水の循環系モデリングと利用システム

 

第3回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

杉田倫明研究チーム


P016 モンゴル・ヘルレン川流域における広域熱・水収支について
P017 モンゴルステップ草原の植生と土壌に対する降水と放牧の影響
P018 同位体を利用した水・物質循環プロセスの解明
P019 土地利用変化と地球温暖化が北東アジアの気候に及ぼす影響予測
P020 モンゴル東部ヘルレン川流域の水文場と気候変化の影響評価


 
P016 モンゴル・ヘルレン川流域における広域熱・水収支について
浅沼 順 (筑波大学大学院 生命環境科学研究科)

 ヘルレン川流域の広域代表性を持つ蒸発散量および地表面熱収支を求め、流域水収支の解明に資することを目的として、以下のような研究を実施した。まず、流域の代表的な土地被覆として、流域源流部の森林と中下流の半乾燥草原の2地点に、自動フラックス観測サイトを設置し、長期間の観測を行った。ここで得られた蒸発散量、雨量、二酸化炭素交換量を用いて、森林、草原の水収支、炭素収支の年々変動、年内変動を議論する。これらは、この地域では、世界で初めての詳細な熱・水・炭素収支観測である。次に、上記の森林および草原での観測が、それぞれの土地被覆をどの程度代表するか、またヘルレン川流域において、それぞれの観測値がどの程度代表性を持つかを検証する目的で、i)シンチロメータを用いた顕熱フラックスの計測、ii)航空機観測と分散法を用いた顕熱フラックスの計測、iii)衛星データと陸面モデルを用いた地表面熱収支の推定、の3つの広域フラックス観測手法を、ヘルレン川流域に適用した。以上の結果から、代表地点の過去3年間の熱・水・炭素収支と、ヘルレン川流域において熱、水、炭素収支がどのような空間変動を持つか議論する。

 
P017 モンゴルステップ草原の植生と土壌に対する降水と放牧の影響
浦野忠朗・鞠子茂・田村憲司・浅野眞希・星野亜季・李吉宰・李弼宰・
川田清和・及川武久(筑波大学大学院 生命環境科学研究科)

 アジア北東部の主要な生態系であるモンゴルステップ草原(ヘルレン川流域)において、降水や放牧が植生の構造・機能や土壌の物理化学性に与える影響を調査し、得られたパラメータを用いて植生に対する環境変動の影響をシミュレーションした。本草原では、C3植物とC4植物を含むカヤツリグサ科、キク科、イネ科が優占し、土壌はKastanozems特有の物理化学性を示した。バイオマスは7〜8月に最大となり、そのほとんどを地下部が占めていた。数年間にわたって禁牧した場合、植生に変化が見られたが、土壌への影響は顕著ではなかった。降水は生態系の光合成や呼吸を増加させる効果があったが、生態系全体の炭素収支への影響は小さかった。これは新たな知見として注目される成果である。また、降水量の少ない地域では、塩類集積の増加、土壌炭素の減少などが観察された。これは降水量が土地荒廃プロセスと深く関わっていることを示している。温暖化、降水量の減少の影響をシミュレーションした結果、100年後のステップ草原は炭素循環だけでなく水循環も負の影響を受けると予測された。また、過放牧はさらに負の影響をもたらすと予想された。

 
P018 同位体を利用した水・物質循環プロセスの解明
辻村真貴(筑波大学大学院生命環境科学研究科)

 本研究ではモンゴル東部.ヘルレン川流域を対象とし,水循環の量のみならず水の起源や流動時間,すなわち,ある水体が,どのような水を起源とし,いかなる経路をどの位の時間を経て来たかを,水の安定・放射性同位体,および無機溶存成分をトレーサーとして用い,解明することを目的とした.さらに,降雨時に発生する表面流出に注目し,流出土砂中に含まれる放射性同位体を用い,土壌面における侵食・堆積域の特定を行った.森林域および草原域を対象に,2003年6月から10月を中心に集中観測・サンプリングを実施した.航空機観測と地上観測とを同期させ,水平スケール約4000km2,高度約1000m,地中深度数約50mまでを対象に,水蒸気,降水,地中水,河川水等の一斉サンプリングを行った.また放牧状態が異なる面積400m2の試験区を複数設定し,流出土砂のサンプリングを行った.こうして得られた各種データを解析し当初の目的に対する結果を得るとともに,実測データをもとに,地下水流動モデルを構築しフィールドにおける現象を再現した.また,グループ4と共同で,領域気候モデルを基礎とした同位体循環モデルを構築し,対象地域における水蒸気・降水の起源を推定した.

 
P019 土地利用変化と地球温暖化が北東アジアの気候に及ぼす影響予測
佐藤友徳(東京大学・日本学術振興会特別研究員)
木村富士男(筑波大学大学院生命環境科学研究科)

 領域気候モデルによって,GCMによる地球温暖化のダウンスケールを実施し,2070年代のモンゴルにおける気温と降水量の変化を予測した.同時に,放牧圧の増加による地表面状態の変化による砂漠化を仮定し,これによる気温や降水量の変化を調べた.6,7,8月を予測対象とした.温暖化実験では,2070 年代の10年間と1994年から2003年の10年間を比較すると,降水の変化は地域差が大きく,北部の山岳地など降水の多い地域で減少幅が大きい.しかし南の乾燥域では降水量は微増する.ただし,これらの地域では降水量が多少増えても,気温の増加による蒸発量の増大を補えず乾燥化が進む可能性がある.
 夏季降水の増減量は,地球温暖化によるもと土地利用変化によるものの両方とも平均で約20mm/3ヶ月と同程度であることが分かった.夏季平均気温は地球温暖化によって約2.5℃上昇するのに対して,土地利用変化では0.5℃程度しか上昇しないことが示された.また一般的な提言として,土地利用変化が気候へ及ぼす影響を調べるためには,気象条件の異なる複数の年について実験する必要があることが示された.

 
P020 モンゴル東部ヘルレン川流域の水文場と気候変化の影響評価
陸旻皎・上米良秀行(長岡技術科学大学)

 モンゴル東部のヘルレン川流域を対象として,気候変化(擬似温暖化)が流域の水文場に与える影響評価を行った.領域気候モデルで導出された現在と将来の 10年間の気候場を外部強制力とし,分布型水文モデルによる流出解析を行った.次に,流域にある3つの水文観測所を基準にして,流域を上流・中流・下流の3つの部分流域に分割し,各部分流域平均の年降水量・流出量(河川流量)の累年平均と変動係数を算定した.変動係数は標準偏差を平均で割り算した数値で,年々の変動性を意味する.算定の結果,将来の降水量・流出量は流域全体で減少するが,減少量は上下流間でほぼ同じであった.上流ほど降水・流出の絶対量は大きいので,相対的には下流ほど減少率が大きいことになる.また,下流域の流出量をのぞけば,降水量・流出量の年々変動性は大きくなる.すなわち,降水や流出の量が多い年と少ない年とで,年間量の差が大きくなることがわかった.




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