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戦略的創造推進事業CREST研究領域 > エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出

研究領域

戦略目標

「疾患の予防・診断・治療や再生医療の実現等に向けたエピゲノム比較による疾患解析や幹細胞の分化機構の解明等の基盤技術の創出」

研究領域名

エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出

研究総括

山本 雅之(東北大学大学院医学系研究科 教授)
(副研究総括:牛島 俊和(国立がん研究センター研究所 上席副所長・分野長))

概要

 本研究領域は、細胞のエピゲノム状態を解析し、これと生命現象との関連性を明らかにすることにより、健康状態の維持・向上や疾患の予防・診断・治療法に資する、エピゲノム解析に基づく新原理の発見と医療基盤技術の構築を目指します。
 具体的には、がんや慢性疾患(例えば、動脈硬化、糖尿病、神経疾患、自己免疫疾患など)において適切な細胞のエピゲノム解析を行い、病因または病態進行の要因となるエピゲノム異常を見いだすことで、エピゲノムの変動と維持に関する新原理の発見や画期的な予防・診断・治療法に資する基盤技術の創出を目指す研究を対象とします。また、幹細胞の分化過程の各段階におけるエピゲノムプロファイルの比較を行うことにより細胞分化のメカニズム解明に挑む研究や、それを通して組織指向的に細胞を分化誘導するための基盤技術も対象とします。さらに、メチロームやヒストン修飾プロファイルなどのエピゲノムの効率的な解析・解読法等の要素技術、エピゲノム制御のための要素技術の開発を目指す研究なども含みます。
 本研究領域では、一部の課題において国際ヒトエピゲノムコンソーシアム(International Human Epigenome Consortium, IHEC)との連携を進めます。

領域アドバイザー

久保田 健夫 (山梨大学大学院医学工学総合研究部 教授)
高木 利久 (東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)
高橋 政代 (理化学研究所発生・再生科学総合研究センター チームリーダー)
田嶋 正二 (大阪大学蛋白質研究所 教授)
千葉 勉 (京都大学大学院医学研究科 教授)
西島 和三 (持田製薬(株)医薬開発本部 専任主事)
深水 昭吉 (筑波大学生命領域学際研究センター 教授)
本橋 ほづみ (東北大学大学院医学系研究科 准教授)
諸橋 憲一郎 (九州大学大学院医学研究院 教授)
吉田 稔 (理化学研究所 基幹研究所 グループディレクター)

研究総括の募集・選考・研究領域運営にあたっての方針(平成24年度)

 ヒトゲノムの解読により、疾患因子の遺伝的理解は着実に進んできました。同時に、ある細胞でどの遺伝子の情報が活用されるかは、組織や細胞の分化段階によって異なり、エピジェネティクスによって制御されていることも強く認識されてきました。特に近年、環境要因等の影響を受けたエピゲノムの変化が疾患発症に重要な役割を果たしているとされ、がんの関係については多くの知見が得られています。また、最近では、精神疾患、神経変性疾患、代謝疾患、アレルギー疾患などのがん以外の疾患でもエピゲノム研究が進められています。

 しかし、各種の細胞が生理的にはどのようなエピゲノム状態をもつのか、また、外的あるいは内的因子がいかにエピゲノムの状態変化に影響を与えているのか、さらに、いかにエピゲノムの状態が細胞機能に影響を与えているのかといった基礎的・基盤的知見はまだ十分ではありません。エピゲノム研究を疾患の予防・診断・治療法に応用させるためには、対象となる細胞種を見据えつつ、メチローム、ヒストン修飾、非翻訳RNA、クロマチン複合体などのプロファイルを統合的に解析する基礎的な研究を着実に積み上げることが重要です。また、分化・リプログラミングに際してどのようなエピゲノム変化が誘導されるのか、各種の疾患状態にある細胞ではどのようなエピゲノム変化が存在するのか、そして、それらの変化がどのような機能的意義をもつのかを解明することも重要です。

 本研究領域ではまず、疾患や幹細胞・細胞分化などのターゲットを絞り、エピゲノム解析と機能解析アプローチを組み合わせ、生命現象や疾患の機構解明を目指す研究チームを募集します(タイプA)。本募集においては、総額1億5千万円〜3億円未満(研究費種別T)の小規模な提案を優先したいと考えています。

