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戦略的創造推進事業CREST研究領域 > ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出

研究領域

戦略目標

「メニーコアをはじめとした超並列計算環境に必要となるシステム制御等のための基盤的ソフトウェア技術の創出」

研究領域名

ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出
研究領域HP

研究総括

米澤 明憲 ((独)理化学研究所 計算科学研究機構 副機構長)

概要

 本研究領域は、次々世代(次世代スーパーコンピュータ「京」の次の世代)あるいはそれ以降のスーパーコンピューティングに資する、システムソフトウェアやアプリケーション開発環境等の基盤技術の創出を目指すものです。
 具体的には、2010年代半ば以降に多用される、メニーコア化された汎用型プロセッサや専用プロセッサ(現在GPGPUと呼ばれるものを含む)を用いて構成されるスーパーコンピュータの特徴を生かし、その上で実行されるアプリケーションを高効率・高信頼なものにするシステムソフトウェア(プログラミング言語、コンパイラ、ランタイムシステム、オペレーティングシステム、通信ミドルウェア、ファイルシステム等)、アプリケーション開発支援システム、超大規模データ処理システムソフトウェア等に関する、実用性を見据えた研究開発を対象とします。また、実用上の観点からそれらのソフトウェアレイアをまたがる研究開発が奨励されます。

領域アドバイザー

青柳 睦(九州大学情報基盤研究開発センター センター長)
石川 裕(東京大学大学院情報理工学系研究科 教授)
久門 耕一((株)富士通研究所 取締役・ITシステム研究所長)
河野 健二(慶應義塾大学理工学部 准教授)
小林 広明(東北大学サイバーサイエンスセンター センター長)
佐藤 三久(筑波大学大学院システム情報工学研究科 教授)
下條 真司(大阪大学サイバーメディアセンター  教授)
中川 八穂子((株)日立製作所中央研究所 新世代コンピューティングPJ シニアプロジェクトマネージャ)
中島 浩(京都大学学術情報メディアセンター センター長)
牧野 淳一郎(東京工業大学大学院理工学研究科 教授)
松岡 聡(東京工業大学学術国際情報センター 教授)

研究総括の募集・選考・研究領域運営にあたっての方針(平成24年度)

 超大規模計算・記憶資源を活用した数値シミュレーションやデータ解析は、理論や実験・観測に加えて新たに登場した科学・技術の第三の方法論として、その役割の重要性が飛躍的に高まっています。これに呼応して、欧米、中国ではスーパーコンピュータの開発競争が激化し、我が国でも、2012年には次世代スーパーコンピュータ「京」の正式稼働が予定されています。スーパーコンピュータのこのような重要性に鑑み、各国でもすでに次の世代、すなわち次々世代のスーパーコンピュータの開発が水面下で進められ始めているのが現状です。

 スーパーコンピュータの存在が有意義になるためには、その上で実行されるアプリケーション領域でのシミュレーションプログラムやデータ解析プログラムが開発されるのみならず、スーパーコンピュータのハードウェア性能を十分引き出すことを可能にする、質の高い設計のもと高機能・高信頼性を有するシステムソフトウェアの存在が不可欠です。本研究領域では、このようなシステムプログラム、すなわち、プログラミング言語、コンパイラ、ランタイムシステム、オペレーティングシステム、通信ミドルウェア、ファイルシステム等や、アプリケーション開発支援システム(数値計算ライブラリを含む)、超大規模データ処理システムソフトウェア等の研究開発を行います。

 次々世代以降のスーパーコンピュータのアーキテクチャーは、メニーコア化された汎用型プロセッサや専用プロセッサ(現在GPGPUと呼ばれるものを含む)を用いて構成されるという方向性以外は、必ずしも明確になっているとは言えません。これを受けて、本研究領域の研究課題の提案においては、研究開発で前提としているアーキテクチャーを出来る限り詳しく記述していただきます。採択された研究課題は、前提とするアーキテクチャー上で研究開発するシステムソフトウェア等が効率良く稼働する可能性が高いことを実証するとともに、その成果をオープンソースとして公開する等により本研究領域の発展に貢献して頂きます。また、対象アプリケーションを想定した上で、ハードウェアからアプリケーションまでの協調の可能性を十分考慮したシステムソフトウェアの研究開発が提案されることが望まれます。

 さらに、本研究領域での採択課題は、最長5年間という研究開発期間がありますが、実用の可能性の高いシステムソフトウェア等が最終的に実現される見通しが付くことを、中間評価の段階で相当程度実証していただく予定です。その評価結果によっては、以降の研究計画を大幅に見直していただいたり、研究課題間の一層の連携を求めたり、場合によっては研究課題を中止することもあり得ます。

