水の循環系モデリングと利用システム

 

第3回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

中村健治研究チーム


P026 中国・淮河流域における大気境界層観測
P027 初夏の中国淮河流域で観測された対流境界層内の鉛直循環の構造に関する
数値実験
P028 南西諸島域における大気境界層研究
P029 沖縄における降水観測
P030 中国,および海洋上での広域解析


 
P026 中国・淮河流域における大気境界層観測
田中広樹1・檜山哲哉2・藤波初木2・篠田太郎2・樋口篤志3・中村健治2
1 名古屋大学環境学研究科,2 名古屋大学地球水循環研究センター,
3 千葉大学環境リモートセンシング研究センター

 中国淮河流域中流部(北緯32.6度、東経116.8度)において、2003年8月から2006年1月まで、大気境界層構造の長期モニタリングを実施した。ウィンドプロファイラレーダや接地境界層乱流(地表面フラックス)計測機器による自動観測に加え、2004年5月24〜7月16日と2005年5月 18日〜7月16日に集中観測を行い、周辺植生および土壌状態のマニュアル観測、目視および全天写真撮影による雲量・天気概況を記録した。モニタリング観測データから、大気境界層や地表面フラックス、地表面状態の季節変化が明瞭に観察された。特に、人為(農業活動)による地表面状態の季節変化に伴い、顕熱・潜熱フラックスの明瞭な季節変化が観測された。2004年6月と2005年6月における地表面フラックスと大気下層の湿度場を比較した結果、梅雨期における大気下層の水蒸気量の大小は、ほぼ総観気象場が決めており、人為による地表面状態の水田への劇的な変化が、降水を引き起こすほどまで大気下層を十分に湿らせることにはならないことが明らかになった。また、ウィンドプロファイラレーダの観測からは、大気境界層が日の出直後から正午過ぎまで発達する様子が観測された。日最大の大気境界層高度は顕熱フラックスの大小でほぼ決まり、地表面状態と地表面フラックスの明瞭な季節変化によって、大気境界層高度の日最大値も大きく季節変化した。しかし、6月中旬以降の湿潤期には、大気境界層高度の日最大値と日中平均での顕熱フラックスには、明瞭な正の相関がみられなかった。この原因として、1)地表面が水田に変化したことによる顕熱フラックスの激減、すなわち、顕熱に比べると浮力効果が小さい潜熱に熱輸送形態が置き換わったことによる大気境界層の発達の不明瞭化、そして、2)総観規模での上昇・沈降流の効果による大気境界層高度の変動、が考えられた。

 
P027 初夏の中国淮河流域で観測された対流境界層内の鉛直循環の構造に関する
数値実験
遠藤智史1・篠田太郎2・田中広樹1・中村健治2
1 名古屋大学環境学研究科,2 名古屋大学地球水循環研究センター

 中国の淮河中流域では二毛作が行われており、初夏に地表面状態が成熟した麦畑から裸地、水田の順に変化する。地表面状態の変化に伴う対流境界層の日変化とその内部の鉛直循環の構造を明らかにするために、2004年初夏に観測されたケースを対象として、雲解像モデルCReSSを用いて数値実験を行った。大気境界層内の乾燥対流(サーマル)を解像するために、水平解像度は100mで計算を実施した。
 地表面が裸地(以下、乾燥期と呼ぶ)であったケースでは、午前中の早い時刻から急速に深くまで発達する対流境界層を再現した。一方、地表面が水田(以下、湿潤期)であったケースでは、午前中の遅い時刻からゆっくりと浅く発達する対流境界層と、乾燥期に比べて小さな風速の上昇気流によるサーマルを再現した。
 数値実験の結果から、対流境界層内の浮力フラックス、熱フラックスによる浮力フラックスへの寄与、水蒸気フラックスによる浮力フラックスへの寄与の鉛直プロファイルを調べた。乾燥期には、浮力フラックスはほとんど熱フラックスによって生成されていたが、湿潤期は水蒸気フラックスが熱フラックスと同程度に浮力フラックスに対して寄与する事を示した。浮力フラックスに対して、熱フラックスだけではなく水蒸気フラックスも寄与するという特徴は、水田から大きな潜熱フラックスが供給される湿潤な陸域における対流境界層の特徴であると考えられる。

 
P028 南西諸島域における大気境界層研究
佐藤晋介4・篠田太郎1・関澤信也4・高橋仁2・田中広樹2
中川勝広4・中村健治1・樋口篤志5・檜山哲哉1・古澤(秋元)文江3
民田晴也1・Nga Thi Thanh PHAM2・他LAPSチーム
1 名古屋大学地球水循環研究センター,2 名古屋大学環境学研究科,
3 科学技術振興機構,4 (独)情報通信研究機構,
5 千葉大学環境リモートセンシング研究センター

