水の循環系モデリングと利用システム

 

第4回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

岡本謙一研究チーム


P006 全体概要
P007 地上レーダ観測
P008 降水物理モデルの開発・改良
P009 降水強度推定アルゴリズムの開発・改良
P010 全球降水マップの作成


 
P006 全体概要
岡本謙一1,井口俊夫2,高橋暢宏2,佐藤晋介2,花土弘2,中川勝広2,出世ゆかり2
岩波越3,青梨和正4,永戸久喜4,牛尾知雄5,阿波加純6,古津年章7,高薮縁8
井上豊志郎8,瀬戸心太8,沖理子9,清水収司9,可知美佐子9,福地一10
重尚一1,広瀬正史11,久保田拓志12
1:大阪府立大学,2:情報通信研究機構,3:防災科学技術研究所,4:気象研究所,5:大阪大学,6:北海道東海大学,7:島根大学,8:東京大学, 9: 宇宙航空研究開発機構,10:首都大学東京,11:名古屋大学, 12:科学技術振興機構

 本研究は、信頼性のある衛星搭載のマイクロ波放射計アルゴリズムを開発し、熱帯降雨観測衛星(TRMM)降雨レーダ(PR)データ、静止衛星の赤外放射計データをも総合的に利用して時間・空間分解能のよい全球降水マップを作成することを目的とした。このために本研究では、地上レーダ観測、降水物理モデル開発、降水強度推定アルゴリズム開発、及び全球降水マップ作成の各グループを組織した。
 TRMM/PRデータや地上レーダ観測データ等を用いて作成した降水物理モデルを用いて、放射伝達方程式に基づいて、マイクロ波放射計データから降水強度を算出するアルゴリズムを開発した。算出された複数衛星の降水強度データを合成して全球の降水マップを作成した。また、静止衛星の赤外放射計データを用いた補間アルゴリズムを用い、より高時間・高空間分解能の降水マップをも作成した。作成した全球降水マップは、他の衛星データ、地上レーダデータ、地上雨量計データやレーダー・アメダス解析雨量等と比較・検証し、アルゴリズムや全球降水マップの改良に反映した。また、降水マップデータは、DVD-Rや Webにより全世界のユーザに発信している。

 
P007 地上レーダ観測
岩波越1,中川勝広2,花土弘2,出世ゆかり2,北村康司2
1:防災科学技術研究所,2:情報通信研究機構

 地上レーダ観測グループでは、情報通信研究機構の沖縄偏波降雨レーダ(COBRA)、400MHzウィンドプロファイラ(WPR)および、防災科学技術研究所のミリ波ドップラーレーダ(MP-Ka)などを利用して「2004年沖縄梅雨集中観測(Okn-Baiu-04)」を実施した。降水物理量の導出手法を開発し、降雨強度推定アルゴリズム開発の基礎となる降水物理モデルの開発と降水マップの詳細な検証のためのデータベースの構築を行った。
 COBRAによるレーダ反射因子、降水強度の3次元データベースは、GSMaPのローカルな降水マップの地上検証に用いられたほか、雨滴粒径分布モデルの検証用にも用いられた。この3次元データベースは数値雲モデルと放射伝達モデルを組み合わせた降雪層における輝度温度の再現実験においても参照データとして用いられているが、0℃高度以上の降雪層のモデル化には更なる改良が必要である。WPRとMP-Kaのデータは主に鉛直方向の降水物理モデルの開発・検証に用いられた。WPRとCOBRAのデータを用いて、降雪層の粒径分布の推定手法が開発され、地上観測、マイクロレインレーダによる地表面に近い低高度の雨滴粒径分布と接続して、地上から降水頂までの粒径分布の鉛直プロファイルのデータベースが作成された。MP-Kaデータからは、降雪層の氷水量の鉛直プロファイルが推定され、地上降雨強度と鉛直積算氷水量の関係が求められた。また、TRMMやマイクロ波放射計では得られないパラメータ(ドップラー速度や二周波の反射強度因子など)が、降水プロファイル・雨滴粒径分布・融解層等のモデルの改良に役立てられた。さらに、降水過程を如実に反映していると考えられるCOBRAの偏波パラメータを用いた新しい降水タイプ分類手法が開発された。この手法は将来的には降水タイプ分類のみならず、雨滴粒径分布モデルや融解層モデルの取り扱いの改良などにも大きく寄与すると思われる。

 
P008 降水物理モデルの開発・改良
高橋暢宏1,阿波加純2,古津年章3,高薮縁4,広瀬正史5,久保田拓志6,佐藤晋介1
1:情報通信研究機構,2:北海道東海大学,3:島根大学,4:東京大学,
5:名古屋大学,6:科学技術振興機構

