水の循環系モデリングと利用システム

 

第3回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

永田俊研究チーム


P081 各種安定同位体比に基づく流域生態系の健全性・持続可能性指標の構築
(全体構想)
P082 安定同位体比測定の高速化・微量化・高精度化が切り開く
新たな流域診断の可能性
P083 安定同位体比で評価する流域汚濁物質の起源と代謝
P084 河川生態系の健全性評価窶蝿タ定同位体法の適用
P085 モンゴル国トゥール川流域の水質汚濁の現状と安定同位体指標の適用


 
P081 各種安定同位体比に基づく流域生態系の健全性・持続可能性指標の構築
(全体構想)
永田 俊・陀安一郎(京都大学生態学研究センター)
高津文人・由水千景(科学技術振興機構)

 今日、流域環境の保全と再生や、生態系環境を考慮した健全な水循環の確保をめざした様々な取り組みがなされているが、これと関連して、客観的かつ総合的な流域環境評価(アセスメント)の方法の確立が急務となっている。本研究の中心的なアイデアは、流域生態系を構成する水、物質、生物の各種安定同位体比を体系的に観測することで、水文過程(水の起源や流出経路)、物質循環(栄養負荷源や生態系の基本代謝・浄化機能)、生態系構造(多様性と食物網)を含めた流域生態系の全体を統合的に診断する新たな指標群を構築することにある。炭素、窒素、酸素、水素などの安定同位体比は、それぞれの元素、あるいはその元素を含む化合物の発生起源や反応履歴を反映する鋭敏な指標となる。また、生物の場合ならば、生態系のエネルギー基盤(炭素源)や食物連鎖関係を評価することができる。本研究では、以上の原理に基づき、水循環と生態系環境の健全度を測る、新しい流域診断技術の開発を目指している。

 
P082 安定同位体比測定の高速化・微量化・高精度化が切り開く
新たな流域診断の可能性
大河内直彦(海洋研究開発機構)大手信人(京都大学大学院農学研究科)
由水千景(科学技術振興機構)永田俊(京都大学生態学研究センター)

 各種安定同位体比に基づく流域環境診断手法を開発するうえでは、多数の環境試料を高速かつ高精度に測定する技術の開発が重要な課題となる。とくに流域における安定同位体比の分布を広域的にマッピングし、汚染源の特定や、汚染物質の生成消滅に関わる反応経路を推定するためには、ハイスループット安定同位体測定技術の開発が強く要請される。本研究では、質量分析の前処理に用いるフラッシュ型元素分析計に装備されている酸化管および還元管の流路断面積を最適化することで、気体の拡散消失を大幅に削減することに成功した。これにより、炭素および窒素等の元素の検出能力が著しく向上され、世界で最も微量な試料量で炭素・窒素の安定同位体比や,各元素成分の質量分析等を正確に行うことができるようになった(特許出願中)。また、固体高分子膜を用いた水の電気分解装置を使って、水の酸素安定同位体比を測定するための開発研究をおこなった。この手法は,1マイクロLあるいはそれ以下という微量な水で,その3つの酸素同位体組成(16O:17O:18O)を正確に測定することを目指すものであり、微量な天然水(動物、植物体内の水、空気中の水蒸気など)の測定に応用可能である。一方、水域の窒素汚濁を表す重要な水質指標である硝酸塩について、窒素と酸素の安定同位体比を同時測定するシステムを構築した。これにより大規模かつ精密な硝酸塩の安定同位体比観測が可能となった。

 
P083 安定同位体比で評価する流域汚濁物質の起源と代謝
宮島利宏(東京大学海洋研究所)
木庭啓介(東京工業大学大学院総合理工学研究科)

