水の循環系モデリングと利用システム

 

第4回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

太田岳史研究チーム


P001 分布型流出モデルによるレナ川流域の水循環特性の現状把握と将来予測
P002 個葉スケールにおける温帯林から北方林にかけての気孔コンダクタンスの
環境応答特性
P003 根圏水分環境の履歴はカラマツの根系発達に影響を与えるか?
P004 北方林における生態系全体および下層植生の蒸発散量
P005 森林の空気力学的特性のパラメータ化


 
P001 分布型流出モデルによるレナ川流域の水循環特性の現状把握と将来予測
早川博(北見工業大学), 八田茂実(苫小牧工業高等専門学校),
朴昊澤(海洋研究開発機構),山崎剛(東北大学大学院理学研究科/海洋研究開発機構),
太田岳史 (名古屋大学大学院生命農学研究科)

 陸面モデルからの余剰水を分布型流出モデルに入力することにより,レナ川流域での水循環特性の現状把握と将来予測を行った.現状把握は1986年から 2003年の気象データに基づいて行った.まず,主な支流に関して,陸面モデルからの余剰水と実測流出量を比較した.その結果,東部のアルダン川流域では両者はほぼ一致し,南部のレナ川上流部では陸面モデルからの余剰水が40〜50 mm/yr程度小さかった.流出モデルによる計算では,基底流出成分に貯留関数を介することにより,冬期を含めた流出量の変動を再現することができた.春先の流出量の再現性にやや難があるが,これは河川結氷の計算が入っていないためである.結氷については,開始日,結氷厚,開氷日を積算寒度,標高,川幅,積算暖度,積雪深などから推定できる見通しが立った.
 将来予測はIPCCの予測結果を入力データとして,100年後(2082〜2100年) の水循環特性の変化を調べた.その結果によると,夏季の流出量が現在より10〜20 mm/month増加する一方,春の融雪に伴う出水は同程度減少する.夏季の流出量増加は降水量の増加に伴う.融雪期の流出量減少は,冬期に雪の昇華蒸発が増加する影響などで雪の量が減ることが影響していると考えられる.

 
P002 個葉スケールにおける温帯林から北方林にかけての気孔コンダクタンスの
環境応答特性
伊藤珠樹,太田岳史 (名古屋大学大学院生命農学研究科),
隅田明洋 (北海道大学低温科学研究所),
小林剛(香川大学),三木直子(岡山大学大学院環境学研究科)

 本プロジェクトで行われた研究により,異なるサイトに成立する複数の森林群落の表面コンダクタンス(Gs)の環境応答特性は,サイト毎に環境条件や優占樹種が異なっているにもかかわらず共通のパラメータを用いて表すことが可能であることが示唆された.そこで,個葉スケールにおける気孔コンダクタンス(gs)の環境応答特性を調べるため,2003年から2007年にかけて,東ユーラシアにおける温帯から寒帯に属する8サイトの森林で,カバノキ属3種,コナラ,カラマツ,アカマツ個葉のgsの測定を行った.
 着枝・自然条件下のデータにJarvis型モデルを適用し,放射,温度および飽差とgsの関係の解析を行った.その結果,アカマツを除く全樹種において,サイト(樹種)毎のパラメータを用いた場合とサイト共通のパラメータを用いた場合とでは,推定精度の差は顕著でなかった.一方,切枝・制御条件下の測定で得られた,放射,温度および飽差とgsの関係にはサイト(樹種)間差,個体間差および個葉間差が見られた.しかし,各個葉の最大のgsで規格化を行って再解析したところ,カバノキ属とカラマツの環境応答特性はよく似ていることが判明した.また,gsの地域間差は葉内窒素濃度によって説明できた.しかし,同一サイト内でのgsの個葉間差に関しては,より検討を必要とする.

