水の循環系モデリングと利用システム

 

第4回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

恩田裕一研究チーム


P031 森林荒廃が洪水・河川環境に及ぼす影響の解明とモデル化
窶矧マ測ネットワークとこれまの観測結果の概要窶・/a>
P032 ヒノキ人工林および広葉樹林流域の流出特性の比較
P033 分布型流出モデルを用いた森林荒廃流域の水流出予測
P034 振動ノズル式散水装置によるヒノキ人工林の浸透能と植生被覆の関係
P035 間伐がスギ・ヒノキ人工林の光環境に与える効果


 
P031 森林荒廃が洪水・河川環境に及ぼす影響の解明とモデル化
窶矧マ測ネットワークとこれまの観測結果の概要窶・/td>
恩田裕一(筑波大院生環)、Roy C. Sidle(京大防災研)、小杉賢一朗(京大院農)、
北原曜(信大農)、寺嶋智巳(千葉大院理)、平松晋也(信大農)、
蔵治光一郎(東大演習林)、五味高志・水垣滋(JST)

 日本の国土の約40%は人工林であり,そのうち半数以上がスギ,ヒノキ林である。植栽後に間伐などの保育作業が十分に行われてこなかったヒノキ林では,林冠が閉塞し林床植生が少なくなり,土壌浸透能の低下によって表面流の発生や表土流亡が起こっていることが指摘されてきた.これまでは主に斜面の一部区間(プロット)で研究されてきたが,近年,流域を対象とした水資源管理,土地利用,河川生態系保全計画の必要性が指摘されていることから,斜面スケールから流域スケールでの人工林管理と水流出の関係を評価し,水流出予測を行う必要がある.そこで,高知県四万十町,三重県大紀町,長野県伊那市,愛知県犬山市,東京都青梅市の山林に,斜面プロット(0.5×2 m),小流域(0.1〜10 ha),中・大流域(10〜1000 ha)に入れ子状の観測施設を設定し水流出の観測を行った.植栽年や保育作業履歴の異なるヒノキ林および各地域に特徴的な人工林(カラマツやスギ林)と広葉樹林に覆われる源流域において水流出と水質の比較を行った.各観測流域の斜面プロットでは,林床が裸地化しているヒノキ林では,林床植生に覆われた森林と比較して,より多くの表面流や土壌侵食が発生していることを確認した.流域スケールではヒノキ林と広葉樹を比較する水流出や水サンプルの採取と分析が完了した.特に高知サイトや長野サイトはでは大規模な降雨イベントを対象とした水サンプルが採取できた.これらの水質データのうち、水の安定同位体を用いた成分分離を行った結果、広葉樹と比べて,林床が裸地化しているヒノキ林では,「新しい水」の流出寄与が大きい傾向を確認した.

 
P032 ヒノキ人工林および広葉樹林流域の流出特性の比較
水垣滋(JST)、恩田裕一・浅井宏紀(筑波大院生環)、成沢知宏(駒沢大)、
長嶺真理子(信州大院総工)、平野智章・寺嶋智己(千葉大院理)

 樹種の違いが流出に及ぼす影響を解明するため、同地域での同時観測による流出特性の比較を行っている。高知サイト(高知県四万十町)および東京サイト(東京都青梅市)の広葉樹およびヒノキ人工林が優占する流域(0.8〜54 ha)における流量データをもとに、流況曲線を作成し、直接流出量と降雨量の比より降雨イベント時の流出率を求めた.降雨に対する流出応答を流域毎に比較すると,総降雨量が比較的小さく集中的な降雨イベント(総降雨量 < 50 mm)では,ヒノキ林の流出ピークが広葉樹林よりも大きく,かつ降雨に対する応答も早かったことから,森林状態が降雨流出過程の違いに影響していると予想された。より大きな降雨イベントでは,岩盤流出などの寄与もあり,広葉樹流域とヒノキ林流域の流出波形に大きな違いは認められなかった。高知サイトの小流域スケール(0.8〜6.2 ha)の流況曲線では,最大流出高に樹種による違いが認められず,渇水流量はヒノキ林(2.3〜2.7 mm/day)の方が広葉樹林(3.7 mm/day)より小さかった。流出率を比較すると,総降雨量120 mm以下の単独降雨イベントではヒノキ林流域が広葉樹林より高く,総降雨量120 mm以上では広葉樹林がヒノキ林より高かった。東京サイトのヒノキ人工林(1.3 ha)および広葉樹林流域(1.3 ha)でも、総降雨量約100 mmを境界に同様の傾向がみられた。小流域スケールの流出特性は大きくばらつくと指摘されているが、総降雨量100〜120 mmを境界にヒノキ人工林および広葉樹林の流出率の大きさが逆転する共通の傾向が得られた。現在、高知サイトの中流域スケールのヒノキ人工林(33 ha)および広葉樹林流域(54 ha)を対象に、流出特性の解析を進めている。

 
P033 分布型流出モデルを用いた森林荒廃流域の水流出予測
Roy C. Sidle(京大防災研)、小杉賢一朗(京大院農)、近森秀高(岡山大院)、
五味高志(JST)、宮田秀介(京大院農)、恩田裕一(筑波大院生環)

