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戦略的創造推進事業CREST研究領域 > 二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用のための基盤技術の創出

研究領域

戦略目標

「二酸化炭素の効率的資源化の実現のための植物光合成機能やバイオマスの利活用技術等の基盤技術の創出」

研究領域名

二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用のための基盤技術の創出
研究領域HP

研究総括

磯貝 彰(奈良先端科学技術大学院大学 学長)

概要

 本研究領域では、植物の光合成能力の増強を図るとともに、光合成産物としての各種のバイオマスを活用することによって、二酸化炭素を資源として利活用するための基盤技術の創出を目的とします。
 具体的には、植物の物質生産能力の基本である光合成の制御機構を光合成産物の代謝や転流、及び窒素同化などとの相互作用も含めて統合的に理解し、それに基づいて光合成能力を向上させる基盤技術についての研究を推進します。また、植物の多様な環境への適応機構の解明に基づいた光合成能力向上や炭素貯留能向上、及び有用バイオマス産生のための基盤技術の創出を目指します。さらには、植物の物質生産能力を最大限に活用するためのバイオマス生合成・分解機構の理解とその活用技術の研究を推進します。これらの研究を推進するにあたり、二酸化炭素を資源化する革新的技術の開発までを見据えた、植物科学研究とバイオマス利活用研究の連携や融合にも取り組みます。

領域アドバイザー

坂 志朗 (京都大学大学院エネルギー科学研究科 教授)
佐々木 卓治 (東京農業大学総合研究所 教授)
佐藤 文彦 (京都大学大学院生命科学研究科 教授)
篠崎 一雄 (理化学研究所植物科学研究センター センター長)
田中 良和 (サントリービジネスエキスパート(株)技術開発本部価値フロンティアセンター植物科学研究所 所長)
土肥 義治 (理化学研究所社会知創成事業 本部長)
西澤 直子 (石川県立大学生物資源工学研究所 所長・教授)
東山 哲也 (名古屋大学大学院理学研究科 教授)
福田 裕穂 (東京大学大学院理学系研究科 教授)
山谷 知行 (東北大学大学院農学研究科 教授)

研究総括の募集・選考・研究領域運営にあたっての方針(平成24年度)

 いうまでもなく、地球上の炭素化合物は、地球の歴史の中で、植物が太陽エネルギーを利用し二酸化炭素を還元して有機化合物に変換する光合成という機能によって作りあげてきたものです。化石燃料もその延長上にあります。今、持続可能なエネルギー供給と低炭素社会への社会的要請と関心が高まるなか、こうした植物の光合成機能とそれによって作り出されるバイオマスが、二酸化炭素を有用資源として活用する基本的技術として見直されています。

 日本の植物科学研究は、これまで学術的には世界に誇るべき多くの研究成果を挙げ、モデル植物を中心に遺伝子や分子のレベルで、光合成機能やさまざまな環境に適応し植物が進化させてきた多様な生理機能について明らかにしてきました。また、そうした研究成果に基づいた光合成の効率向上や有用植物の育種、バイオマス利活用技術についても個別の要素研究として、一定の成果が得られてきています。しかし今、日本の植物科学研究者には、その力を低炭素社会の実現など、社会的課題の解決に発揮することが求められています。社会の要請に応え、将来に真に実用可能な技術を生み出すためには、実用植物をも対象として、目的意識を明確にした緊密な連携を研究者間で構築し、これまでの研究成果を基に植物科学者の総合力を発揮できる研究体制が必要となっています。

