水の循環系モデリングと利用システム

 

第5回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

永田俊研究チーム


P021 各種安定同位体比に基づく流域生態系の健全性・持続可能性指標の構築
(全体構想)
P022 琵琶湖および琵琶湖集水域における有機物負荷と窒素循環:
各種安定同位体比を用いた総合的な環境評価
P023 アミノ酸同位体法を用いた新しい生態系評価法の開発
P024 琵琶湖生態系の健全性評価窶蝿タ定同位体法の適用窶・/a>
P025 モンゴル国トール川流域の水質汚濁の現状と安定同位体指標の適用


 
P021 各種安定同位体比に基づく流域生態系の健全性・持続可能性指標の構築
(全体構想)
永田俊(東京大学海洋研究所)

 本研究では、先端的な安定同位体精密分析技術を駆使した、新しい流域環境評価手法の構築を提案した。環境中に存在する元素の安定同位体比には、水や物質の起源や、生態系の状態に関する情報が記録されている。そこで、本研究では、流域圏の様々な構成要素がもつ各種安定同位体比を、先端的な技術を駆使して体系的に調べ、そこに刻み込まれた情報を解析するとともに、得られた知見を総合化することで、流域環境の評価や流域管理の目標像の形成に資する新しい指標群を構築することを目的とした。研究は、(1)研究基盤の構築および新規技術の開発、(2)琵琶湖集水域および海外拠点における総合観測の展開、(3)情報の総合化による各種指標の構築、を3本の柱として進めた。総括グループのリーダーシップのもとに、「水循環・技術開発」、「物質循環」、「生態系」の3つのサブテーマが密接に連携する形で研究を推進した。プロジェクトの成果として、Science誌を含む有力国際誌に査読論文が多数(52件)発表されたほか、流域環境評価における安定同位体の利用を総合的にまとめた世界で初めての成書である「流域環境評価と安定同位体」(京都大学学術出版会)を出版した。本ポスターではチーム全体としての狙いと成果を概括する。

 
P022 琵琶湖および琵琶湖集水域における有機物負荷と窒素循環:
各種安定同位体比を用いた総合的な環境評価
永田俊(東京大学海洋研究所),大手信人(東京大学大学院農学生命科学研究科),
大河内直彦(海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター),
木庭啓介(東京農工大学大学院 共生科学技術研究院),眞壁明子,
吉田尚宏(東京工業大学大学院総合理工学研究科),由水千景(科学技術振興機構),
高津文人(科学技術振興機構・現 国立環境研究所),
陀安一郎(京都大学生態学研究センター),宮島利宏(東京大学海洋研究所)

 本研究では、琵琶湖に流入する河川および琵琶湖の健全性を窒素循環の観点から評価するための各種安定同位体比の開発研究を推進した。流入32河川を対象として、水質、栄養塩濃度、各種の安定同位体比の詳細な調査を行った。その結果をもとに、環境評価のために有用な安定同位体比情報の抽出を行った。特に、河川水の硝酸イオン(NO3-)が持つ窒素と酸素の安定同位体比をモニターし、様々な土地利用条件が混在する流域から河川に流出してくる溶存窒素の起源や流出過程での形態変化に関する情報を抽出した。また、琵琶湖の湖内に関しては、各態の窒素化合物の窒素安定同位体比を含む各種安定同位体比を総合的観測し、窒素循環や温室効果気体(一酸化二窒素)の発生メカニズムの査定を行った。本ポスターでは、これらの総合調査の成果を概括する。

 
P023 アミノ酸同位体法を用いた新しい生態系評価法の開発
大河内直彦(海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター)