 流域管理においては、汚濁物質の起源、輸送経路、代謝・除去過程を的確に評価することが不可欠である。本研究では、琵琶湖とその集水域および沿岸海洋を調査対象とし、各種安定同位体比を用いた汚濁評価の有効性を検討した。1)琵琶湖において、微量のアンモニウム、硝酸塩および亜酸化窒素の窒素酸素安定同位体・アイソトポマー比を測定し、その季節変化を追跡した。また、堆堆積物中の微量硝酸塩についての窒素酸素同位体測定も行った。これらの結果から堆積物中で活発に脱窒(浄化)が起きている事、また温室効果気体である亜酸化窒素が主に堆積物表層で活発に起きている硝化に由来することが示された。2)劣化の進む河口域の環境管理上最も重要な項目の一つは懸濁態有機物であり、その動態を把握するためには、それを陸域起源の一次汚濁成分と河口域内で生産された二次汚濁成分とに区別して定量化することが不可欠である。本研究では、この目的のために懸濁態有機物の炭素安定同位体比を用いる方法を発展させ、特に河口域で生産される植物プランクトンのクロロフィルの同位体比を現地性懸濁態有機物に対する指標として効果的に利用することによって、汚濁成分の起源を定量化する方法を開発した。分取用HPLCによってプランクトン試料中のクロロフィルaを分離した後、同位体比質量分析計で測定するものである。その結果、新しく開発された方法を用いることにより従来法に比べて定量性において確度の高い推定値が得られることを実証した。

 
P084 河川生態系の健全性評価窶蝿タ定同位体法の適用
竹門康弘(京都大学防災研究所)高津文人(科学技術振興機構)
永田 俊(京都大学生態学研究センター)

 人為起源の窒素負荷や、貯水ダムの建設などにともなう河川環境の人為改変が、河川生態系に深刻な影響を及ぼす場合がある。しかし、この人為影響の度合いを客観的に表す方法が十分に確立しているとはいいがたい。このことが環境を考慮した河川管理計画の策定や合意形成プロセスにおける問題点となっている。本研究では、河川に生息する動植物や非生物性有機物の安定同位体比を用いることで、河川環境の新たな診断手法を開発することを試みている。琵琶湖流入河川における調査では、窒素汚濁の進行ととともに、藻類、水草、水辺植物、昆虫、魚の窒素安定同位体比が一斉に上昇することが示された。また、富栄養化にともない、食物網の構造(食物連鎖の長さ)の変化や、生態系のエネルギー基盤の転換が起こることが示された。さらに、貯水ダム下流においては、河川生物群集の炭素安定同位体比の値が著しく減少することが確認された。これは、ダム内部で生産される炭素安定同位体比の低い有機物が大量に流出し、下流生態系にインパクトを与えている為と考えられる。以上の結果は、各種生物の安定同位体比が、河川生態系に対する人為影響の度合いを表す有効な尺度として利用できることを示している。

 
P085 モンゴル国トゥール川流域の水質汚濁の現状と安定同位体指標の適用
永田 俊・陀安一郎・藤田 昇(京都大学生態学研究センター)
木庭啓介(東京大学大学院総合理工学研究科)竹門康弘(京都大学防災研究所)
高津文人(科学技術振興機構)

 モンゴルでは、都市部への人口集中と急激な産業・経済構造の変化により、流域環境に対する人為影響が急速に強化・拡大している。このことが水質や流域生態系環境を著しく劣化させている。これは、東アジアの様々な地域で進行していることである。これらの地域において、貴重な水資源と流域生態系を持続的に利用し、健全な水循環を維持するためには、まず、汚染の実態や汚染物質の流達経路を明らかにすることが必要である。しかし、これらの諸国において水質や生態系監視のための基盤整備は大きく立ち後れているというのが現状である。本研究ではモンゴルの首都、ウランバートルの近郊を流れるトゥール川の流域において、モンゴル科学アカデミーとの協力のもとに、水質と各種安定同位体比の総合調査を実施した。まず、トゥール川上流域からオルホン川と合流するまでの約 800kmの区間において、水質や生態系の流下変化の調査を行い、物質循環や生態系の広域的な状況を把握することを試みた(2004,2005年度)。これにより、ウランバートル通過に伴い、硝酸態窒素や各種有機物の窒素安定同位体比が上昇すること、また、各態窒素の存在比が大きく変化することなどが確認された。2006年度からは、ウランバートル西部にある下水処理施設の処理水流出域において集中観測を行い、汚染経路や汚染地域における物質循環過程の解明を試みている。




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