 また、各種細胞の生理的なエピゲノムの解明は、様々な研究の基盤となります。JSTは、国際協調により10年間で1,000種類のヒト標準エピゲノムを解読することを目指すIHECのFundingメンバーとなり、国際協調の中で我が国の生命・疾患科学の競争力強化を支援することとしました。そのために、本研究領域において、IHECに貢献する標準エピゲノム解析を大規模に実施するチームも募集します(タイプB)。

 IHECでは、各国で解析する細胞/組織種が大きく重複しないことが望まれますので、本研究領域では、日本が強みをもつ疾患分野や幹細胞研究を対象とした課題を採択したいと考えています。実施体制としては、複数の研究機関や研究室が協力しながら研究代表者が強力にリードするチーム体制にて、標準エピゲノム解析を比較的大規模かつ効率的に進めることを求めます。データの処理・公開については、IHECの国際科学委員会と協調し、成果が十分に活用されることを求めます。また、細胞調製・網羅的実験解析・データ処理について、自ら国際的な標準を提案できるような強力な体制であることが望ましいと考えます。さらに、本プロジェクトで構築した高度のエピゲノム解析技術は、可能な範囲で国内の研究者に提供し、幅広い貢献をすることも望まれます。IHEC対応課題として平成23年度に2課題を採択したため、本年度は、我が国のプレゼンスがさらに高まるような提案があれば採択することとします。研究費については、標準エピゲノム解析を実施することを鑑み、IHEC対応のチームとしては総額3億円〜5億円程度(研究費種別U)の提案を想定します。


IHEC対応チーム(タイプB)として応募する上での留意点

  • ・提案書には、IHEC対応チームとして提案することを明示して下さい。
  • ・提案に際して、IHECのポリシーを必ず下記URLから確認して下さい。特に、データの早期公開、知的財産の扱い、プロトコールの準拠など、IHECのルールに従うことが求められます。http://www.ihec-epigenomes.org/DownloadDocs/IHECpolicydocDec2011.pdf
  • ・知的財産の扱いについては、通常の委託研究とは異なる対応が求められるため、必要に応じて、事前に所属機関の関連部署と協議ください。
  • ・データ公開の際に、JSTバイオサイエンスデータベースセンターとの協力が求められることがあります。
  • ・採択された場合には、チームの研究代表者がIHECの運営、すなわち、委員会、WGへの出席などの対応が求められます。そのほか、必要に応じてIHEC対応への協力を依頼することがあります。
  • ・研究期間終了後もIHECへの貢献が望まれます。