 こうした社会と時代の要請に応えるべく設定されたものが、今回のCRESTとさきがけの研究領域です。本研究領域では、研究領域の概要に述べたように、植物の持つ光合成能力や環境適応能力などの物質生産能力を理解・改変することによって二酸化炭素の効率的な資源化を図り、さらに光合成産物としてのバイオマスなどを有用物質へと転換する基盤技術の創出を目指します。CREST研究では、要素研究を繋げるよう連携したチーム型研究を実施します。例えば、光合成の要素反応の効率向上だけでなく、その効率向上を活用できるような植物体の作出、あるいは生合成経路や分解経路の解明だけでなく、その改変によって生じる代謝産物プロファイルを活用した有用物質生産技術の開発、また、化学工学的な手法や微生物機能を活用しバイオマス分解から機能性物質合成までを連携させる基盤技術の開発などが想定されます。また、さきがけ研究では、次世代や次々世代の基盤技術をめざして、従来の発想とは異なる観点からのアプローチによる大胆で挑戦的な研究や、チーム型研究でカバーしきれない様々な切り口からの幅広い分野での独創的な研究を期待します。研究領域運営にあたっては、こうした2つの研究タイプの強みを活かしつつ統合的に推進していきます。また、領域での交流や連携を図ることによって、それぞれの研究を加速するとともに、その成果をより幅広い分野の技術革新につなげていきたいと考えます。さらには、日本の植物科学において、これまで理学、農学、工学、薬学などの多くの分野で展開されてきた研究について、分野間での融合を促進し、また、植物の物質生産機能を中心とした各種の研究開発プロジェクトとの交流も図ることで、将来のこの分野のいっそうの発展につなげたいと考えます。

 本研究領域の初年度は、CREST4件、さきがけ11件の優れた研究を採択することが出来ましたが、2年目の平成24年度も、引き続き、光合成・環境適応・バイオマス活用といった切り口から、二酸化炭素排出抑制等の社会的課題を植物の力で解決しようとする意欲的な研究提案を期待します。

平成23年度採択分

研究課題
構造と進化の理解に基づく光合成の環境適応能力の強化
研究代表者(所属)
鹿内 利治 (京都大学大学院理学研究科 教授)
概要
近年、日本の研究者は、世界の光合成研究の飛躍的な進展に大きく貢献してきました。その一つは、光合成反応を原子のレベルで理解することで、もう一つは、陸上の過酷な光環境に適応するための光合成調節メカニズムの解明です。この成果に基づき、光合成装置の革新的な改変と植物の環境適応戦略のシナリオの書き換えを行います。高い光合成活性を維持しながら過酷な栽培環境に適応できる、「強くてしなやかな光合成装置を備えた植物」のデザインを行います。
研究課題
葉緑体機能改変によるステイグリーン植物の創出
研究代表者(所属)
田中 歩 (北海道大学低温科学研究所 教授)
概要
ステイグリーンは、葉の緑色が長く維持される現象で、その機構解明と制御により光合成能力向上への貢献が期待できます。光合成や葉緑体機能に関する研究の発展により、新しい手法によるステイグリーンの誘導の可能性が生まれてきました。本研究では、光合成の改変や葉緑体の品質管理・機能強化、およびステイグリーン関連遺伝子の単離を通じて、光合成能力を長く維持する植物の作製を目指すとともに、葉緑体の形成・機能維持・分解の基本的過程の解明を目的とします。
研究課題
将来の地球環境において最適な光合成・物質生産システムをもった強化植物の創出
研究代表者(所属)
彦坂 幸毅 (東北大学大学院生命科学研究科 教授)
概要
大気中の二酸化炭素濃度の増加や温暖化など、地球環境は急速かつ大きく変化しています。本研究は、将来の地球環境において最適な光合成・物質生産システムをもつ植物の創出を目的とします。野生植物のもつ環境適応能力を利用するアプローチと、誘発突然変異体を高効率でスクリーニングするアプローチにより、将来の地球環境での生産向上に関連する遺伝子を探索します。さらに、遺伝子組換えの手法に頼らず、自然変異・突然変異の掛け合わせから高効率系統の選抜を行う手法を開発します。
研究課題
電磁波応答性触媒反応を介した植物からのリグニン系機能性ポリマーの創成
研究代表者(所属)
渡辺 隆司 (京都大学生存圏研究所 教授)
概要
本研究では、植物細胞壁を固めるリグニンへの親和性と電磁波吸収能を賦与した新規触媒を合成するとともに、周波数を連続的に変化させることができる電磁波化学反応装置を開発し、電磁波の特性を活かした高効率リグニン分離・分解反応系を構築します。また、リグニンを含む植物の包括精密構造解析と電磁波反応を組み合わせて、リニア型リグニンの分離法やモノマーへの分解法、精製法を開発し、強度、耐溶媒性、分散性、耐衝撃性、紫外線吸収特性などに優れる芳香族ポリマーに変換します。
(*研究者の所属は2012年4月現在のものです)