多数の小流域の渓流水を採水した。さらにCL流域内に微小流域(CM)を設定し、土壌水(CM1〜5、深さ20、60、100cm)、地下水(CM4)、渓流水(CM1、CM4)を 2007年12月〜2008年1月に集中的に採水した。採水した水は現場に近い実験室で0.2μmのフィルターでろ過して持ち帰り、Cl-、NO3-、SO42-、Na+、NH4+、K2+、Mg+、Ca2+についてはイオンクロマトグラフ(島津製作所HIC-6A)で分析した。
 2005年8月〜2008年1月の降雨・林内雨・渓流水の算術平均濃度は、NO3-、NH4+、K+は林内雨の濃度が降雨と渓流水の濃度に比べて高く、他のイオンは渓流水の濃度が降雨と林内雨の濃度に比べて高かった。渓流水のSO42-平均濃度はCLで林内雨の6倍、TLで21倍あり、降雨と林内雨の濃度よりはるかに高濃度のSO42-が流出していた。このような高濃度SO42-の流出は蒸発散濃縮だけでは説明できず、流域内部に存在する硫黄化合物が酸化して生じたSO42-を起源とする流出の寄与が大きいことを示唆している。CM流域内で土壌水・地下水・渓流水のSO42-濃度の鉛直分布を調べた。CM4(CM流域の渓流水の湧水点)では土壌水・地下水・渓流水の順でSO42-濃度、(総)Fe濃度が高くなっていた。CM4より上流域に位置するCM5の土壌水についても、深くなるほどSO42-濃度、(総)Fe濃度が高くなる傾向があった。これは、土壌深部でパイライト(FeS2)の酸化が進行した結果であると推察される。

 
P013 (その1)サラワク熱帯雨林の土壌呼吸の年変動
大橋瑞江(兵庫県立大),久米朋宣(九州大)

 熱帯林は陸域全体の炭素プールの約40%を占めるため、同地域における土壌呼吸の発生パターンの解明は、生態系の炭素収支を解明する上で重要な研究課題の一つである。そこで、土壌呼吸の経時変動メカニズムを明らかにするため、マレーシア・サラワク州のランビルヒルズ国立公園で2002-2007年にかけて土壌呼吸の時空間変動の測定を行った。10m間隔で25点の測定箇所をメッシュ上に設け、密閉型チャンバー法を用いて土壌呼吸を2窶狽Uヶ月おきに測定した。土壌呼吸の25地点平均値は、2003年3月に3.5μmol m-2 s-1で最低、2006年6月に7.6μmol m-2 s-1で最大となった。6年間を通じて土壌呼吸に明瞭な季節性は認められず、同試験地の温暖湿潤な気候が土壌呼吸の非季節性をもたらしていると考えられた。しかし、土壌含水率と土壌呼吸との間に正の相関が認められたことから、土壌水分状態を指標とした土壌呼吸の推定が可能と考えられた。

  (その2)タイ熱帯落葉林の直径成長季節性
田中延亮(東京大),吉藤奈津子(九州大),Chatchai Tantasirin(Kasetsart大/タイ),
鈴木雅一(東京大)

 タイ熱帯落葉林サイトのメーモ試験林では、観測タワーを用いた渦相関法による生態系純CO2交換量(NEE)の観測結果の検証データとして、試験林内のチーク124本の葉量と直径を調査している。樹木直径の季節変化として次のようなことがわかった。雨季開始(4─5月)に伴って展葉が開始し、5月から6月にかけて葉量がしだいに増加する。この葉量増加期における直径成長は比較的鈍い。その後、6月末に葉が展開しきると、7月から8月にかけては直径成長が盛んになる。これは、チークの光合成による炭素同化が盛んであることを示唆する。9月には、土壌水分は湿潤状態にあるが、直径成長が鈍くなる。この時期の直径成長の鈍りは、観測タワーの渦相関法から得られる雨季後半のNEEの増加(生態系によるCO2吸収量の減少)に対応していると考えられる。また、2007年のメーモ試験林のチークの直径成長は、2006年よりも小さかった。その傾向が、渦相関法によるNEEの観測値と対応しているかは、今後の検討課題である。

 
P014 常緑及び落葉熱帯季節林のエネルギー・水収支の季節変化
吉藤奈津子(九州大),田中延亮(東京大),五十嵐康記(東京大),
田中克典(地球環境フロンティア研究センター),Chatchai Tantasirin(Kasetsart大/タイ),
鈴木雅一(東京大)

 常緑及び落葉熱帯季節林のエネルギー・水収支の季節変化の特徴を明らかにするため、タイ北部の丘陵性常緑季節林とチーク人工林(落葉性)において、同様の計測手法を用いて、複数年にわたって気象及び蒸発散の計測を行った。その結果、両サイトはいずれもモンスーンの影響を受けて明瞭な雨季乾季があり、降雨・日射・温湿度・土壌水分は類似した季節変化を示すが、蒸発散の季節変化はまったく異なることが明らかとなった。ここでは、両サイトにおける放射収支や乱流変動法や樹液流計測に基づく蒸散の季節変化を比較し、その特徴と差異を示す。

 
P015 (その1)東南アジア熱帯雨林と熱帯季節林の降水変動が
     土壌水分動態に与えるインパクト
熊谷朝臣(九州大)

 明らかな降雨パターンの違いを持つマレーシア熱帯雨林とタイ熱帯常緑季節林の2つの研究サイトにおいて、降雨の季節変動と年々変動のそれぞれが土壌水分動態に与える影響を「確率生態水文モデル」を利用して調べた。降水現象を確率過程と考え、過去の長期降水資料により確率密度関数パラメータを決定した。生態水文素過程(蒸発散・流出・貯留)を精密に記述した水収支式に降水確率分布を代入、整理して土壌水分確率分布を解析解として得た。生態水文素過程を表現するモデルは、両研究サイトにおけるこれまでのフラックス・微気象観測の成果により構築され、また、そのモデルパラメータが決定された。 まず、降水の確率パラメータの解析により、マレーシア熱帯雨林サイトでは少雨とエルニーニョの生起に密接な関係が認められた一方、タイ熱帯季節林ではエルニーニョと乾燥に有意な関係が見られないということ、タイ熱帯季節林では長期乾燥傾向が見られるということ、が明らかになった。様々なモデルパラメータ値を用いて、土壌水分確率分布を計算することで、主に植物にとって利用可能水分に関する生態系の頑健さは、マレーシア熱帯雨林では土壌物理性、タイ熱帯季節林では植物の根系深度と湿潤季から乾燥季に持ち越される水分に起因することが明らかとなった。

  (その2)タイ、マレーシアの熱帯林における
     水・炭素収支の季節変化、年々変動
鈴木雅一(東京大)

 タイの熱帯季節林(丘陵性常緑林)とマレーシア・サラワク州の熱帯雨林における様々な現地観測に基づいて推定した年間の水・炭素収支を示す。水収支については、降水量、蒸発散量、流出量について、炭素収支についてはGPP、NEE、土壌呼吸量などの各項目である。年平均値と季節変化について、それらの年々変動とともに示し、降水量変動の影響を明らかにした。




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