水の循環系モデリングと利用システム

 

平成13年度採択 Q&A

 

 

『人間活動を考慮した世界水循環資源モデル』 沖大幹研究チーム

Q なぜ水の循環モデリングに関する研究が必要なのですか。

A  21世紀に懸念されている水危機が生じるメカニズムを明らかにし、未然に防ぐ、あるいは生じるとしても被害を最小限に食い止めるため、地球規模での、あるいは複数国に跨る様な広域での水循環に関する基礎的研究が必要です。個々のデータを収集解析し、集約してより一般性を持たせ、必要な国・地域に適用できるような水の循環モデリングの構築を進めていきます。


Q なぜ水の利用システムに関する研究が必要なのですか。

A   限られた水資源を農業灌漑用水、工業用水、生活用水等に有効に使用することは、先進国、発展途上国を問わず大切なので、各国・地域に合わせた有効な水の利用システムに関する研究を進めています。特に将来の急激な人口増大を考えた時、適格な水需要の予測と正確な水循環予測に基く水需給の展望、そして、それを満たすための節水型農業灌漑技術、都市節水型水利用技術が重要となります。


Q 地球は水の惑星と言われますが、地球上の海水と真水の量はどの程度なのでしょうか。

A  地球上の水は14億km3、真水は3千万km3で約2%に過ぎません。真水のうち約80%が雪や氷です。人類が利用できる真水は、主として河川水でありある瞬間に河川水として存在するのは地球表層の水の約0.02%(約2,000km3)と極めて少なく貴重なものです。


Q 21世紀が水危機の時代と言われるのはどうしてですか。

A  現在60億の人口において12億の人々は安全な飲料水の確保が出来ていないといわれています。国連による人口予測では、2050年には人口が約90億になると予測されていますがこの人口の急激な増加による生活用水、食料増産に伴う農業用水、及び工業発展に伴う工業用水などの需要増が見込まれます。そうした今後の発展を想定したとき、2050年には約30億程度の人々が十分な水へのアクセスを確保できない可能性が高い、と推定されています。


Q 地下水が枯渇する原因はどこにあるのですか。

A  降雨の減少と過度の地下水の利用が第一義的と考えられますが、その他森林の伐採や都市化などによる地下水の涵養量の減少や、地下構造物の建設に伴う地下水路の断絶等の原因による地下水の枯渇も考えられます。自然な状態でも、気候の変動により、地下水が増加したり減少したりすることはあります。しかし、近年問題になっているのは、工場用水や都市用水、あるいは農業灌漑などのために汲み上げられる地下水の量が、自然に供給される量よりも過剰であることに起因する地下水の枯渇です。


Q 農作物、特に米、小麦、とうもろこしに必要な水はどの程度ですか。

A  水消費原単位(m3/t)で表すと、米の場合:精米後(5100)、精米前(4700)、小麦の場合:小麦粉(2800)、精製前(2200)、とうもろこしの場合:粒のみ(1000)、皮芯付き(500) (沖 大幹 資料から)程度です。


Q 水危機と食糧不足の関係を教えてください。

A  食糧生産には、膨大な農業用水が必要です。人類の水取水量の66%は農業用水であり、工業用水は28%、残り6%が生活用水です。水危機となると農業用水の確保が出来なくなり食料不足が懸念されます。


Q アジアモンスーンと米作の関係を教えてください。

A  米作には日照と大量の水を要しますが、幸いなことにアジアモンスーン地帯は、温暖湿潤(高温多湿)な気候であり十分な日照と降水量があるので、稲作の適地であると言えます。日本では、温暖季の雨だけでなく、冬季のシベリア高気圧によるモンスーンがもたらす降雪が、日本海側の米の湛水栽培初期の育成に必要な重要な水を供給しています。
 こうした地理学的条件に恵まれて、東南アジア、中国揚子江流域、韓国、日本等においては人口扶養率の高い米作が行われてきました。


『階層的モデリングによる広域水循環予測』 木元昌秀研究チーム

Q 地球温暖化と気候変動はどのような繋がりがあるのですか。

A  去年の夏と今年の夏の天候が異なることや大昔には氷河期があったことからわかるように、自然の状態でも地球の気候は色々な時間スケールで変動しています。現在言われている地球温暖化とは、人間の活動による二酸化炭素やメタンなど温室効果気体の大気中への増加により地球全体の気温が上がることを意味しています。いわば、人為的な原因による気候変動です。二酸化炭素等による地球の温暖化は、今後数10年間で地球全体平均した気温にして1.5〜5℃くらい上昇するといわれています。氷河が解けて海面の上昇も既に始まっていると言われています。氷河期から現在にかけて地球はもっと大きな昇温を経験していますが、地球温暖化は変化のスピードが速いのが特徴です。したがって、生態系などが変化に追いつけず絶滅する種が出ることが心配されます。これまで、100年〜200年に一度と言われるような異常気象による災害も、地球温暖化の進行と共に頻発するのではないかと心配されています。


