水の循環系モデリングと利用システム

 

第4回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

永田俊研究チーム


P051 各種安定同位体比に基づく流域生態系の健全性・持続可能性指標の
構築(全体構想)
P052 安定同位体比の微量・高速分析手法を駆使した流域環境の
高密度・高精度診断
P053 安定同位体比の微量・高速分析手法を駆使した流域環境の
高密度・高精度診断
P054 河川生態系の健全性評価窶蝿タ定同位体法の適用
P055 モンゴル国トール川流域の水質汚濁の現状と安定同位体指標の適用


 
P051 各種安定同位体比に基づく流域生態系の健全性・持続可能性指標の
構築(全体構想)
永田俊(京都大学生態学研究センター)その他

 流域環境の保全と再生や、生態系環境を考慮した健全な水循環の確保をめざした様々な取り組みがなされているが、これと関連して、客観的かつ総合的な流域環境評価(アセスメント)の方法の確立が急務となっている。本研究の中心的なアイデアは、流域生態系を構成する水、物質、生物の各種安定同位体比を体系的に観測することで、水文過程(水の起源や流出経路)、物質循環(栄養負荷源や生態系の基本代謝・浄化機能)、生態系構造(多様性と食物網)を含めた流域生態系の全体を統合的に診断する新たな指標群を構築することにある。炭素、窒素、酸素、水素などの安定同位体比は、それぞれの元素、あるいはその元素を含む化合物の発生起源や反応履歴を反映する鋭敏な指標となる。また、生物の場合ならば、生態系のエネルギー基盤(炭素源)や食物連鎖関係を評価することができる。本研究では、以上の原理に基づき、水循環と生態系環境の健全度を測る、新しい流域診断技術の開発を目指している。研究成果の統合化にむけ、安定同位体比を用いた流域環境診断と指標構築の原理と適用例をまとめた書物『流域環境評価と安定同位体』(京都大学学術出版会)の出版準備を進めている(2008年2月刊行予定)。

 
P052 安定同位体比の微量・高速分析手法を駆使した流域環境の
高密度・高精度診断
大手信人(東京大学大学院農学生命科学研究科)、大河内直彦(海洋研究開発機構)、
木庭啓介(東京農工大学大学院 共生科学技術研究院)、
由水千景(科学技術振興機構)、高津文人(科学技術振興機構)、
陀安一郎(京都大学生態学研究センター)、永田俊(京都大学生態学研究センター)、
その他

 各種安定同位体比に基づく流域環境診断手法を開発するうえでは、多数の環境試料を高速かつ高精度に測定する技術の開発が重要な課題となる。本研究では、質量分析の前処理に用いるフラッシュ型元素分析計に装備されている酸化管および還元管の流路断面積を最適化することで、世界で最も微量な各元素成分の質量分析等を正確に行うことができるようにした他、水域の窒素汚濁を表す重要な水質指標である硝酸イオンについて、窒素と酸素の安定同位体比を同時測定するシステムを構築した。また水の第3の同位体比17Oのアノマリの測定法を開発中である。これらの新しい手法を適用することで、野洲川流域における各種安定同位体比の分布に関する高密度シノプティック観測を展開した。その結果、硝酸イオンの窒素・酸素安定同位体比が、それぞれ、生活排水系および大気系の窒素負荷の指標として利用できることが示唆された。現在、これらの観測データを整理し、流域の土地利用や人口に関するGIS情報から原単位法により求めた窒素負荷と、安定同位体指標から推定した負荷源を比較する研究を進めている。

 
P053 安定同位体比の微量・高速分析手法を駆使した流域環境の
高密度・高精度診断
宮島利宏(東京大学海洋研究所)、
木庭啓介(東京農工大学大学院 共生科学技術研究院)、
吉田尚弘(東京工業大学大学院総合理工学研究科)、
陀安一郎(京都大学生態学研究センター)、
由水千景(科学技術振興機構)、永田俊(京都大学生態学研究センター)、
その他

