水の循環系モデリングと利用システム

 

第5回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

恩田裕一研究チーム


P001 森林荒廃が洪水・河川環境に及ぼす影響の解明とモデル化
窶矧マ測ネットワークとこれまでの観測結果の概要窶・/a>
P002 全観測サイトにおける表面流発生と浸透特性の比較
P003 流域の水・土砂流出における表面流・表面侵食の寄与
P004 リモートセンシングと分布型流出モデルを組み合わせた
森林荒廃流域の流出解析
P005 浸透能を考慮した森林維持管理モデル


 
P001 森林荒廃が洪水・河川環境に及ぼす影響の解明とモデル化
窶矧マ測ネットワークとこれまでの観測結果の概要窶・/td>
恩田裕一(筑波大院生環),Roy C. Sidle(京大防災研),小杉賢一朗(京大院農),
北原曜(信大農),寺嶋智巳(千葉大院理),平松晋也(信大農),蔵治光一郎(東大演習林),
五味高志(東京農工大),水垣滋(筑波大院生環)

 日本の国土の約40%は人工林であり、そのうち半数以上がスギ、ヒノキ林である。植栽後に間伐などの保育作業が十分に行われてこなかったヒノキ林では、林冠が閉塞し林床植生が少なくなり、土壌浸透能の低下によって表面流の発生や表土流亡が起こっていることが指摘されてきた。近年、流域を対象とした水資源管理、土地利用、河川生態系保全計画の必要性が指摘されていることから、斜面スケールから流域スケールでの人工林管理と水流出の関係を評価し、水流出予測を行う必要がある。そこで、高知県四万十町、三重県大紀町、長野県伊那市、愛知県犬山市、東京都青梅市の山林に、斜面プロット(0.5×2 m)、小流域(0.1〜10 ha)、中・大流域(10〜1000 ha)に入れ子状の観測施設を設定し水流出の観測を行った。植栽年や保育作業履歴の異なるヒノキ林および各地域に特徴的な人工林(カラマツやスギ林)と広葉樹林に覆われる源流域において水流出と水質の比較を行った。各観測流域の斜面プロットでは、林床が裸地化しているヒノキ林では、林床植生に覆われた森林と比較して、より多くの表面流や土壌侵食が発生していることを確認した。流域スケールではヒノキ林と広葉樹を比較する水流出や水サンプルの採取と分析が完了した。特に高知サイトや長野サイトはでは大規模な降雨イベントを対象とした水サンプルが採取できた。これらの水質データのうち、水の安定同位体を用いた成分分離を行った結果、広葉樹と比べて、林床が裸地化しているヒノキ林では、「新しい水」の流出寄与が大きい傾向を確認した。

 
P002 全観測サイトにおける表面流発生と浸透特性の比較
宮田秀介・五味高志(東京農工大),恩田裕一・水垣滋(筑波大院生環),
浅井宏紀(愛知県庁建設部),長嶺真理子・平松晋也(信大農),平野智章(千葉大院理),
寺嶋智己(京大防災研)

 高知・三重・東京サイトの樹種、林相、土壌特性の異なる斜面において表面流出量を観測し、樹種および林相、土壌の特性が表面流発生に及ぼす影響について検討することを目的とした。各サイトの林床が裸地化したヒノキプロットの平均表面流出率(降雨イベントごとの総表面流出量/総降雨量の平均)が0.09〜 0.58であったのに対し、広葉樹プロットの平均表面流出率は0.05〜0.14と、林床が裸地化したヒノキ林よりも少ないものの、広葉樹林斜面においても表面流が発生していた。また林床が下層植生とリターで被覆されたスギプロットにおいても同様に表面流が発生していた。このような各プロットにおける浸透特性の違いについて検討するために、人工降雨実験結果に基づいて提案された降雨強度と浸透強度の関係式を用いて、最大浸透能FIRmaxを各プロットの浸透特性の指標として求めた。同じサイト内で比較すると、ヒノキ林プロットのFIRmaxが小さい傾向がみられた。しかし、東京サイトのいずれのプロットもFIRmaxが大きいなど、全てのプロットについて得られたFIRmaxを考慮すると樹種などの植生による違いよりも、サイト間の差の方が大きかった。そこで、土壌特性とFIRmaxを比較した結果、FIRmaxは土壌の有効粒径D10(粒径加積曲線の10%粒径)との間に良い相関を示した。有効粒径が小さい、すなわち細かい粒子(粘土・シルト)を多く含む土壌ほど最終浸透能が低いことが示された。これは、降雨中に移動した細かい土粒子によって土壌孔隙が詰まってしまう(シーリング)ためであると考えられる。東京サイトでは、さらに土壌の空隙率が高いためにFIRmaxが高かったと考えられた。ただし、東京サイトでは浅い土層中のヒノキ根系に沿った側方流(根系流)が観測されており、表面流出量が小さいものの根系流によって降雨が速やかに流出していた。また、三重サイトにおいては撥水性の強弱がFIRmaxに浸透能に影響を及ぼすことが明らかとなった。

 
P003 流域の水・土砂流出における表面流・表面侵食の寄与
水垣滋・恩田裕一・福島武彦(筑波大院生環),五味高志(東京農工大),
福山泰治郎(金沢大環日本海),浅野友子(東大院農生),浅井宏紀(愛知県庁建設部),
長嶺真理子・平松晋也・北原曜(信大農),蔵治光一郎(東大愛演)