Q 降水のメカニズムはどのようになっているのですか。

A  太陽エネルギーにより海面及び陸域の温度が上昇することにより、水が蒸発し雲を作り、この雲が気流により冷やされたとき降水と言う現象を生じます。陸域では、人口増大に伴う都市化に伴い、土地利用の変化が急激に進んでいます。降水のメカニズム解明には多くの自然及び人間活動の要因を入れて取り組むことになります。


Q 森林の伐採は地球全体の気候や降水にどのような影響を与えるのですか。

A  一般に森林を伐採するとその領域からの蒸発量が減少し、河川水として流れ出てくる量は増えます。一方、土壌の保水性が低減される結果、洪水時のピーク流量が増える傾向にあります。森林は、特に成長期には二酸化炭素を吸収し、大気中の二酸化炭素を消費する方向に働きます。人類が現在の人間活動を進めるならば、森林の伐採は大気中の二酸化炭素濃度を上昇させる結果となり、地球温暖化や異常気象に影響すると考えられています。


Q 気象衛星(ひまわり)のデータは水循環の研究において、どのような面で有効なのですか。

A   「ひまわり」は、日本の気象庁 が管理・運用する気象衛星です。東経 140度の赤道上空およそ 36,000kmの静止軌道上にあるため、英語では「静止気象衛星」を意味する "Geostationary Meteorological Satellite"、または略してGMSという名前が付けられています。
 静止気象衛星は、極軌道衛星に比べて観測頻度を高く設定できるため、変化の速い現象を追うのに適しています。反面、衛星高度が高いことや姿勢制御(方法次第ですが)の都合上、観測の S/N が劣る短所があります。世界には、日本のGMSの他に、米国の GOES、欧州のMETEOSAT、インドのINSATといった静止気象衛星がありますが、搭載しているセンサや観測方法がそれぞれ異なっています。
 「ひまわり」は、1号機が1977年に打ち上げられました。現在運用されているのは、1995年に H2ロケットで打ち上げられた5号機です。その主力センサは、VISSR8(可視赤外回転走査放射計)です。現在運用中の5号は、過去の1〜4号に比べて、観測面で2つの新しい特徴を持っています。一つは、遠赤外波長域の「大気の窓」の観測チャネルが従来の1つから2つに増え、いわゆる「スプリット・ウィンドウ」仕様になったことで、もう一つは、4号機以前には無かった近赤外波長域の新しい観測チャネルを有することです。他に、可視の観測波長帯も、4号までに比べるといくぶん長波長側にシフトしています。
 現在、「ひまわり」は、ほぼ1時間に一度の頻度で、衛星から見える範囲の地球全体(ほぼ、東経 80 度〜西経 160 度、北緯 60 度〜南緯 60 度)を VISSR によって観測しています。(GMSホームページから)
 地球上の雲に関する映像情報が得られ、精度の高い天気予報には必須の衛星と考えられます。


Q 長期の水循環予測の研究は、どのような面に役立つのですか。

A  短期の天気予報は、気象衛星データ等の活用で大きく進歩してきましたが、長期の季節予測等は多くの未知の要因が複雑に関係して容易ではありません。長期の天気予報、ひいては水循環予測が出来ますと、洪水や渇水に備えて対応したり準備(食料の確保、災害対策等)をすることが出来ます。また、寒さ暑さに前もって備えることが出来ます。階層的モデリングにより高精度な広域水循環予測モデルの構築に取り組んでいます。


『黄河流域の水利用・管理の高持続性化』 楠田哲也研究チーム

Q 節水型灌漑農法の開発はどのような事を考えて進めているのですか。

A  乾燥に強い育種の選定、土壌の改良、灌漑方法と灌漑周期の改良(含む塩分対策)、灌漑地までの水路の漏水対策等々のもとに進めています。


Q 都市節水技術の内容を教えてください。

A  まず、都市域における自然の水の流れを観測・推定し、上下水道による人工的な流れと合わせて都市域の全体の水の流れを明らかにします。この結果をもとに、排水の循環利用や節水型機器の導入などにより節水型都市の水利用システムを考案しようとしています。そのために雨水浸透による地下水の涵養、生活排水の再利用、工業排水の循環利用、トイレの乾式化の提案などを考えています。


Q 黄河を研究の対象にしている理由を教えてください。

A  乾燥地帯に位置する黄河流域は河川水の利用率が通常の大河川に比べて高く、人口増加、収益重視型農業生産による灌漑用水量の増加、工業生産の増加、生活用水の増加、土地開発の急増、化石地下水への依存度の増加という水利用圧力が高くなっています。水を効率的に利用できるようにすることにより、この地域を持続性の高い社会構造に近づけることは、中国の安定的発展に欠かせないと考えられます。
 中国との共同研究により、黄河流域が抱える水利用圧力を低減させたいと考えて取り組んでいます。