 本研究では、近畿圏1400万人の水源である、我が国最大の淡水湖、琵琶湖を主要な研究対象とし、2年間にわたり、各種安定同位体比の時空間分布に関する総合的な観測を展開した。その結果、世界的にも例を見ない、大型淡水湖における各種安定同位体分布の包括的なデータセットを得ることに成功した。それらの成果を統合化することで、同湖の水・物質循環の評価指標としての各種安定同位体比の有用性の検証を行っている。これまでに得られた、主な新知見は以下のとおりである。1)溶存有機物の炭素安定同位体比の時空間分布から、夏期の表層に湖内起源(現地性)の溶存有機物が蓄積し、それが、冬季混合により深層に輸送されることが明らかになった。2)深層に蓄積する無機態炭素の安定同位体比から、深層で分解される有機炭素の起源の推定を行った。3)硝酸イオンおよび粒子態有機窒素の安定同位体比の時空間分布のデータを解析した結果、窒素安定同位体比が、有機物の分解の程度を表す指標になることが明らかになった。4)温室効果気体である一酸化二窒素について、窒素・酸素安定同位比およびアイソトポマーという3つの同位体パラメータを測定した。その結果、一酸化二窒素が主に堆積物表層で起きている硝化に由来することが示された。以上の知見を、琵琶湖への窒素・炭素負荷に関する物質収支の結果と比較する研究を推進中である。

 
P054 河川生態系の健全性評価窶蝿タ定同位体法の適用
竹門康弘(京都大学防災研究所)、高津文人(科学技術振興機構)、
奥田昇(京都大学生態学研究センター)、大河内直彦(海洋研究開発機構)、
永田俊(京都大学生態学研究センター)その他

 人為起源の窒素負荷や、貯水ダムの建設などにともなう河川環境の人為改変は、河川生態系に深刻な影響を及ぼす。本研究では、安定同位体比を用い、食物連鎖の基盤となる有機物の起源や、食物連鎖長から、生態系の健全性を査定する新しい方法論を確立することを目指している。この安定同位体指標を、従来から用いられている各種生物指標と組み合わせることで、より厚みのある生態系環境評価が可能になると期待される。これまでに得られた新たな知見は以下のとおりである。1)琵琶湖流入河川においては、窒素汚濁の進行ととともに、藻類、水草、水辺植物、昆虫、魚の窒素安定同位体比が一斉に上昇することが示された。2)富栄養化にともない、食物網の構造(食物連鎖の長さ)の変化や、生態系のエネルギー基盤の転換が起こることが示された。3)貯水ダム下流においては、河川生物群集の炭素安定同位体比の値が著しく減少することが確認された。4)アミノ酸の窒素安定同位体比から食物連鎖長を推定する手法の検討を行った。この新手法を用いることで、バルクの窒素同位体比を用いた従来法に比べてより高い精度で栄養段階を推定できることを明らかにした。これらの成果をふまえ、各種生物指標と安定同位体指標を組み合わせた総合的な生態系指標を構築する研究を推進中である。

 
P055 モンゴル国トール川流域の水質汚濁の現状と安定同位体指標の適用
永田俊・陀安一郎・藤田昇(京都大学生態学研究センター)
木庭啓介(東京農工大学大学院 共生科学技術研究院)、
竹門康弘(京都大学防災研究所)、高津文人(科学技術振興機構)
その他

 モンゴルでは、都市部への人口集中と急激な産業・経済構造の変化により、流域環境に対する人為影響が急速に強化・拡大し、水質や流域生態系環境を著しく劣化させている。貴重な水資源と流域生態系を持続的に利用し、健全な水循環を維持するためには、まず、汚染の実態や汚染物質の流達経路を明らかにすることが必要である。本研究ではモンゴルの首都、ウランバートルの近郊を流れるトール川の流域において、モンゴル科学アカデミーとの協力のもとに、水質と各種安定同位体比の総合調査を実施している。トール川上流域からオルホン川と合流するまでの区間における調査、季節的な調査、および、ウランバートル近郊における詳細なサンプリング、を実施した。その結果、ウランバートル西部にある下水処理施設の処理水流出域において、全窒素と全リンの著しい負荷があり、同処理場からの排出水が、トール川の主要な汚濁源となっている可能性が示された。この負荷に対応した各種安定同位体比の変動から、汚濁水流入域における浄化作用の査定を試みた。また、各態の窒素・リンの流下変化から、河川内部での物質循環過程の評価を行った。同河川における栄養負荷の物質収支に関する見積もりをふまえ、安定同位体指標の有効性を総合的に議論する。




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