 荒廃したヒノキ人工林における表面流および表面侵食が流域の水・土砂流出に及ぼす影響を明らかにするため、プロットスケールから流域スケールでの水文・土砂流出観測を行った。また、水質および安定同位体を用いた流出水の成分分離、放射性同位体を用いた侵食量および浮遊土砂生産源の推定を行った。高知、信州、愛知サイトにおいて、ヒノキ林および広葉樹林流域を対象に、酸素同位体を用いて降雨流出に対する「新しい水(当該降雨水)」成分の寄与を推定した。解析対象とした降雨規模に違いはあるものの、総流出量およびピーク流出量に対する「新しい水」成分の寄与は、ヒノキ林流域で高い傾向が認められた。三重サイトのヒノキ林流域では、カリウムを用いて推定したホートン型表面流の寄与が、林床が荒廃している流域で40%程度と高く、林床植生のある流域では数%以下と低いことがわかった。三重サイトのヒノキ林流域において放射性降下物を用いて土壌侵食量の空間分布を調べたところ、土壌侵食量は空間的に不均一であり、地形解析から求めた表面流のせん断応力と相関が認められ、土壌侵食に対する表面流の寄与が示唆された。高知サイトでは、放射性降下物を用いた浮遊土砂の生産源推定を行い、森林表土由来の土砂が浮遊土砂の46〜69%を占めることがわかった。これらのことから、荒廃したヒノキ林斜面において降雨イベント時に発生する表面流および表面侵食土砂が、流域の水・土砂流出に大きく寄与している可能性が示された。

 
P004 リモートセンシングと分布型流出モデルを組み合わせた
森林荒廃流域の流出解析
Roy C. Sidle(京大防災研),五味高志(東京農工大),山本一清(名古屋大院農),
野々田稔郎(三重県林研),宮田秀介(東京農工大),小杉賢一朗(京大院農),
近森秀高(岡山大院),恩田裕一(筑波大院生環)

 分布型流出モデルの基礎となる流域地形の解析では、従来のグリッド(正方形要素)による分割ではなく、等高線による地形要素の分割(TOPOTUBE)を用いた。分布型流出モデルで必要となる土壌被覆量と浸透能の空間分布を把握するため、まず、LiDAR データから10×10m メッシュでのレーザーの地表面到達率から相対的な透過率を算出し、相対照度を推定した。得られた相対照度分布は現地林冠の閉塞状況や林床面の照度の空間分布を概ね再現した。相対照度のクラスを、0〜2%、2〜5%、5〜10%、10〜20%、20%以上の5段階に分けた。相対照度と土壌被覆量の関係式を用いて、各メッシュの林床被覆量を推定した。さらに現地人工降雨実験で得られた林床被覆量と浸透能の関係から、浸透能の空間分布を与えた。このように浸透能の空間分布を与えて流出解析を行った結果、計算と観測値との整合性は概ね良好であった。とくに、計算値におけるピーク流出の応答や逓減は観測値と同様な値を示していることから、本モデルは、表面流や地下水流などのプロセスの再現性も良好であると判断できた。各小流域における相対照度と斜面から渓流へ流入する表面流量を比較すると、相対照度が大きいほど表面流流入量が小さくなる傾向がみられた。このような林床植生量(相対照度の割合)との関係では、斜面からの浮遊土砂流出の寄与、カリウムを用いた表面流の流出成分分離の結果でも同様な傾向がみられる。本研究結果から、流域スケールでの浸透能を評価し、流出モデルを予測が可能となった。

 
P005 浸透能を考慮した森林維持管理モデル
野々田稔郎(三重県林研),山本一清・竹中千里(名大院農),平岡真合乃・恩田裕一・
水垣滋(筑波大院生環),五味高志(東農工大)

 水・物質循環の観点から荒廃したヒノキ人工林を適正な状態に維持管理していくための具体策を提言するため、林床被覆と浸透能との関係、汎用性の高い森林成長モデルを用いた間伐効果に関する実証的研究を行った。林床被覆の異なるヒノキ人工林斜面において散水実験を行い、浸透能を測定した。浸透能は下層植生量と強い正の相関を示し、ブラウンブランケの被度指標と浸透能との関係から、被度4以上の地点で90 mm/h以上の浸透能を示した。既往研究および現地調査の結果より、下層植生の侵入・生育には少なくとも10%以上、理想的には20%以上の相対照度が必要であること、相対照度を20%以上確保するためには、収量比数Ryを0.65以下に抑えるような密度管理(間伐)が必要であることが示唆された。下層植生の生育に適した森林管理モデルを検討するため、いくつかの施業シナリオを満たすように、システム収穫表DDPSを用いて間伐後20年間の収量比数Ryの変化を予測したところ、間伐遅れの林分では、本数間伐率60%が必要との計算結果が得られた。実際に本数間伐率61%で間伐した後の植生回復状況を調査したところ、18ヶ月後には下層植生により被度が100%となった。本研究により、林床被覆度と浸透能との関係が明らかとなり、これと森林維持管理モデルを組み合わせることで、間伐などの森林管理が森林の公益的機能に与える影響を定量的に評価できると考えられる。




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