平成23年度採択分

研究課題
定量的エピゲノム解析法の開発と細胞分化機構の解明
研究代表者(所属)
五十嵐 和彦 (東北大学大学院医学系研究科 教授)
概要
細胞は、遺伝子セットの発現(利用)の組合せを変えることにより特有の機能を有するように分化します。この過程では、DNAを収納するクロマチンの構造が変化することにより、遺伝子の発現パターンが調節されます。本研究では、免疫系の抗体を産生する形質細胞の分化過程に着目し、新たに開発する技術を用いてクロマチン構造の変化を定量的に調べ、その変化をつくり出す仕組みを解明し、免疫制御機構とその病態(骨髄腫など)への関与を理解します。
研究課題
精神疾患のエピゲノム病態の解明に向けた新技術創出
研究代表者(所属)
加藤 忠史 ((独)理化学研究所脳科学総合研究センター チームリーダー)
概要
遺伝情報を担うDNAが、環境の影響でメチル化などの変化を受けると、遺伝子の働きが変化します。これが精神疾患の原因の1つになる可能性が考えられますが、脳はさまざまな細胞を含むため、分析が難しく、はっきりしたことはわかっていません。本研究では、脳から神経細胞のDNAを取り出して分析する最先端技術を開発し、これを用いて脳におけるメチル化などのDNAの変化を詳しく調べ、動物実験の結果と比較することにより、脳のエピゲノムと精神疾患の関係の解明を目指します。
研究課題
ヒト消化器上皮細胞の標準エピゲノム解析と解析技術開発
研究代表者(所属)
金井 弥栄 (国立がん研究センター研究所分子病理分野 副所長・分野長)
概要
本研究は、ヒトの体を構成するさまざまな細胞における正常のエピゲノム (遺伝子発現のオン・オフを制御するDNAメチル化・ヒストン修飾などの仕組みの全体像)を明らかにする、国際ヒトエピゲノムコンソーシアム(IHEC)に貢献します。胃・大腸・肝臓といった消化器の細胞のエピゲノムを明らかにし、解析技術開発を行うことにより、国際貢献を果たします。研究成果はデータベースとして公開し、世界の研究者に参照されることで、がんなどの病気に関わるエピゲノム異常の同定を効率化し、診断・治療法の革新に結びつくと期待されます。
研究課題
幹細胞における多分化能性維持の分子機構とエピゲノム構造の三次元的解析
研究代表者(所属)
白川 昌宏 (京都大学大学院工学研究科 教授)
概要
多分化能性を有するES細胞・iPS細胞などは、特有のエピゲノム構造を持ち、それは分化に伴い大きく変換します。これは、ゲノム上の特定領域のDNAメチル化・脱メチル化部位の核内における空間的位置の変化によって規定されます。本研究では、DNA脱メチル化の分子機構、および核内空間におけるメチル化・脱メチル化部位の分布を解析することで、多分化能性を規定するエピゲノム構造を解明することを目的とします。また、エピゲノム状態の発現型として細胞骨格の成熟化・秩序化に注目し、その新規な計測手法を提案します。
研究課題
エピゲノム解析の国際標準化に向けた新技術の創出
研究代表者(所属)
白髭 克彦 (東京大学分子細胞生物学研究所 教授)
概要
人間の体は250種を超える細胞により成り立っています。それぞれの細胞は同じ配列のDNAを持ちますが、DNAの修飾や結合するたんぱくの修飾(エピゲノム標識)の違いが細胞種の特異性を規定しています。このエピゲノム情報の全体像に迫るべく、本研究ではエピゲノム解析技術の開発を行うとともに、血管内皮細胞の大規模エピゲノム解析を展開して、データと技術の両面で国際ヒトエピゲノムコンソーシアム(IHEC)へ貢献します。これらのデータは、基礎研究のみならず創薬研究に貢献することが期待できます。
研究課題
肝細胞誘導におけるダイレクトリプログラミング機構の解明とその応用
研究代表者(所属)
鈴木 淳史 (九州大学生体防御医学研究所 准教授)
概要
本研究では、最近明らかになった皮膚細胞から肝細胞への直接的な運命転換(ダイレクトリプログラミング)をエピゲノム情報の再構成として捉え、細胞のエピゲノム情報に立脚した細胞運命転換の制御メカニズムを明らかにします。そして、得られる結果から、細胞運命を規定する特定因子の働きとエピゲノム情報の再構成をつなぐ新原理の発見や、ヒト皮膚細胞からの肝細胞誘導とエピゲノム情報の人為的操作に基づく革新的な治療・検査技術の開発を目指します。
研究課題
高次エピゲノム機構の作動原理と医学的意義の解明
研究代表者(所属)
中尾 光善 (熊本大学発生医学研究所 教授)
概要
エピゲノムの制御機構には、DNAメチル化、ヒストン修飾、クロマチン・ループの形成、核内ドメインの構築があり、これらの各階層が協調して遺伝子制御を可能にしています。本研究では、クロマチン・ループ形成と核内ドメインで構成される高次エピゲノム機構の時空間的な作動原理を明らかにし、細胞状態を客観的に理解する計測モデルを提示します。さらに、疾患遺伝子座の高次制御とその計測モデルに基づいて、先進医療応用を目指した細胞同定法や、疾患の予防・診断・治療につながる新たな技術基盤を創出します。
研究課題
エピゲノム創薬による広汎性発達障害の克服
研究代表者(所属)
萩原 正敏 (京都大学大学院医学研究科 教授)
概要
自閉症をはじめとする広汎性発達障害はコミュニケーション能力の欠如など多様な神経症状を呈します。患者数も多く、また、その社会適応の困難さから社会的対応が必要ですが、診断が困難で治療法も確立していません。本研究では、広汎性発達障害はエピゲノム制御異常に起因するトランスクリプトーム異常によって引き起こされるのではないかとの独自の仮説をもとに、疾患モデルマウスやiPS細胞を作成し、新たな診断技術や治療薬の開発を目指します。
研究課題
生活習慣病による進行性腎障害に関わるエピジェネティック異常の解明と診断・治療への応用
研究代表者(所属)
藤田 敏郎 (東京大学 大学院医学系研究科 教授)
概要
糖尿病、高血圧による透析導入患者数は増加しており、腎機能の低下が心臓や血管の病気のリスクとなることからも早期に腎機能低下を防ぐための医療が急務です。本研究では、糖尿病腎症をモデルにエピゲノム制御機構の異常が生じるメカニズムを明らかにします。さらにエピゲノム制御をターゲットにした生活習慣病の新規診断法の開発、治療創薬の基盤形成を目指します。
(*研究者の所属は2012年4月現在のものです)