『北東アジア植生変遷域の水循環と  生物・大気圏の相互作用の解明』

杉田倫明研究チーム

Q モンゴールを研究の対象にしている理由を教えてください。

A  モンゴールや中国北東部を中心とするアジア北東部は、比較的狭い範囲において、湿潤域が乾燥域へと変化しており、それに伴った森林-草原-砂漠という地表面の明確な植生の変遷域が形成されています。この様な場は、外部条件のわずかな変化に対して、影響を受けやすく、例えばこの地域ではその結果、砂漠化する危険性が高いと考えられています。一方、この地域では、外部条件の変化がすでに指摘されています。一つは、過去40年程度の間の冬季から春期にかけての大きな気温の上昇と降水量の減少です。この様な大気の温暖化、乾燥化が、水循環の変化を通して、植物の生産量の劇的な変化や植生の分布の変化を引き起こす懸念が指摘されています。また、直接的な人間活動としては、社会体制・情勢の変化に伴った、草原域での過放牧と管理されていない水利用の増加があげられます。
 本研究では、大気圏の変化と人間活動が、植生変遷域における水循環にどの様な影響を及ぼし、またそのことがどのような生物圏の変化を引き起こしているのか、その逆方向のプロセスをも含めて解明し、モデル化することを第一の目的としています。その上で、将来予測シナリオに基づいた草原生態系の維持管理システム手法、土地利用システムの構築の提案を行う予定で進めています。


Q モンゴールにおける過放牧と言うのはどのような事を意味しているのですか。

A  人為的な家畜の放牧量が多すぎたり、ある地域に集中することにより、家畜が植生の葉、幹、根を過度に食べてしまったり、土壌の踏み固めや糞による改変などにより地域特有の植生があまり育たなくなったり、生育できなくなる事を意味しています。


『社会変動と水循環の相互作用評価モデルの構築』 寳馨研究チーム

Q 社会変動と水循環の相互作用の評価モデル開発に関して、何をパラメータに選びどのような相互作用に関する情報を得ようとしているのですか。

A  人口増大、経済成長、産業転換による開発や都市化によって土地利用が変化すると、洪水が早く生起しピーク流量も大きくなります。また、水質にも大きく影響しますし、必要な水量が増加します。すなわち、水に関する色々なリスクが発生する可能性があります。一方、ライフスタイルの変化、たとえば、水洗便所(さらには洗浄機付き水洗便所)やシャワーの普及などが流域の水利用、水循環にどのような影響を与えるのか、定量的に知られてはいません。
 現下の水計画は、あまりにもマクロ的であり、過大な水需要予測、水リスク予測の設定のもとに政策的に掲げられた水事業計画を如何に実施するかという観点に偏していると言えますが、本研究では、水循環を科学的にとらえ、上記のような社会変動要因をパラメータとして、それらと将来のアジア地域における水リスクの関係を明らかに致します。
 さらには水関連物品の貿易とその将来動向を包含した国際的水循環・水収支モデルを提案して、日本の水政策(国際水管理・貢献戦略)に有用な情報を導出し、望ましい将来像を提示したいと考えています。


『湿潤・乾燥大気境界層の降水システムに与える影響の解明と降水予測精度の向上』

中村健治研究チーム

Q 大気境界層はどのような境界層ですか、また大気境界層に着目する理由はどこにあるのでしょうか。

A  海上では海面から高さ約700mを大気境界層と呼んでいます。陸域でも同様であり、地上面から高さがだいたい1000mから1500mまでを大気境界層と呼んでいます。大気境界層は、熱や水などの物質の交換に係わる層であり、自由大気と地・海表面との間のインターフェースとなっています。熱降水システムに決定的な影響を与えると考えられるため、大気境界層に着眼して降水システムのメカニズム解明に取り組んでいます。


Q 日本の南西諸島と中国淮河下流域で降水メカニズムの解明に関する実験をする理由はどこにあるのですか。

A  中国における観測は乾燥域と湿潤域の境の領域での大気境界層の実態把握、そしてそれに伴う降水システムの実態把握が主目的ですが、それと同時に、南西諸島における観測も行います。南西諸島域は日本付近、特に九州付近で活発化する梅雨前線に水蒸気を供給する上流域にあたり、この領域における大気境界層をモニターして、水平、鉛直水蒸気フラックスを通じての、梅雨前線帯への水蒸気の供給過程を明らかにしたいと考えています。また海上というより単純な大気境界層の実態把握からモデルとの比較を行うためにも適当です。南西諸島では海上のなるべく単純な大気境界層を目標とするために、実験サイトとして比較的地形の平らな宮古島を想定しています。


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