水の循環系モデリングと利用システム

 

第4回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

丹治肇研究チーム


P016 ベトナムメコンデルタの塩水遡上地域における水文環境と水稲収穫量の関係
P017 トンレサップ湖氾濫域とベトナム領メコンデルタにおける水循環に関する研究
P018 メコン川下流域におけるTonle Sap湖の貯水効果に関する研究
P019 メコン川流域の水資源需給予測モデルの開発と分析
P020 メコン川流域の社会会計表推計と多国間応用一般均衡モデルの開発


 
P016 ベトナムメコンデルタの塩水遡上地域における水文環境と水稲収穫量の関係
小林和彦、相澤麻由(東京大学農学生命科学研究科)

 ベトナムのメコン川最下流の派川Tieu 川とDai川の間に浮かぶ島Con Sau Xa (Tien Giang省)では、全長34 km の島の上流部から下流部に向けて、水稲作付け回数が3回から1回まで勾配を示す。この島で実態調査を行って、水文環境と水稲作付け回数及び収穫量の関係を明らかにした。年間の米収量は、1期作地帯の平均3.4t/haから、3期作地帯の平均10.8 t/haまで大きく異なるが、これは水稲作付け回数が水稲作付け可能期間によって強く制約されるためである。水稲作付け可能期間は、河川の塩分濃度が2g /L を下回る期間とほぼ対応するので、島の下流側ほど、塩分濃度の高い期間が長く、従って水稲作付け回数が少ない。なお、河川と灌漑水路の間に水門を設置して灌漑水への塩水遡上の影響を防ぐと、塩分濃度の低い期間を長くできるが、場所によっては酸性硫酸塩土壌から漏出した酸性水の排出が遅くなり、灌漑水路の pHが低い期間が延びる。そうすると、水稲作付け可能期間が逆に短くなり、水稲の作付け回数が減って収穫量が低下する。塩水遡上地域での水利改良には、塩分だけでなく酸性水の排水も考慮する必要がある。

 
P017 トンレサップ湖氾濫域とベトナム領メコンデルタにおける水循環に関する研究
久保成隆、Someth Paradis、Hoang Ngan Giang、片岡大佑(東京農工大学)

 トンレサップ湖周辺には水田稲作を中心とする農業に適した広大な氾濫域が広がり、また、湖は稲作のために必要な水を供給するポテンシャルを有する。しかし、現状では、湖水の年変動は7〜8mにも及び、湖の水を適切に管理制御する有効な方法がなく、広大な氾濫域の大部分は、雨期には洪水で溢れ、乾期には水不足に陥る。ここでは、実在するバライ灌漑システムとバテイ灌漑システムを対象として、これらが、将来の水資源開発・灌漑プロジェクトのモデルと成るか否かを含め、水需給構造を分析した。
 一方、メコン川下流域のベトナム領メコンデルタには、約246万haの農耕地や養殖池があり、その70%が稲作水田である。メコン川平均流量が減少する乾期には塩水がメコン川を遡上し、メコン川から取水している農耕地への影響は、最大で170万haに達すると言われている。乾期の平均流量を減少させる危険性を持つ水資源開発はメコン川委員会で協議され、デルタでは運河や水路にスルースゲートを設置して、塩水の侵入を防ぐ努力が行なわれている。メコン川平均流量の増減が塩水遡上にどの様な影響を与えるか。また、近年、多数設置されたスルースゲートが、デルタ内の水環境にどの様な影響を持つのか。これらに関して分析を試みた。

 
P018 メコン川下流域におけるTonle Sap湖の貯水効果に関する研究
黄文峰(科学技術振興機構)、
丹治肇(農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所)、
久保成隆(東京農工大学)、小林慎太郎(科学技術振興機構)

 メコン川の水循環において、Tonle Sap湖は特徴的な機能をもっており、特に、洪水時の洪水緩和の働きについては、今まで色々な検討がなされてきた。ここでは、洪水貯留が、乾期の流量を増強する効果に着目した解析を行う。メコン川のSemi-dynamic Modelを開発して、Tonle Sap湖の貯留効果のシミュレーションを可能にした。このモデルを使って、Tonle Sap湖の貯留効果を、現状、湖が開発された場合、湖がない場合について比較検討を行った。湖が開発された場合は、貯水容量が減少すると仮定した計算を行った。ここでは、乾期流量の増強効果をベトナム国境のメコン川の流量を指標にして検討した。貯留効果は、12月頃が大きく、年を越えると小さくなり、最終的な影響は3〜4月に及んだ。ベトナムのメコン川の渇水は3〜4月に起こる。貯留効果による、この時期の流量増加効果は見られるが、値は小さく、その有効性は具体的な開発シナリオと比較しないと判断は難しかった。

 
P019 メコン川流域の水資源需給予測モデルの開発と分析
多田稔(国際農林水産業研究センター)、
丹治肇(農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所)、
小林慎太郎(科学技術振興機構)、齋藤勝宏(東京大学農学生命科学研究科)、
小山修(国際農林水産業研究センター)

 メコン川流域では雨期と乾期における降水量格差が大きく、それに応じて利用可能な水資源量も季節変動するため、経済発展によって増加することが予想される乾期の水需要を、メコン川水系が賄うことが可能なのかという問題が生じる。そこで当研究では、水需給の予測モデルを開発し、経済発展と水需要の関係を分析する。
 予測モデルは流域各ノードにおける水需要量が増加(減少)することによって下流域に対する水供給が減少(増加)する構造を持ち、水需要量と上流域からの流入を加算した水資源量との比較をノードごとに行う。モデル構築に際しては、月別の水資源量、上流から下流への流下日数、トンレサップ湖の貯水機能を考慮している。ノード別産業別の水需要量は、シナリオによって与える経済成長と、統計的に推定した水需要関数によって予測する。
 今後メコン川流域において高い経済成長率が実現し、また高水準の米価が継続した場合、中国雲南、東北タイ、ベトナム・メコンデルタにおける水需要の伸びが大きくなると予測された。特にベトナムのメコンデルタにおいては、4月の水需要量の資源量に対する比率は、現在の25%から2050年の53%に上昇するという結果になった。

 
P020 メコン川流域の社会会計表推計と多国間応用一般均衡モデルの開発
小林慎太郎(科学技術振興機構)、
丹治肇(農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所)、
齋藤勝宏(東京大学農学生命科学研究科)、
多田稔・小山修(国際農林水産業研究センター)

 メコン川流域の途上国では、貧困削減とそれを可能にする経済発展が期待されている。当地域の経済発展の実現性は、一国のポテンシャルで決まるものではなく、周辺諸国との相互作用に大きな影響を受けると考えられる。例えばラオスの山間部には水力発電ダムの適地があるが、産業が未発達であるラオスが水力発電によって成長できるかどうかは、購入者として期待されるタイなど周辺国のエネルギー需要にも左右される。
 そこで流域諸国の相互作用を通して、経済発展策がどのような効果を持つかについて分析を行うことを目的とし、メコン川中下流域の多国間応用一般均衡モデルを開発した。応用一般均衡モデルとは、市場における個々の経済主体の行動方程式(需要関数と供給関数)を用いて、複数市場の均衡を表す連立方程式を作り、均衡価格と取引量を予測するモデルである。ラオスとカンボジアについては、パラメータ設定に必要となる経済データが未整備なため、財・サービスの取引や資金の流れを記述する社会会計表の推計も行った。
 今後メコン川流域の開発政策の検討では、当モデルを活用した定量的で具体的な議論が有用になるだろう。




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