 マイクロ波放射計による降水リトリーバルは、一般的に降水強度や降水粒子タイプ(雨、雪など)の高度分布等をモデル化し(降水物理モデル)、降水強度と観測輝度温度の関係を予め求めておき、実際の観測輝度温度を最も説明できるモデルを推定値としている。本研究では、衛星搭載降雨レーダ(TRMM/PR)の降水物理モデルまたは衛星搭載降雨レーダから得られる降水物理情報を利用することにより、信頼度の高い降水物理モデルを構築することを目的とした。
 研究は、降水物理モデルとして改良を要する要素を抽出する作業を行い、それぞれの要素に対してモデルの構築・改良を進めた。この中で降水物理モデルの根幹をなすものとして、「降水プロファイル」、「雨滴粒径分布(DSD)」、「融解層」を取り上げた。さらに全球の降雨推定に適用し、高度化するために「大気環境情報として客観解析データの利用」、「全球の降水タイプの分類」、「対流性・層状性の降水の分類」手法を開発した。
 本研究における降水物理モデルは、まずTRMM/PRのデータをもとに全世界の降雨が10タイプに分けられることに注目し、それぞれのタイプで降雨強度ごとの降水プロファイルのモデル、DSDモデルをTRMM/PRの観測データから与えた。また、対流性降雨と層状性降雨の違いにも注目し、層状性降雨についてはTRMM/PRと同じ融解層モデルを与えた。それぞれの降水物理モデルの改良はおよそ10%程度の全球降水量に対するインパクトを持っており、これらのモデルの導入により降水強度推定精度の向上が見られた。今後の研究課題としては、0℃高度以上の雪・霰などのモデル化が挙げられる。

 
P009 降水強度推定アルゴリズムの開発・改良
重尚一1,青梨和正2,瀬戸心太3,井上豊志郎3,永戸久喜2,久保田拓志4
福地一5,清水収司6,井口俊夫7
1:大阪府立大学,2:気象研究所,3:東京大学,4:科学技術振興機構,
5:首都大学東京,6:宇宙航空研究開発機構,7:情報通信研究機構

 マイクロ波放射計による降水強度推定アルゴリズム(GSMaP_MWR)の開発・改良のテーマとして、TRMM PR(降雨レーダ)と物理的な整合性を有するマイクロ波放射計アルゴリズムの開発を目指した。まずPRによる同時観測データを利用できるTMIアルゴリズムの開発・改良を行い、順次AMSR-E, AMSRアルゴリズムの開発・改良を行った。GSMaP_MWRアルゴリズムの基本構造は、フォワード計算部分とリトリーバル部分からなる。フォワード計算部分では、降水物理モデルグループによって開発・改良された降水物理モデルを放射伝達方程式に組み込み、輝度温度と降水強度の関係をLook Up Tableの形に纏めた。リトリーバル部分は「降水強度の第一推定」→「陸上、海上、ならびに海岸線における降雨判定」→「非一様性の補正」→「散乱アルゴリズム」→「放射アルゴリズム(海上のみ)」という流れで降水強度を算出した。降雨有無判定(陸上、海上、および海岸)、降雨の非一様性の補正、および陸上の降雨推定すなわち散乱アルゴリズム、といった項目についてPRのデータを活用して改良を行った。その結果、海上、陸上に於いてPRの算出する降雨強度に極めて近い降雨強度を算出するアルゴリズムを開発することができた。TMI,AMSR-E,AMSR用の降水強度推定アルゴリズムの改良項目、ならびにTMI・AMSR-Eに比べて距離分解能の点で劣っていることを考慮に入れて開発したSSM/Iアルゴリズムに関して、研究実施方法・実施内容について述べる。

 
P010 全球降水マップの作成
久保田拓志1,牛尾知雄2,重尚一3,可知美佐子4,沖理子4,岡本謙一3
1:科学技術振興機構,2:大阪大学,3:大阪府立大学,4:宇宙航空研究開発機構

 降水強度推定アルゴリズム開発グループが開発した降雨リトリーバルアルゴリズムを用いて、種々の時間・空間分解能のマップを作成するとともに、作成された降水マップの評価や、研究成果の発信を行った。TMI、 AMSR-E、 AMSR、 SSM/I(5台)のマイクロ波放射計データから、緯度経度0.25度、各種時間分解能(1時間、1日、1ヶ月など)の全球降水マップの作成を行った。複数のマイクロ波放射計を用いた全球降水マップ(GSMaP_MWR)を1998〜2006年の9年分作成し、特にSSM/Iについては16年間(1991 /1〜2006/12)の全球降水マップを作成した。マイクロ波サウンダ(NOAA/AMSU-B)データからNOAAが算出した降雨強度と GSMaP_MWRの統合も試験的に行った。さらに、高時間分解能降水マップを作成するために、静止気象衛星搭載赤外放射計データから推定される雲の移動ベクトルやカルマンフィルタを用いて、マイクロ波放射計観測の間を補間する手法を開発しており、2004〜2005年について緯度経度0.1°、1時間の分解能の全球降水マップを作成した。
 作成された降水マップを評価し、アルゴリズム開発にフィードバックするため、TRMM衛星搭載降雨レーダ(PR)、及び、 NASAがTMI用に開発した標準アルゴリズム(GPROF)による降水量との比較を行った。さらに、地上レーダ観測グループから提供された地上レーダによる降水量や、GPCC地上雨量計データによる検証も行った。またWMOとCGMS(世界気象衛星調整グループ)の下部機関であるIPWG/PEHRPP に参加して、GSMaP研究チームや他の研究機関による高分解能降雨プロダクトと気象庁のレーダー・アメダス解析雨量との比較を行い、その結果をWeb に公開した(http://www.radar.aero.osakafu-u.ac.jp/~gsmap/IPWG/)。研究チームで作成した降雨プロダクトはDVD-Rやwebでユーザにデータ公開(http://www.gsmap.aero.osakafu-u.ac.jp/)している。




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