[内分泌] 内分泌かく乱物質

戦略目標

環境にやさしい社会の実現」(PDF:14KB)

研究総括

鈴木 継美 (東京大学 名誉教授)

概要

 内分泌かく乱物質問題の本質的な理解と解決をめざした研究を対象とするものです。
 具体的には、ヒトや野生動物を対象とした内分泌系への作用メカニズムの解明、これを発端とする生殖、神経/行動、発達、免疫等への影響のメカニズムの解 明、ヒトおよび生態系に対する個別さらには複数の内分泌かく乱物質に関する量と影響、量と反応の関係の評価、それらをもとにした対策技術に関する研究等を 対象とします。

平成12年度採択分

高感度質量分析計の開発と内分泌かく乱物質の分析

研究代表者(所属)
交久瀬 五雄 (大阪大学 名誉教授)
概要
位置検出器を装備した1-2桁高感度質量分析計を開発し、内分泌かく乱物質の前処理を簡素化した、また現状の処理法を用いた場合、サンプル量を1-2桁少なくして多数サンプルの迅速処理(ハイスループット)をめざしている。
 

脳ニューロステロイド作用を撹乱する環境ホルモン

研究代表者(所属)
川戸 佳 (東京大学 大学院 総合文化研究科 教授)
概要
脳海馬内でチトクロムP450系は女性・男性ホルモンを合成していることを発見した。女性ホルモンは海馬 の記憶学習を司る神経シナプスの伝達効率(長期抑圧)や構築(スパイン数)を急性的に変動させており、これら神経可塑性に対し、女性ホルモン類似内分泌撹 乱物質(ビスフェノールなど)は、急性的・に大きな撹乱を与えることを発見した。この分子過程はシナプスに存在する女性ホルモン受容体を介していることも 発見した。
 

大気中に存在する新しいタイプの内分泌撹乱物質

研究代表者(所属)
武田 健 (東京理科大学 薬学部 教授)
概要
ディーゼル排ガス微粒子中からエストロゲン及びアンドロゲン作用かく乱物質、またAhレセプター刺激作 用、性ステロイドホルモンレセプター発現抑制作用を有する物質を同定した。マウス妊娠期DE曝露により、胎仔の性分化に関わる遺伝子の発現が抑制されるこ と、出生した仔の血中テストステロン値,一日精子産生量が変動するなど様々な内分泌かく乱現象が認められた。また、精液性状の悪化、行動異常や脳内モノア ミン代謝の変動が観察された。
 

魚類生殖内分泌系に及ぼす内分泌かく乱物質の影響の分子メカニズム

研究代表者(所属)
長濱 嘉孝 (自然科学研究機 構基礎生物学 研究所 教授)
概要
分子・細胞学的アプローチを用いて、脊椎動物で二番目となるメダカの性決定遺伝子(DMY)を発見すると ともに、精巣分化(DMRT1)と卵巣分化(芳香化酵素、エストロゲン)を制御する重要因子を同定した。これらの分子マーカーを駆使することにより、性ホ ルモンや内分泌かく乱物質が魚類の性転換を起こす際の作用部位が性決定過程(性決定遺伝子)ではなく、生殖腺の性分化過程(生殖腺体細胞での遺伝子発現) であることを見出した。また、DESが魚類卵の成熟を誘起する作用があること、またその作用メカニズムは魚類の卵成熟誘起ホルモン(17a,20b- DP)と同様であることを明らかにした。さらに、内分泌かく乱物質の作用メカニズムを解析するためのトランスジェニックメダカを数系統作出するとともに、 マイクロアレイ系(性分化期の雌雄生殖腺)を作製した。
 

生殖系での低濃度内分泌撹乱物質関連遺伝子データベースの構築

研究代表者(所属)
宮本 薫 (福井大学 医学部 教授)
概要
環境中に存在し得る程度の低用量の内分泌かく乱物質が生殖内分泌系に与える影響はまだ良く判っておりませ ん。この研究ではサブトラクションクローニングの手法を用いて、ヒトを含めた哺乳類動物の卵巣-子宮系細胞での遺伝子発現の変化を的確にとらえ、低用量内 分泌かく乱物質によって誘導、もしくは抑制される遺伝子データベースを構築し、公開しています(http://www1.fukui-med.ac.jp/SEIKA2/ED-Genes.html)。
 

平成11年度採択分

内分泌かく乱物質による精子形成異常に関与する癌遺伝子産物DJ-1とAMY-1

研究代表者(所属)
有賀 寛芳 (北海道大学 大学院 薬学研究科 教授)
概要
DJ-1は転写調節、抗酸化ストレス、プロテアーゼの3つの機能を有し、この機能破綻がパーキンソン病、 男性不妊原因となる。アンドロゲンアンタゴニストによりDJ-1はアンドロゲン受容体との核での共局在を失いアンドロゲン受容体活性を低下させる。またビ スフェノールA、TCDDが誘導する活性酸素に対し、DJ-1は自己酸化されることで除去を行うが、過剰に酸化されたDJ-1は機能消失しパーキンソン病 発症原因となる。
 

