水の循環系モデリングと利用システム

 

第3回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

太田岳史研究チーム


P031 研究の全体概要
P032 極東域の複数の森林における水・熱交換特性の相互比較
P033 北方林における上層木および下層植生の群落コンダクタンスの環境応答特性
P034 森林における空気力学的群落高の提案
P035 東ユーラシア域における水・エネルギー収支の時・空間変動特性の評価


 
P031 研究の全体概要
太田岳史(名大院生農)

 北方林は主に北緯45〜70°の範囲に分布しており,寒冷な気候,短い生長期間などで特徴づけられる.このため他の気候帯とは異なった水循環に対する影響を与えている.本研究チームによる解析で,これまでに明らかになった点は以下のようにまとめられる.1)森林の環境応答特性は.同一気候帯における森林タイプによる差より,気候帯による相違の方が顕著に現れる.2)これらの応答特性は,“潜在的”応答特性を用いることにより,広域での応答特性を共通の関数で表現できることが可能である.3)2)の結果をCRESTの観測5siteおよびレナ川流域に適用し,蒸発散量,河川流出量などを良好に再現した.4)北方林では林床植生が水循環に強く影響しており,その応答特性は上層木と異なる.この結果,下層植生は低放射,低温環境でより効率的に光合成を行う特性が示された.5)温帯林を含めた生長期間における蒸発散比(潜熱フラックス/(潜熱フラックス+顕熱フラックス))は,森林タイプに関わらず土壌水分量あるいは放射乾燥度によって決定されている.そして,同じ土壌水分量では寒冷地域での蒸発散比が温暖地域の値より小さくなる.6)森林の空気力学的特性は,森林の基本的構造を表す非同化部と季節変動を伴う同化部を分離して評価することにより,統一的に説明できる.上記のように,生長期における森林の水循環に対する環境応答特性は,森林タイプよりも成立環境に強く依存している.また冬期過程として,7)実験により樹体への着雪量はLAIの増加によりほぼ線形的に増加すること,8)LAI約3.2の混交林での冬期降雪遮断率は約30%に達することが示された.冬期過程に関してはまだケーススタディーであり,より詳細な解析を加える必要がある.

 
P032 極東域の複数の森林における水・熱交換特性の相互比較
松本一穂(名大院生農・日本学術振興会),太田岳史(名大院生農),
中井太郎(JST/CREST・北大低温研),桑田孝(元JST/CREST・名大院生農),
大黒健一(名大院生農),飯田真一(JST/CREST・名大院生農),
矢吹裕伯(地球環境観測研究センター),A. V. Kononov(IBPC, SD, RAS),
兒玉裕二(北大低温研),T. C. Maximov(IBPC, SD, RAS),服部重昭(名大院生農)

 極東域の森林の水・熱交換特性の時空間分布を明らかにするため,愛知,北海道,シベリアの3地域に存在する5つの異なる森林において水・熱フラックスの長期観測を行なった.有効エネルギーの潜熱フラックスへの配分比は低緯度の森林ほど高くなること等,地域間では水・熱交換特性に大きな違いがみられた.一方,同一地域内に存在する異なるタイプの森林(落葉樹林と常緑樹林)間での水・熱交換特性の相違は,地域間差に比べて顕著な違いはみられなかった.また,水・熱交換量の年々変動は比較的大きく,短期観測に基づく結果のみでは地域間の水・熱交換特性の違いを明らかにするには不十分であることが示された.蒸発散量の時空間分布は主に地表面側の蒸発散調節の違いに依存していた.さらに,地表面側の蒸発散調節は水分条件やLAI,成長期間の長さ等のパラメータによって統一的に説明できる可能性が示唆された.成長期に限った水収支解析では,愛知と北海道のサイトでは降水量の約半分が蒸発散に消費されていた.一方,シベリアサイトでは降水量よりも蒸発散量のほうが大きくなる年もあり,融雪水や凍土融解水が夏期の蒸発散に使用されている可能性が示唆された.

