水の循環系モデリングと利用システム

 

第3回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

岡本謙一研究チーム


P036 全体概要
P037 地上レーダ観測データベースを利用した降水推定アルゴリズムの
開発・改良・検証
P038 降水物理モデルおよびアルゴリズムの開発・改良
P039 全球降水マップの作成
P040 研究成果の発信と利用


 
P036 全体概要
岡本謙一1,井口俊夫2,高橋暢宏2,佐藤晋介2,中川勝広2
北村康司2,出世ゆかり2,岩波越3,青梨和正4,永戸久喜4
井上豊志郎4,牛尾知雄5,阿波加純6,古津年章7,高薮緑8
瀬戸心太8,沖理子9,清水収司9,花土弘9,可知美佐子9
広瀬正史9,福地一10,重尚一1,橋爪寛11,久保田拓志11
1:大阪府立大学,2:情報通信研究機構,3:防災科学技術研究所,
4:気象研究所,5:大阪大学,6:北海道東海大学,
7:島根大学,8:東京大学,9:宇宙航空研究開発機構,
10:首都大学東京,11:科学技術振興機構

 本研究は、信頼性のある衛星搭載のマイクロ波放射計アルゴリズムを開発し、熱帯降雨観測衛星(TRMM)降雨レーダ(PR)データ、静止衛星の赤外放射計データをも総合的に利用して衛星データのみを用いて時間・空間分離能のよい全球降水マップを作成することを目的とする。このために本研究は、地上レーダ観測、降水物理モデル開発、降水強度推定アルゴリズム開発、及び全球降水マップ作成の各グループから構成される。
 地上レーダ観測データやTRMM/PRデータ等から降水を特徴づけるパラメータを抽出し、降水物理モデルを作成し、それを取り入れた放射伝達方程式に基づいて降水強度を算出するアルゴリズムを開発する。算出された複数衛星の降水強度データを合成して全球の降水マップを作成し、評価する。これまで、青梨アルゴリズムを改良し、TRMM/TMI,DMSP/SSM/I,Aqua/AMSR-Eなどの衛星搭載マイクロ波放射計データの解析を行い、それらを複合して、全球降水マップの作成を行ってきた。また、静止衛星の赤外放射計データを用いた補間アルゴリズムにより、高時間、高空間分解能の降水マップをも作成してきた。これらの全球降水マップデータをDVD-RやWeb上から公開しつつある。今後、多方面のユーザの意見を聞き、アルゴリズムや全球降水マップの改良に反映する予定である。

 
P037 地上レーダ観測データベースを利用した降水推定アルゴリズムの
開発・改良・検証
地上レーダ観測グループ,降雨物理モデル開発グループ
岩波越(防災科学技術研究所),高橋暢宏(情報通信研究機構)

 地上レーダ観測グループでは、情報通信研究機構の沖縄偏波降雨レーダ(COBRA)、400MHzウィンドプロファイラおよび、防災科学技術研究所のミリ波ドップラーレーダ(MP-Ka)などを利用して「2004年沖縄梅雨集中観測(Okn-Baiu-04)」を実施し、アルゴリズム開発の基礎となる降水物理モデルの開発と降水マップの詳細な検証のためのデータベースの構築を行ってきた。
 COBRAによる3次元データベースは、GSMaPのプロダクトと他のプロダクトを比較・検証するために用いられたほか、雨滴粒径分布モデルの検証用にも用いられている。この3次元データベースは数値雲モデルと放射伝達モデルを組み合わせた降雪層における輝度温度の再現実験においても参照データとして用いられているが、0℃高度以上の降雪層のモデル化には更なる改良が必要である。ウィンドプロファイラとMP-Kaのデータは主に鉛直方向の降水物理モデルの開発・検証に用いられ、特に雨滴粒径の鉛直分布のデータベース(例えば、地上観測、マイクロレインレーダによる地表面に近い低高度とウィンドプロファイラによる0℃高度までの雨滴粒径分布のプロファイル)やTRMMやマイクロ波放射計では得られないパラメータ(ドップラー速度や二周波の反射強度因子など)を用いることにより、降水プロファイル・雨滴粒径分布・融解層等のモデルの改良に役立てている。また、降水過程を如実に反映していると考えられる COBRAの偏波パラメータを用いた降水タイプ分類手法の開発も行っている。この手法は将来的には降水タイプ分類のみならず、雨滴粒径分布モデルや融解層モデルの取り扱いの改良などにも大きく寄与する。

 
P038 降水物理モデルおよびアルゴリズムの開発・改良
降水物理モデル開発グループ,降水強度推定アルゴリズム開発グループ
高橋暢宏,井口俊夫(情報通信研究機構)

