水の循環系モデリングと利用システム

 

第4回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

古米弘明研究チーム


P026 リスク管理型都市水循環系の構造と機能の定量化
P027 道路排水の浸透に伴う土壌中の重金属形態と土壌特性の変化
P028 地下水における汚染物質の特定と土壌浸透による除去機構の解明
P029 水質リスクのラベリング
P030 都市内自己水源を活用した流域内における水資源配置に関する基礎的検討
窶白n下水涵養と雨水・下水再生水の利用に着目して窶・/a>


 
P026 リスク管理型都市水循環系の構造と機能の定量化
古米弘明(東京大学大学院工学系研究科)

 流域圏外からの水の導入に依存したフロー型都市水利用システムには限界があり、持続可能な水資源確保や健全な水循環系を構築するためには、都市域における雨水・涵養地下水利用や排水再利用が求められる。そこで、都市自己水源の「質」の動態変化を理解するために、微量汚染物質の雨天時流出挙動の評価、道路排水や下水処理水の地下浸透に伴う浄化機構の解明、医薬品を含めた微量汚染物質の分析、様々な水試料についての水質リスクの多面的な評価を行い、水利用におけるリスクと許容性の判断基準を明示して、都市自己水源の再利用と適正配置を提案することを目指して5年間の研究を実施した。
 下水処理水、道路排水に関する連続土壌カラム実験を実施し、地下水涵養プロセスにおける微量汚染物質の動態把握やその浄化機能の評価に関する研究成果の整理が進展した。また、2年にわたる大規模な河川水質調査を実施したことにより、新たな都市自己水源の水質リスクを比較参照する「水質の物差し」づくりがほぼ完成した。医薬品やフッ素系界面活性剤など実態把握が不十分である物質の定量や、バイオアッセイによる毒性評価など、都市の多様な水源についての多面的な水質情報が集積された。さらに、水利用者や利害関係者にわかりやすい水質リスク表示のあり方やその方法論も検討し、実務者・専門家からの意見も得ることができた。これらの成果を統合し、都市自己水源の適正配置とその利用へ向けた具体的な検討も行った。5年間の実施期間内で2回の国際ワークショップを開催し、国内外から多くの参加者を得て、活発な議論がなされた。

 
P027 道路排水の浸透に伴う土壌中の重金属形態と土壌特性の変化
M.A. Hossain1、古米弘明1、春日郁朗1、中島典之2、栗栖太1
1東京大学大学院工学系研究科、2東京大学環境安全研究センター

 本研究では、雨水浸透施設における道路排水の浸透過程に着目し、浸透条件によって、土壌中の重金属形態や土壌特性がどのように変化するのかを評価した。雨水浸透施設下の関東ローム層の土壌を充填したカラムを二本用意し、12週間にわたって人工道路排水を10mm hr-1で浸透させた。カラムごとに浸透条件を変え、片方は連続浸透としたのに対し、もう片方のカラムでは、晴天時の影響を評価するために、隔日で間欠浸透とした。
 その結果、両者の浸透条件によって、重金属の分布・存在形態は大きく異なった。連続浸透の場合、Cu、Zn、Niがカラム表層に高濃度に蓄積し、それらの形態は、酸交換画分、酸化画分、還元画分であった。一方、間欠浸透の場合は、表層への顕著な重金属の蓄積は確認されず、Znについては、酸化画分の存在量がバックグラウンドの値よりも減少していた。土壌特性について評価したところ、双方のカラムにおいて、炭酸塩含有量と陽イオン交換能の増加が観察され、道路由来の炭酸カルシウムなどの蓄積が推察され、Cu、Pb、Crなどの吸着を阻害することが推察された。また、カラム表層における強熱減量は、連続浸透条件よりも間欠浸透条件の方が低い値を示した。このことから、間欠浸透に伴い有機物の酸化が進み、結果的に重金属の移動性が増すことが推察された。

 
P028 地下水における汚染物質の特定と土壌浸透による除去機構の解明
村上道夫1、佐藤修之2、黒田啓介3、福士哲雄3、姉川彩4
中田典秀5、原田新5、小松俊哉6
高田秀重1、田中宏明7、小野芳朗4、滝沢智3
1 東京農工大学大学院共生科学技術研究院 5 土木研究所水環境研究グループ
2 いであ株式会社 環境創造研究所 6 長岡技術科学大学環境・建設系
3 東京大学大学院工学系研究科 7 京都大学大学院工学研究科
4 岡山大学大学院環境学研究科