内分泌かく乱物質の動物への発生内分泌学的影響

研究代表者(所属)
井口 泰泉 (自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター 教授)
概要
周生期のエストロゲン曝露による雌雄のマウス組織不可逆的増殖機構の分子生物学的な背景を解明するととも に、ビスフェノールAの胎盤透過性、低用量影響、遅延性無排卵現象を見出した。また、マウス組織のエストロゲン応答遺伝子を選択してマイクロアレイを作成 した。アメリカワニ、ローチなど野生動物の化学物質の臨界期を明らかにし、ホルモン受容体、ホルモン産生関連酵素遺伝子のクローニングおよびマイクロアレ イ化を行った。
 

内分泌かく乱物質のヒト生殖機能への影響

研究代表者(所属)
岩本 晃明 (聖マリアンナ医科大学 泌尿器科 教授)
概要
ヒト試料(血液、精漿、精巣組織等)を用いて、男性生殖機能の評価マーカーとなる新たな物資や現象を探索 した。その結果、1)障害を受けた精巣の精細管基底膜や精細胞およびステロイド代謝にヒトに特徴的な変化が生じること、2)EDC曝露によって cofilin-2とtestican-3の遺伝子発現が変動すること、3)DJ-1が造精機能マーカーとして期待できること、4)RecQヘリカーゼが ゲノム維持機構に関与していること、5)Y染色体のハプロタイプの違いが精子形成能に影響することを見いだした。また、6)精子運動能の解析を重視し、新 しい精子自動解析装置を開発した。
 

内分泌かく乱物質が減数分裂、相同組換えに与える影響

研究代表者(所属)
黒田 雅彦 (東京医科大学 病理学講座 講師)
概要
我々は、上記課題の解明を目指して、ダイオキシンによって応答し減数分裂に関与する新規遺伝子として、 DIF-2(Dioxin Inducible factor-2)、DIF-3(Dioxin Inducible factor-3)を単離し、ダイオキシンによって発現が低下する遺伝子としてMad2を同定した。DIF-2遺伝子は、Drosophilaの染色体の 構造維持に関与するwapl遺伝子のヒトホモログであり、その後の解析から、ヒト子宮頸癌の原因癌遺伝子であることが判明した。また、環境化学物質によっ て誘導される減数分裂期の染色体構造異常は、修復機構の破綻が原因である可能性が示された。
 

内分泌かく乱物質の脳神経系機能発達への影響と毒性メカニズム

研究代表者(所属)
黒田 洋一郎 ((財)東京都神経科学総合研究所 客員研究員)
概要
LD,ADHD、高機能自閉症児が全学童の6%に達した。子どもの脳機能発達への化学物質の影響を調べ る、DNAマイクロアレイ、シナプス形成系、サル"指迷路"学習など、遺伝子・細胞・行動レベルの多くの新しい毒性実験系を開発した。低濃度のPCB類は 脳発達に必須の甲状腺ホルモン依存性遺伝子発現や神経回路(シナプス)形成を阻害し、高次機能の獲得に必須の神経活動依存性の遺伝子発現はDD Tなど殺虫剤や除草剤グルホシネートでかく乱された。母ザル血中PCB濃度に比例した子ザルの学習成績の悪化など種々の化学物質汚染による知能・行動異常 が定量的に示され、ヒトでの複合暴露濃度から脳発達障害の一因と考えられた。
 

平成10年度採択分

内分泌かく乱化学物質の細胞内標的分子の同定と新しいバイオモニタリング

研究代表者(所属)
梅澤 喜夫 (東京大学 大学院 理学系研究科 教授)
概要
細胞情報の増強・抑制物質をスクリーニングするための細胞情報可視化プローブを創案・開発した。これらは 蛋白質間相互作用可視化プローブ、蛋白質リン酸化プローブ、セカンドメッセンジャープローブ(cGMP、PIP3、DAG、IP3、NOなど)、オルガネ ラ局在蛋白質同定プローブなど、現在まで10数種におよび、すべて融合蛋白質から成る。本法は、標的細胞内にこれらの蛋白質プローブを発現させ、化学物質 が引き起こす細胞情報伝達過程や発現遺伝子の増強・抑制をリスクアセスメントの指標とするものである。開発した可視化プローブ類は、細胞シグナルの基礎研 究用試薬、病態の診断、薬物のスクリーニング等にも役立つものである(Nature Cell Biol., AOP (2003), Nature Biotech., 21, 287 (2003), JBC, 247, 30945 (2003), Nature Biotech., 20, 287 (2002), PNAS, 99, 15608 (2002))
 