 流出モデルの開発に当たり,斜面や流域スケールで観測されたプロセスを考慮し,モデリングにおける新たなパラメータの設定を行うなどの,フィールド観測とモデリングの両輪による研究を進めている.分布型流出モデルの基礎となる流域地形の解析では,従来のグリッド(正方形要素)による分割ではなく,等高線による地形要素の分割(TOPOTUBE)を用いた.TOPOTUBEは,等高線上で与えられた任意の間隔に,斜面上部から下部へ最短距離になる線を引くアルゴリズムで作成される.本研究では,LiDAR地形測量による詳細な等高線(1m)を用いて,TOPOTUBEを作成することによって,詳細な表面流の発生を再現した.浸透能は現地での散水実験によって得られた土壌浸透能を適用した.また,ヒノキ林における土壌では撥水性が表面流の発生に寄与していることが報告されていることから,撥水性による降雨初期の浸透能の変化も考慮した.CRESTのすべてのサイトの流域(流域面積5〜30ha)においてモデルを適用すると,林床が裸地化しているヒノキ林流域では,土壌浸透能の低下と撥水性による表面流の発生を考慮することによって,降雨に対する流出の応答が改善された.ただし,小流域や森林斜面プロットでは流域に一様に低い浸透能であると仮定すると,流域の流出を大きく見積もる傾向があった.そこで,現地での土壌被覆度調査によって,流域の植生被覆分布と浸透能の空間分布をモデルに与えた結果,斜面における表面流発生量や表面流発生の空間分布の再現性が改善された.すなわち,流域スケールでは表面流の浸透能の不均質性による表面流発生の空間的ばらつきを考慮することによって,表面流の発生予測が向上することが示唆された.

 
P034 振動ノズル式散水装置によるヒノキ人工林の浸透能と植生被覆の関係
平岡真合乃・恩田裕一・加藤弘亮・伊藤俊(筑波大院生環)、水垣滋・五味高志(JST)

 林床の裸地化に伴うヒノキ人工林の浸透能低下は、渇水流量の低下や下流河川の洪水などに影響するとして危惧されており、下層植生などの植生被覆による浸透能の回復が期待されている。しかし、十分な浸透能を確保するために必要な植生被覆量については、定量的なデータはない。また、既存の浸透能試験法は、雨滴衝撃による土壌構造の変化が考慮されておらず、得られた浸透能値は過大評価される。そこで、現地の浸透能を正しく評価するため、雨滴衝撃を再現できる散水装置を開発し、これを用いて測定したヒノキ林の浸透能と林床被覆との関係について定量評価をすすめている。調査地は高知県四万十町,三重県大紀町,長野県伊那市および東京都青梅市のヒノキ人工林斜面である。開発した散水装置は、散水ノズルを振動させることで林内雨の雨滴衝撃エネルギーを再現でき、不要な水を回収・再利用することで浸透試験に必要な水量を200リットル程度におさえている。この散水装置を用い、現地斜面に設置した方形区(投影面積1m2)に20〜35分間散水し(降雨強度180 mm/h)、散水量、区画下流端から流出する表面流出水量を1分間隔で測定、散水量と表面流出量の差分を浸透能とした。散水試験は、異なる植生被覆をもつ斜面(傾斜約35°)の37地点で行い、さらに植生被覆量およびリター被覆量を測定した。また、コドラート法による被度調査を行った。散水実験の結果から、林床被覆(植生+リター)量にしたがって浸透能は増大し、浸透能は林床被覆量の対数関数で近似でき、林床被覆量が1kg/m2以下で浸透能が激減することがわかった。被度調査から、被度と林床被覆量との間に強い正の相関が認められた。被度と浸透能との間にも相関が認められたことから、目視による被度調査からおよその浸透能値を推定できる可能性が示された。

 
P035 間伐がスギ・ヒノキ人工林の光環境に与える効果
小林健嗣(名大農)、山本一清・竹中千里(名大院生命農)、
野々田稔郎・島田博匡(三重県科技セ)

 施業放棄された人工林において、林床の裸地化等による公益機能の低下が危惧されている。そのため、間伐等林内光環境の改善による林床植生の回復が急務であると考えられる。間伐が林内光環境に与える影響に関してはこれまでに多くの報告例があるが、それらの知見が現在問題となっている施業放棄林に適用可能かは明らかでない。したがって、本研究では施業放棄林に対する間伐効果の広域的・経年的な評価を目的とした。まず、三重県中勢地域を対象として、保安林事業による間伐(本数間伐率30〜40%)後1〜6年が経過したスギ・ヒノキ人工林を抽出し、各経過年数ごとに数点の標準地(計21点、各10m×10mの方形プロット)を選定した。各標準地において全天空写真による林内光環境の測定及び標準地内の全立木について毎木調査(樹高・枝下高・胸高直径)を行い、間伐後経過年数に伴う林内光環境及びその林分構造との関係について検討した。
 その結果、全天空写真解析から得た相対照度は間伐後経過年数1年の林分でも4〜10%と低い値を示し、間伐後の時間経過に伴う変化も見られなかった。したがって施業放棄林において、30〜40%の本数間伐率では林内光環境改善には不十分である可能性が示唆された。




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