 本研究領域を推進することにより、研究領域の期間の後期(2015年頃から)において、次世代スーパーコンピュータ「京」に続く、次々世代以降の我が国のスーパーコンピュータに活用され得るシステムソフトウェア基盤技術を創出します。また、次々世代以降の、超並列コンピューティングによるスーパーコンピュータのシステムアーキテクチャ、ソフトウェアアーキテクチャの方向性づくりに貢献します。このために、企業や海外研究者と情報を共有しつつ研究開発を実施する等の産学連携や国際連携を進めていける体制が望まれます。

 さらに、各研究課題が終了する頃(2016年頃)から、超並列計算機システム上で本研究領域の成果を用いたシステムソフトウェアを利用して、大規模データに基づく新しい大規模シミュレーション・予測手法等が生まれ続け、環境分野からライフサイエンス分野に至る広範な分野で、科学・技術の新たな展開がもたらされると期待されます。

 本年度は、昨年度と同様にアプリケーション、組み込みシステム、アーキテクチャ等の研究者が本領域に応募され、「システムソフトウェア」の研究に挑戦してくださることとともに、社会・経済・政治現象を対象とする大規模シミュレーションが可能となる、離散事象シミューション実行プラットフォーム(シミュレーションのための開発・実行システムであり、アプリケーションソフトウェアではありません)の研究提案も期待します。また、研究提案は、一般に研究代表者がその研究構想を実現するために必要十分なチーム構成で良いので、総額1.5億〜3億円未満(CREST種別T)の比較的小規模チームもエンカレッジします。

 ※ 本研究領域の募集説明会を下記日程で開催いたします。ご関心のある多くの方々の参加をお待ちしております。
◆日時:3月26日(月) 13:30〜15:30
◆場所:JST東京本部別館(K’s五番町ビル) 2階セミナー室(東京都千代田区五番町7)

平成23年度採択分

研究課題
ポストペタスケールシミュレーションのための階層分割型数値解法ライブラリ開発
研究代表者(所属)
塩谷 隆二 (東洋大学 総合情報学部 教授)
概要
地球シミュレータ、次世代スパコン(京)などのスーパーコンピュータ上で超大規模な解析を可能とする、汎用並列有限要素法解析システムADVENTURE(オープンソースソフトウェア)の開発及び公開を通し培ってきた、大規模解析に極めて有効な手法である階層型領域分割法を、ポストペタスケールに向け、大規模データ処理を扱うメッシュ生成や可視化処理部分に拡張することにより革新的技術開発を行い、実用的超大規模シミュレーションの実現を目指します。
研究課題
進化的アプローチによる超並列複合システム向け開発環境の創出
研究代表者(所属)
滝沢 寛之 (東北大学 大学院情報科学研究科 准教授)
概要
ポストペタスケールの計算システムは、現在よりもさらに超並列化および複合化が進んでいると想定されます。本研究では、そのような超並列複合システムを効率的かつ効果的に利用するための環境を研究開発します。特に、複雑なハードウェア構成を意識することなく、アプリケーション利用者や開発者がシステムの性能を活用するための技術を開発します。また、システムの変化に伴うアプリケーションの進化を支援するためのフレームワークを構築します。
研究課題
ポストペタスケール時代のスーパーコンピューティング向けソフトウェア開発環境
研究代表者(所属)
千葉 滋 (東京工業大学 大学院情報理工学研究科 教授)
概要
ポストペタスケール時代のスーパーコンピューティング(HPC)では、汎用的なプログラミング言語やフレームワークひとつで全ての課題に対処することは困難になると予想されます。本研究では、ここ十数年の間にインターネットweb分野で著しく進歩したソフトウェアのモジュール化技術をHPC分野にも適用し、計算機プラットフォームや計算アルゴリズムごとに最適化されたフレームワークをその分野の開発者自身が作り出せるようにし、HPC分野でのソフトウェア開発の生産性を大きく改善することをねらいます。
研究課題
省メモリ技術と動的最適化技術によるスケーラブル通信ライブラリの開発
研究代表者(所属)
南里 豪志 (九州大学 情報基盤研究開発センター 准教授)
概要
今後数年間で、スーパーコンピュータのCPUコア数は1億個以上になると予想されています。本研究では、スーパーコンピュータの重要な基盤ソフトウェアである通信ライブラリについて、計算機の規模によらず少ない使用メモリ量で効率よく通信を行う省メモリ技術と、実行中の状況に応じて自律的に動作を調整する動的最適化技術を用いた通信ライブラリを開発するとともに、この通信ライブラリの機能を活かした効率の良いプログラムの作成技術を研究開発します。
研究課題
ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤
研究代表者(所属)
藤澤 克樹 (中央大学 理工学部 准教授)
概要
大規模災害では突発的に様々な事態が発生すると同時に短時間で状況が大きく変化します。このような状況下で、避難、誘導、復興計画等を早急に策定するためには、従来の手法では限界があり膨大なデータから作成したグラフを高速に処理することが難しい状況です。本研究ではポストペタスケールシステム上でこれらの問題を迅速に処理するための超大規模なグラフ最適化システムを作成して、安心安全な社会基盤の実現に貢献します。