 生物の窒素安定同位体比は、生態系の構造(食物連鎖)を解析するうえで優れた指標になる。しかし、この手法には問題点がある。栄養段階に伴う窒素同位体比の上昇幅が生態系によって大きく変動すること、一次生産者の妥当な窒素同位体比を得ることが難しい、という2点である。本研究では、これらの問題を解決する新手法を開発することに成功した。新たに開発した手法の原理は以下のようである。ある種のアミノ酸(例、グルタミン酸)は、代謝反応がアミノ基の脱離反応であるため、代謝されるものと代謝されずに体組織に残るものの間で同位体分別が起こる。したがって、栄養段階が1ステップ上昇するごとに窒素安定同位体比の大きな上昇がみられる。ところが、別の種類のアミノ酸(例、フェニルアラニン)では、初期代謝がアミノ基の脱離を伴わないため、同位体分別の影響を受けない。従って、餌の窒素同位体比が保存される。このように、代謝経路の異なるアミノ酸の窒素同位体比を比較することで、生物の栄養段階を推定するというのが、本方法の原理である。この推定法の長所は、栄養段階の推定に生産者(餌)の試料を必要としないことである。本ポスターでは、この新手法の適用例を紹介する。

 
P024 琵琶湖生態系の健全性評価窶蝿タ定同位体法の適用窶・/td>
奥田昇,陀安一郎 (京都大学生態学研究センター)

 集水域における人間活動の影響は、河川水の化学的性状の変化を介して、その流入先である湖沼や海洋の生態系を改変する。本研究は、琵琶湖を対象として、集水域の人間活動のシグナルを生物体組織の安定同位体比から読み取る手法、および、安定同位体比を用いた食物網構造解析から生態系機能に及ぼす人為影響を定量的に評価する手法を確立することを目的とした。流域規模や人口密度、土地利用形態の異なる集水域の河口33地点で生物採集調査を実施し、各生物種の炭素・窒素安定同位体比を分析した。その結果、底生動物の安定同位体比は流域人口密度の増加に伴う窒素負荷や農業活動に伴う有機物負荷を反映する良い生物指標となることが明らかとなった。これは、従来的な多地点・多時点の水質観測を行わずとも、流域生態系に対する人為インパクトを簡便に評価できる有効な手法となるだろう。また、沿岸底生動物群集の種多様度は、底質サイズ、Chl. a濃度、溶存酸素濃度など河川からの物質負荷の影響を受ける環境要因によって変化した。食物網構造解析によって、種多様度の高い群集ほどバイオマス及び高次生産性が高いことが示され、生態系機能の高い健全な状態を表す指標とみなすことができた。本研究は、物質循環的な側面から生態系健全性と従来的な生物多様性指標の関係性を実証的に示した初めての試みであり、今後の流域生態系管理に資する実践的な診断手法となるだろう。

 
P025 モンゴル国トール川流域の水質汚濁の現状と安定同位体指標の適用
永田俊(東京大学海洋研究所),陀安一郎,藤田昇(京都大学生態学研究センター),
木庭啓介(東京農工大学大学院 共生科学技術研究院),眞壁明子・
吉田尚宏(東京工業大学大学院総合理工学研究科),竹門康弘(京都大学防災研究所),
高津文人(科学技術振興機構・現 国立環境研究所)

 モンゴル国においては、首都への人口集中や経済・社会システムの急激な変化に伴って、重要な水資源である河川水の水質汚濁が深刻化している。本研究では、モンゴル科学アカデミーの研究者らとの共同で、水質汚濁の実態解明や汚濁源の特定を試みた。まず、トール川全流程の概要を把握した。その結果、ウランバートル市を通過後に、トール川の水質が著しく悪化することが示された。このことは、モンゴル科学アカデミーの共同研究者が実施した季節変化の観測からも裏付けられた。これらのデータを用いて、ウランバートル市からトール川への全窒素、全リンの負荷量を概算したところ、全窒素については3.3トン/日、全リンについては0.3トン/日と推定された。次に汚濁源を特定するために、ウランバートル市近郊の大小河川の詳細な水質調査を行った。その結果、市の西部に位置する大型の下水処理場から流入する排水が主要な汚濁源であることが示された。そこで、下水処理場からの廃水がトール川に流入するまでの約4 kmの区間の湿地帯において、詳細な総合観測を実施し、生態系(生物相)に対する影響、自然浄化(窒素除去)機能、温室効果気体の発生機構を、安定同位体指標を用いて評価した。 これらの成果は、モンゴルの共同研究者によって、ウランバートル市民に公表された(モンゴルエコフォーラム、於ウランバートル市、2007年8月)。本研究の成果が、同国の水利用・水資源管理の現場で生かされていくことが期待される。




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