 
P033 北方林における上層木および下層植生の群落コンダクタンスの環境応答特性
飯田真一(JST/CREST・名大院生農),太田岳史(名大院生農),
中井太郎(JST/CREST・北大低温研),松本一穂(名大院生農),
T. C. Maximov(IBPC, SD, RAS),A. J. Dolman(Vrije Univ., The Netherlands),
矢吹裕伯(地球環境観測研究センター)

 北方林では,立木密度が小さく,林床まで放射量が到達しやすいため,その林床にはコケモモ等の下層植生が繁茂している.このため,下層植生の蒸散量は森林生態系の全蒸発散量の約半分を占めることが報告されている.森林生態系の水循環に対する下層植生による寄与の重要性は認識されているが,これらの詳細な振る舞い,例えば,群落コンダクタンスの環境応答特性は未解明のままである.本研究では,JST/CREST研究プログラム「北方林地帯における水循環特性と植物生態生理のパラメータ化(研究代表:名古屋大学太田岳史教授)」で観測された水フラックスデータから,上層木のカラマツと下層植生のコケモモの蒸散量および群落コンダクタンスを評価し,それらの比較検討を行った.カラマツの着葉期間では,コケモモの蒸散量は全蒸発散量の約半分であり,過去の研究例と一致した.カラマツとコケモモの群落コンダクタンスは飽差に対してほぼ同等に応答していたが,光合成有効放射密度と気温に対する応答は異なっていた.特にコケモモの最適温度はカラマツよりも低く,コケモモはカラマツとの競合を避けうる春先あるいは晩秋を有効に利用している可能性が示唆された.

 
P034 森林における空気力学的群落高の提案
中井太郎(JST/CREST・北大低温研),隅田明洋(北大低温研),
大黒健一(名大院生農),松本一穂(名大院生農),
太田岳史(名大院生農),兒玉裕二(北大低温研),
T. C. Maximov(IBPC, SD, RAS)

 森林の空気力学的特性である地面修正量dと粗度長z0は,森林の群落高hに強く依存する.そのため,異なる森林を対象にd,z0をパラメータ化する場合,これらを標準化するhをどのように決定するかが極めて重要である.これまで,hには平均樹高が多用されてきた.樹高が概ね揃った森林の場合は平均樹高を代表群落高と考えることが出来る.しかし一般には,森林は多様な樹種で構成され,丈の短い樹木の個体数が多いため,平均樹高は期待される高さより遙かに小さくなる.そこで,タワーによる気象観測から得られるd,z0を用いて群落高を求める方法を提案した.CRESTの5つの森林サイトで得られたdとz0は,どのサイトでも両者の間に負の線形関係にあった.これは,Thom(1971)が提案した関係式:z0=γ(h-d)と合致し(γは定数),この式から得られるhは各森林の群落高をよく表現した.このhは,空気力学的群落高と呼ぶことができ,気象観測が行われている全ての森林で同じ方法で評価できる点で,群落高の一つの基準となりうると考えられる.

 
P035 東ユーラシア域における水・エネルギー収支の時・空間変動特性の評価
朴 昊澤(JST/CREST・地球環境観測研究センター),山崎 剛(東北大学),
山本一清(名大院生農),太田岳史(名大院生農)

 北方林においての水・エネルギー収支の時空間分布を推定するために,本研究では陸面モデルの開発とパッチスケールでの生態生理学的パラメータの構築を進めてきた.これらのカップリングは水・エネルギーの陸面過程に関わるパラメータの空間分布や地域においての陸面過程の循環特性と環境要因に対する応答の相違の評価を可能にした.Yamazaki et al(2004)の2層モデルを用いて北緯30〜72°,東経90〜180°の領域を対象に水・エネルギー収支の時空間分布を推定した.データは地上気象観測を基に作成した0.5×0.5°スケールのグリッド日単位気象データを用いた.
 レナ流域における降水量と蒸発散量の偏差の経年変動をみた結果,蒸発散量の経年パターンは降水量と有意性が低く,顕著な傾向もみられなかった.しかし,この結果は,高温多湿なLena及びAldan小流域での蒸発散量は増加傾向にあるとのBerrezevskaya et al.(2005)の報告とは一致しない.レナ流域は大面積を有し,気候環境の幅もおおきい.そのため,流域全体の平均値は地域的特性を現すには望ましくない.そこで,15年間にわたる蒸発散量のトレンドの空間分布を調べた.確かに,Berrezevskaya et al.(2005)の報告と同様にレナ流域の中流と上流域において蒸発散量の増加トレンドを示している.このような一連の結果から東ユーラシア域での高温多湿な地域において蒸発散量が増加していることが明らかになった.




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