植物由来および人工の内分泌かく乱物質の相互作用

研究代表者(所属)
香山 不二雄 (自治医科大学 保健科学講座 教授)
概要
植物エストロゲンには多様な種類があり、転写レベルおよび転写後レベルでもそれぞれ多様な作用機序を示す ことが明らかとなった。配糖体、グルクロン酸抱合体など化学形が異なると作用や代謝に大きな違いがある。植物エストロゲンも多量に摂取すれば悪影響があ り、適量の摂取が健康の維持増進に効果があることが明らかとなった。また、ダイオキシン類や有機塩素系農薬のヒトの体内存在量は前者に比べ1000倍以下 の濃度であるが、追跡調査が必要である。
 

ヒトを含む哺乳類の生殖機能への内分泌かく乱物質の影響

研究代表者(所属)
堤治 (東京大学大学 院医学系研究科 教授)
概要
内分泌かく乱物質の汚染実態を明らかにするため、ヒト試料(血液、卵胞液、精液、胎児血、羊水、胆汁等) においてビスフェノールA(BPA)やダイオキシンに加えてノニルフェノール等を検出し、その濃度を定量的に評価した。その結果、様々な内分泌かく乱物質 が複合的に生殖器官を汚染し、母体から胎児への汚染動態を明らかにした。内分泌かく乱物質の作用検出系としてマウス胚培養系を考案し様々な内分泌かく乱物 質の作用濃度を明らかにし、低用量作用や次世代影響の存在を示した。内分泌かく乱物質と各種生殖パラメーター、子宮内膜症を含む疾患との量-反応関係や遺 伝子、分子レベルの解析をおこなった。
 

リスク評価のためのダイオキシンによる内分泌かく乱作用の解明

研究代表者(所属)
遠山 千春 ((独)国立環境研究所 環境健康研究領域 領域長)
概要
低用量の2,3,7,8-四塩素化ジベンゾ-p-ジオキシンやコプラナーポリ塩素化ビフェニルを、感受性 が高い受精卵から新生児までのラット・マウスに投与し、生殖、脳機能、免疫機能に着目をして個体・臓器・細胞・遺伝子レベルへの影響を探り、用量・反応関 係を調べた。その結果、低用量曝露による様々なエンドポイントの変化、感受性が高い臨界時期の存在、アリール炭化水素受容体に依存的毒性と非依存的毒性、 動物種や系統間の感受性の差異についての新たな知見が得られた。
 

核内受容体・共役因子複合体と内分泌かく乱物質

研究代表者(所属)
名和田 新 (九州大学 大学院 医学研究院 教授)
概要
共焦点顕微鏡画像を用いて、抗アンドロゲン剤の作用機構を可視化するとともに、抗アンドロゲン剤の germ cellに与える影響、アロマターゼ活性を抑制する有機スズ化合物、活性を亢進させるベノミルの作用機序を明らかにした。エストロゲン受容体αを特異的に 誘導する環境化学物質ブチルベンジルフタレート(BBP)が、AF-1転写活性を誘導することにより乳癌細胞の増殖を促進することを明らかにした。
 

内分泌かく乱物質の生体毒発現の分子メカニズムとモニター系の開発

研究代表者(所属)
藤井 義明 (筑波大学 先端学際領域研究センター 客員教授)
概要
AhRがTCDDなどの外来異物によって活性化され、Arntとヘテロ2量体を形成して標的遺伝子を活性 化するメカニズムを明らかにした。また、AhRの欠失マウスを作製してTCDDなどの示す催奇形性や発癌性にAhRが関わっていることを示した。さらに、 AhR欠失雌マウスは不妊となり,AhRが生殖リサイクルに関与していることを示した。リガンドの結合によって活性化されたAhRがArntとヘテロ2量 体を形成して、E2の結合していないER α及びERβに結合してE2標的遺伝子の発現を活性化するメカニズムを明らかにした。
 

性分化機構の解明

研究代表者(所属)
諸橋 憲一郎 (岡崎国立共同研究機 構基礎生物学研究所 教授)
概要
有性生殖を行なう生物種は生殖細胞を通じ、次世代に遺伝情報を受け継ぐシステムを構築してきた。この生殖 のプロセスこそが地球上の多様な種の繁栄を可能にした基本原理であり、従ってその基盤となる性の分化は重要な生命活動と位置付けられる。我々は生殖腺の性 分化機構に関する研究を行ない、性分化を制御する多数の遺伝子を同定するとともに、これらの遺伝子によって構成される遺伝子カスケードの一部を明らかにし た。

 

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