平成22年度採択分

研究課題
ポストペタスケールに対応した階層モデルによる超並列固有値解析エンジンの開発
研究代表者(所属)
櫻井 鉄也 (筑波大学システム情報工学研究科 教授)
概要
本研究では、ポストペタスケールアーキテクチャの特徴である階層的並列構造に対応した「超並列固有値解析エンジン」を開発します。本エンジンは、従来の固有値解法の問題点であるスケーラビリティと耐故障性を克服するために新しく構築するアルゴリズムに基づきます。これにより、先端理工学シミュレーションにおいてこれまで不可能であった規模の計算を実現し、広範な科学・産業分野での技術革新への可能性を拓きます。
研究課題
ポストペタスケールデータインテンシブサイエンスのためのシステムソフトウェア
研究代表者(所属)
建部 修見 (筑波大学 大学院システム情報工学研究科 准教授)
概要
DNAシーケンサ、加速器などの実験装置の発展、シミュレーション規模の拡大に伴い、メモリには収まらない規模のデータ処理が必要となっています。しかし、現状の技術の延長では将来必要となる性能を得ることが困難と予想されています。本研究では、ポストペタスケール以降でも高い性能を発揮する分散ファイルシステム、OS、大規模データ処理実行基盤システムの研究開発を行います。ポストペタスケール時代に大規模データを処理するサイエンスの発展を促進します。
研究課題
自動チューニング機構を有するアプリケーション開発・実行環境
研究代表者(所属)
中島 研吾 (東京大学 情報基盤センター 教授)
概要
複雑化、大規模化するスーパーコンピュータ(スパコン)上でのプログラム開発とその安定な実行は困難な課題です。本研究では、計算機の専門家でない科学者や技術者がスパコン向けの様々なシミュレーションプログラムを容易に開発し、高速・安定に実行するための環境ppOpen-HPCを開発します。異なるスパコンでも、自動チューニング機構ppOpen-ATによりプログラムの修正無しに最適な性能で安定に実行可能となります。本研究の成果は、スパコンを利用して新しい科学を開拓する人材の育成にも大いに貢献します。
研究課題
メニーコア混在型並列計算機用基盤ソフトウェア
研究代表者(所属)
堀 敦史 ((独)理化学研究所 計算科学研究機構 研究員)
概要
ポストペタスケールアーキテクチャとして汎用マルチコアとメニーコアを組み合わせたメニーコア混在型並列計算機を想定し、そこでのスケーラブルなシステムソフトウェアの研究開発を行います。汎用マルチコア上の汎用OSと協調するメニーコア上の軽量OSを開発し、メニーコア間およびマルチコア間での最適な通信機能、MPI-IO を含む高速なファイルI/O機能、超軽量スレッド、耐故障性機能を提供するシステムソフトウェアを実現します。
研究課題
高性能・高生産性アプリケーションフレームワークによるポストペタスケール高性能計算の実現
研究代表者(所属)
丸山 直也 (東京工業大学 学術国際情報センター 助教)
概要
ポストペタスケールに向けた最重要課題である「並列性の克服」、「信頼性」、「低消費電力化」の解決に大きく貢献する高生産性垂直統合型ソフトウェアスタックを研究します。スケーラブルマルチスレッド処理系を基盤とし、アプリケーションフレームワークとして、自動並列化、自動チューニング、耐故障性、電力最適化等の各種技術を透過的に実現します。主に流体シミュレーションおよび分子動力学法を対象としてフレームワークを開発し、将来のソフトウェアアーキテクチャの方向性づくりに大きく貢献します。
(*研究者の所属は2011年4月現在のものです)