 
P003 根圏水分環境の履歴はカラマツの根系発達に影響を与えるか?
宮原美恵,竹中千里,太田岳史 (名古屋大学大学院生命農学研究科),
T. C. Maximov,S. Karsanaev and M. Terentieva (IBPC, SD, RAS)

 樹木のような越年性の植物において,前年の生育環境が次年の成長に影響を与えることは,年輪解析などから知られている.このように越年する環境影響については,植物体の地上部の成長に関しての報告が多く,根系の発達に関しては研究例がほとんどない.本研究では,土壌水分環境の季節変動や年々変動の激しい東シベリアのカラマツ林において,土壌水分の履歴が根系の成長発達に影響を及ぼすか否かを明らかにすることに焦点を当てて,フィールド観察およびポット実験をおこなった.本研究では,カラマツ林林床をシートで覆うか覆わないかによって,水分環境を人為的に変化させたフィールド実験におけるカラマツ根系の観察から,前年の表層土壌が湿潤の場合,新根が浅い層に発達することが認められた.さらに,土壌水分条件をコントロールしたポット実験から,前年に表層土壌が乾燥状態となった処理区では,翌年の水分状態に関係なく,下層における根の発達が卓越するという結果が得られた.これらの結果は,根圏水分環境の履歴はカラマツの根系発達に影響を与えることを示唆した.

 
P004 北方林における生態系全体および下層植生の蒸発散量
飯田真一 (森林総合研究所),太田岳史 (名古屋大学大学院生命農学研究科),
中井太郎 (JST/CREST・北海道大学低温科学研究所),
松本一穂 (名古屋大学大学院生命農学研究科),
T. C. Maximov (IBPC, SD, RAS),A. J. Dolman (Vrije Univ., The Netherlands),
矢吹裕伯 (地球環境観測研究センター)

 北方林域に分布する明るいタイガでは,上層木の立木密度が低く,一方で林床には高密度の下層植生が存在する.こういった森林では下層植生から発生する蒸発散量が全蒸発散量の約半分に匹敵することが報告されているが,いずれも非連続長期間あるいは連続短期間の観測によるものであった.そこで,2生長期間に及ぶ連続長期間の観測を行い,これまで未解明であった下層植生の蒸発散量の季節変動,年々変動の把握を試みた.生態系全体および下層植生の蒸発散量は上層木の展葉期から増大して夏季にピークを有し,落葉期に向けて減少した.全蒸発散量に占める下層植生の蒸発散量の割合は,上層木の展葉期ではほぼ100%を占め,同期間では上層木は蒸散をしていなかった.この割合は,夏季では50%前後の比較的安定した値を示し,落葉とともに増大した.一方,2生長期間において上層木の展葉完了日は10日間程度異なり,展葉の完了が遅れた年では下層植生の蒸発散量が卓越したが,全蒸発散量には大きな差異は認められなかった.上層木の着葉期間で積算した下層植生の蒸発散量は全蒸発散量の50%を超え,本地域では下層植生が最も大きな蒸発散のソースであることが明らかとなった.

 
P005 森林の空気力学的特性のパラメータ化
中井太郎 (JST/CREST・北海道大学低温科学研究所),
隅田明洋 (北海道大学低温科学研究所),
大黒健一,松本一穂,太田岳史 (名古屋大学大学院生命農学研究科),
兒玉裕二 (北海道大学低温科学研究所),T.C. Maximov (IBPC, SD, RAS)

 樹種や密度が異なる森林を対象に空気力学的特性を評価するため,シベリアの北方林から本州の温帯林までの5つの異なる森林を対象に,森林の構造と空気力学的特性との関係を統一的に説明するモデルの開発を行った。
 まず,地面修正量dと粗度長z0を全ての森林で客観的に説明するため,これらを規格化する群落高hの決定方法を提案した。これまでの統計的な手法では,有効な群落高を同じ基準で客観的に求めることが出来なかったが,dとz0との間に成立する線形関係を用いることで,客観的に全ての森林のhを求めることが出来た。
 そして,このhで規格化したd/h,z0/hを説明するモデルの開発を行った。既存のd/h,z0/hモデルはPAIの関数であったが,幹空間を持つ森林の特性は説明できなかった。解析の結果,森林間の密度の相違が森林同士のd/h,z0/hの相違を説明しており,また各森林の着葉・落葉にともなうPAIの変化がd/h,z0/hの季節変化に対応することが分かった。これらを半経験的に1本の式に組み込むことで,対象とする5つの森林におけるd/h,z0/hの森林間の相違と各森林での季節変化とを統一的に説明できた。




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