 マイクロ波放射計による降水推定アルゴリズムの開発・改良のテーマとして、散乱アルゴリズムの改良、陸上降雨判定アルゴリズムの開発、降水プロファイルモデル、融解層モデル、雨滴粒径分布モデルの開発と導入を掲げて研究を実施してきた。これまで、順次、降水推定アルゴリズムへ組み込み、降水マップ作成、評価、改良を行ってきた。
 散乱アルゴリズムでは、37GHzチャンネルを85GHzチャンネルに加えて推定することにより、強い降水強度での推定精度の改善を図った。陸上降雨判定アルゴリズムについては、TRMMの観測領域では他のアルゴリズムに比べて降雨判定精度向上することが確認されたが、AMSR-EやSSM/Iの観測域(特に高緯度)でのアルゴリズムの開発が課題である。降水プロファイルモデルの開発では、降水タイプを地域・季節毎に分類し、それぞれで特徴的な降水プロファイルを与えることにより、より現実的なリトリーバルを実現したが、さらに雷活動の情報を含めた分類や客観的な分類法による評価などに取り組んでいる。融解層モデルの導入により、0℃高度が低いため融解層の影響が大きくなる中緯度域の降雨で適切なリトリーバル行うことが可能になったが、対流雲や一様な降水が仮定できない場合の取り扱いなどの課題が残っている。雨滴粒径分布モデルは、TRMM降雨レーダから推定した雨滴粒径分布をモデル化して用いており、地上レーダ観測等のデータを用いた検証が必要である。これらの研究から、さらに開発が必要とされるものは対流性降水と層状性降水を分類するアルゴリズムである。現在は静的な分類(即ち、地域ごとに対流と層状の割合を割り当てる)を導入し、評価を行っている。最終的には動的な分類(瞬時データから対流性か層状性かを判断)を導入し、より現実的なリトリーバルを実現する。

 
P039 全球降水マップの作成
全球降水マップ作成グループ
久保田拓志(科学技術振興機構),牛尾知雄(大阪大学),重尚一(大阪府立大学)

 降水強度推定アルゴリズム開発グループが開発した降雨リトリーバルアルゴリズムを用いて、複数個の衛星搭載マイクロ波放射計データを処理し、種々の時間・空間分解能のマップを作成するとともに、アルゴリズムの問題点の抽出等を行っている。TMI、AMSR-E、AMSR、SSM/I(3台)のマイクロ波放射計データから、0.25度、各種時間分解能(30分、1日、1ヶ月など)の全球降水マップの作成を行ってきた。TMIについては、1998〜2005年の8年分の全球降水マップを作成し、複数のマイクロ波放射計を用いた全球降水マップを2003〜2005年の3年分作成した。さらに、高時間、高空間分解能降水マップを作成するために、静止気象衛星搭載赤外放射計データから推定される雲の移動ベクトルやカルマンフィルタを応用した降雨の発達・消滅の情報を用いて、マイクロ波放射計観測の間を補間する手法を開発しており、2005年7月について0.1°、1時間の分解能の全球降水マップを作成した。
 作成された降水マップは、開発したアルゴリズムの物理的仮定による誤差を含んでいる。これらを評価、修正し、アルゴリズム開発にフィードバックするため、TRMM衛星搭載降雨レーダ(PR)、及び、NASAがTMI用に開発した標準アルゴリズム(GPROF)による降水量との比較を行っている。さらに、地上レーダ観測グループから提供された地上レーダによる降水量や、レーダーアメダス・地上雨量計による検証も行っている。

 
P040 研究成果の発信と利用
全球降水マップ作成グループ
久保田拓志(科学技術振興機構),可知美佐子(宇宙航空研究開発機構),
牛尾知雄(大阪大学)

 高精度かつ高時空間分解能の全球降水マップは、気象や気候分野を初めとする多くの研究分野のユーザを有する。研究チームで作成した降雨プロダクトをユーザに配布し、ユーザによる意見をフィードバックして、今後のアルゴリズム開発に反映するため、2006年4月にDVD-Rを作成し、日本気象学会、水文・水資源学会、日本リモートセンシング学会等で、合計700枚の配布を行った。また最新のアルゴリズムによるプロダクトを収録したDVD-Rの第二弾を作成している。さらに、webでのデータ公開を行い、データの可視化には、地球流体電脳倶楽部が現在開発中のGeophysical fluid data navigator(堀之内武、西澤誠也ら)を利用する予定である。
 新たなユーザである、洪水予測の分野では、十分な地上観測が得られないような地域や、複数の国家に渡るような大河川流域を主な対象にして、衛星による降水量分布の利用に向けた検討や取組が進んでいる。宇宙航空研究開発機構と土木研究所の間で進められている共同研究では、GSMaPアルゴリズムをベースに準リアルタイムで全球降水分布を作成し、将来の洪水予警報システムに利用するための技術を検討するなど、データ作成からユーザ利用の間をつなぐ取り組みを行っている。
 他の研究機関により作成された高分解能降雨プロダクトとの比較は,WMOの下部機関であるIPWG/PEHRPP(Chair Dr. Phil. Arkin)に参加して、Webを通じて行われている。本研究チームでは、日本付近のレーダアメダスデータを用いた比較を担当しており、(http://www.radar.aero.osakafu-u.ac.jp/~gsmap/IPWG/)に、その詳細を示す。




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