 都市内自己水源として地下水涵養の利用が期待されている。しかしながら,地下水の汚染を様々な化学分析やバイオアッセイによって包括的にその実態を明らかにした報告はない。そこで,本研究では,地下水と河川水に対して様々な化学分析及びバイオアッセイを実施し,河川と比較して相対的に地下水汚染が顕著な物質を特定することを試みた。さらに,その上で,土壌カラム試験を実施し,土壌による除去との関係を明らかにした。
 東京都内における代表的な6地点の地下水試料及び全国一級河川試料(19〜38河川,21〜42地点)を採水し,包括的な化学分析及びバイオアッセイを行った。さらに,汚染物質の土壌浸透中の挙動を明らかにするために,二次処理水及び模擬道路排水を20cmカラムに12週間通水させた。対象とした汚染物質・毒性試験は,DOC,TN,TP,E260,triclosan, crotamiton, perfluorooctane sulfonate(PFOS), perfluorooctanoate(PFOA), polycyclic aromatic hydrocarbons(PAHs), mutagen formation potential(MFP), Microtox, yeast estrogen screen(YES)assayである。
 地下水中で相対的に汚染が顕著な物質・毒性項目を特定するために,河川水を尺度とした地下水のパーセンタイル順位を算出した。その結果,TN,DOC,PFOSの地下水のパーセンタイル順位の中間値が70%を超過し,これらの物質が河川と比較して地下水汚染が顕著であることが示唆された。一方で,MFP,TP,triclosan, Microtoxによる毒性評価, エストロゲン活性の地下水のパーセンタイル順位の中間値は20%未満であり,地下水汚染の程度が河川よりも低いと考えられた。地下水のパーセンタイル順位と20cmカラムによる除去率の間には有意な相関関係が認められ,土壌による除去率が低い物質ほど地下水での相対的な濃度レベルが高い傾向にあることが確認された。

 
P029 水質リスクのラベリング
毛利紫乃1、中田典秀2、村上道夫3、小野芳朗1、田中宏明4、鈴木穣2
高田秀重3、中島典之5、古米弘明6
1 岡山大学大学院環境学研究科 5 東京大学環境安全研究センター
2 土木研究所水環境研究グループ 6 東京大学大学院工学系研究科
3 東京農工大学大学院共生科学技術研究院
4 京都大学大学院工学研究科

 都市水循環系での雨水や再生水利用、涵養地下水利用の推進のためには、量の確保とともに「質」の管理において、より多種多様なリスクを想定した社会的にも判りやすい新しい手法が必要である。本研究では、都市域での各種再生水利用用途を具体的に考慮した水の適性を判断するための手法を提案した。各水試料を、国内外の各種基準値を踏襲した3ステップアプローチ(Step1スコアリング=各水質項目リスクの得点換算、Step2ラベリング=急性毒性、慢性毒性、水生生物保全などの観点から水質を特性化、Step3ランキング=利用用途・状況に合わせて具体的対応を伴う判定結果としての提示)により評価した。水使用の評価対象としたのは、全国一級河川水、都市内地下水、下水処理水、道路排水、下水処理水及び道路排水の土壌浸透処理水である。各水試料のスコアリング、ラベリング結果を、実際に都市水源として利用される全国一級河川水と比較することにより、その水質の相対評価も可能とした点に特色がある。
 例えば、各水試料のラベリングを行った結果、道路排水は全国一級河川と比較して慢性毒性に関する汚染が顕著であるが、土壌浸透処理を加えることにより、その汚染が削減されることが示された。ランキングアプローチにより、飲料用水、景観用水、雑用水などの用途に対する各水試料の判定結果を、処理方法の高度化あるいは土壌浸透処理という方法を使ったシナリオ決定に応じて提示することができた。本研究により提唱された指標は、社会的に判りやすいという特徴を持つと同時に、水源の有効利用と適正配置を判断する上で有望な指標として用いることができると考えられた。

 
P030 都市内自己水源を活用した流域内における水資源配置に関する基礎的検討
-地下水涵養と雨水・下水再生水の利用に着目して-
氏原岳人1、谷口守1、毛利紫乃1、小野芳朗1、古米弘明2
1 岡山大学大学院環境学研究科
2 東京大学大学院工学系研究科

 健全な水循環系の構築に向けて、地下水涵養、雨水利用およびカスケード利用等の都市内の自己水源を再考し、それらを活用していくことが重要な課題となっている。
 本研究では東京都野川流域における活動特性の異なる複数の地区を対象とし、地下水涵養によるストック型の水供給時における各地区の位置づけや、雨水や下水再生水のスコアリング(水質:衛生学的安全性)ごとの可能供給量及び、潜在的需要量について検討した。
 分析の結果、各地区の活動特性によって、その水利用特性は大きく異なり、例えば、住居系地区(戸建住宅)では、雨水利用方式のみで、その地区のスコア(要求水質)および需要量を満たす程度の供給が得られ、さらに地下水涵養を通じた水資源の供給源となる可能性が高い。また、住居系地区(集合住宅)では、雨水浸透の効率性は相対的に低いが、浸透施設の導入効果は高い。一方で、大規模公園地区では、潜在需要を満たすだけの供給可能性はなく、周辺地区からの供給を前提とした水資源配置が望ましいことが示された。これより今後、流域全体で水資源配置を実施していく上での重要な検討材料を示した。




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