 海上大気境界層の発達における下端境界条件を明らかにするために、2002年8月宮古島西平安名岬の細い岬の先端で、乱流フラックス観測を行った。代表的な共分散フラックスの値は、顕熱フラックスが7±3W m-2、潜熱フラックスが60±20 W m-2、CO2フラックスが-11±4μg CO2 m-2 s-1であった。また、2002年に宮古島周辺で行われたエアロゾンデ観測により取得された温位と比湿が逆位相で変化する乱渦の原因を数値実験によって調べたところ、熱によるものではなく、水蒸気によって生成される浮力により駆動される乱渦の存在を確認した。このような現象は海面水温の高い亜熱帯域に特徴的な現象であると考えられる。さらに、2004年8〜9月と2005年6〜7月、晴天時の沖縄島で、C-band偏波ドップラ降雨レーダ(COBRA)と400MHzウィンドプロファイラレーダを用い、大気境界層内の対流による乱流がブラッグ散乱により作り出す晴天大気エコー(CAE)の偏波特性、構造、形成と進化、降水システムとの関連を明らかにした。2005年のCOBRAにより観測されたCAEを調べるため、地表面情報を与えた数値モデルにより大気散乱を引き起こす大気屈折率変動量を求めることで、CAEのシミュレーションを行った。モデルで再現したエコー分布は観測と良く一致し、C-bandレーダによる大気乱流の定量的観測へ足掛かりができた。

 
P029 沖縄における降水観測
上田博・篠田太郎1
1 名古屋大学地球水循環研究センター

 海面水温の高い南西諸島周辺の海上における降水雲の発達過程に関する観測的研究は湿潤な大気境界層の構造と降水雲発生・発達過程の関係を解明する上で重要である。LAPS沖縄観測の一環として、情報通信研究機構沖縄亜熱帯計測技術センターとの共同研究でドップラーレーダーを用いた降水雲の3次元気流構造を含む特別観測を2003年及び2004年の梅雨期(5〜6月)に行った。種々の降水システムの発生・発達過程に関する解析を行っているなかから、梅雨前線に伴う線状降水システムが沖縄島通過前に発達し、通過後急速に弱まる現象が観測された2003年5月24〜25日の例について降水雲内の3次元気流構造の詳細解析を行った。システムの前方に層状域が広がり、後方に新しい対流が起こる構造をもつことから、層状域からの下降流は弱く海面付近の湿った南風の流入を遮断しないことを示していると考えられ、梅雨前線に伴う線状降水システムは下層が湿潤な環境場の弱い収束域で背の低い対流性降水雲が形成され続けることによって維持されるというメカニズムを明らかにした。これは、下層の湿潤層が対流雲の形成に果たす役割を考える上で示唆的な結果である。また、2004年のレーダ観測データについてはレーダエコー頂の統計的解析を行い、観測領域の対流性降水雲の多くが背の低い対流であることを明らかにした。梅雨前線周辺の対流性降水雲の観測・解析から湿潤な大気境界層の構造と降水雲発生・発達過程の関係の解明進んだ。

 
P030 中国,および海洋上での広域解析
樋口篤志1・加藤内蔵進2・藤波初木3・古澤文江4
1 千葉大学環境リモートセンシング研究センター,2 岡山大学教育学部,
3 名古屋大学地球水循環研究センター,4 科学技術振興機構

 広域班では、対象領域(中国および亜熱帯海洋)の場について、再解析・衛星データを用いて解析を行った。NCEP/NCAR再解析データとOLRを用い、対象領域の梅雨前線の7〜25日周期帯の季節内変動解析を行った。梅雨前線の季節内変動は、南シナ海等の熱帯・亜熱帯域よりも、中緯度亜熱帯ジェット気流上の波の季節内変動の影響を強く受けていることが分かった。また、亜熱帯高気圧と乾燥地との間の強い水蒸気傾度を持つ大陸上の梅雨前線の南北両側での水蒸気場の維持過程に加え、季節進行に伴い大陸の梅雨前線北方の乾湿が偏西風帯との関わりで大きく変化することがわかった。熱帯降雨観測衛星(TRMM)搭載降雨レーダ(PR)、マイクロ波放射計(TMI)、可視赤外放射計(VIRS)、雷観測装置(LIS)を用いた解析では、対象領域の降雨は、季節変化は大きいが日変化特性が弱く、南部や西部の山岳や四川盆地を除く中国全体の特徴を代表していることがわかった。海洋上ではGMSデータを用い、孤立した積雲と大規模組織雲の関連性に関する解析を行い、両者の関係性は薄く、大規模場の条件(擾乱や熱帯波動等)が大規模化には効くことがわかった。




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