「先進的統合センシング技術」

平成24年度 研究終了にあたって

「安全・安心な社会を実現するための先進的統合センシング技術」研究総括 板生 清

本研究領域は、自然災害や人為的作用等社会の安全・安心を脅かす危険や脅威を早期かつ的確に検知し、その情報を迅速に伝達する統合センシング技術を創出することを目指す研究を対象とするものである。具体的には、センサデバイス、情報処理、ネットワーク技術の各分野及びそれらを統合した技術開発により、自然災害や人為的作用等による、危険物・有害物質や、ビル・橋などの人工物・建造物の劣化・異常、人間のバイタルサインの異変等の危険や脅威を早期かつ的確に検知し、その情報を迅速に伝達する統合センシング技術を創出することを目指している。昨年度までに平成17年度採択の6課題、平成18年度に採択された5課題が終了し、更に今年度は、「脳に安全な情報環境をつくるウェアラブル基幹脳機能統合センシングシステム」(本田チーム)、「生体・環境情報処理基盤の開発とメタボリック症候群対策への応用」(山田チーム)、「パラサイトヒューマンネットによる五感情報通信と環境センシング・行動誘導」(前田チーム)、「災害時救命救急支援を目指した人間情報センシングシステム」(東野チーム)の4課題が完了し、当領域は今年度で全ての研究課題を終了した。

当領域では、「安全・安心な社会を実現する為の統合センシング技術」を創出することを目的としており、平成23年3月に発生した東日本大震災に伴う大規模災害に関する議論等において、その重要性が更に強く指摘されている。このような背景から、学術的な研究のみならず、現実的な安全・安心システムを描いて着実かつ段階的にシステム化を進めていく社会実装に関する研究も含め、双方をバランスよく進めることに重点を置いてきた。成果目標達成のために、中間評価、サイトビジット等を始めとして、活発な議論が多く実施された。その結果、4課題とも両面において高いレベルの研究成果が創出された。

(1)「脳に安全な情報環境をつくるウェアラブル基幹脳機能統合センシングシステム」では、安全・安心な情報環境の創出に資するために、従来の大規模な医療画像装置に代わる、脳波計測を中核とする小型軽量で高確度なウェアラブル基幹脳機能センシング技術を創成し、日常生活空間で簡便に基幹脳の活性状態をモニタできるシステムの開発を目的とした研究を遂行した。脳波とfMRIとの同時比較計測により得られた成果は、特に高齢化やうつ病が社会問題化している昨今の状況においては、科学的、技術的に、インパクトが非常に大きい。

(2)「生体・環境情報処理基盤の開発とメタボリック症候群対策への応用」においては、日常生活における生体・環境情報を長期間に渡って常時モニタリングでき、個人が自らの生活習慣を振り返ることのできる生体・環境情報処理基盤(人間の日常生活を科学するプラットフォーム)を開発するために、日常生活をモニタリングするセンシングシステムの開発とセンサ情報を加工・処理する基盤ソフトウェアの開発を目指した。中間評価以降は特に、実証実験を東大病院との連携によるヘルスケアサービスの実証実験に絞込み、さらに、ウェアラブル連続測定血圧センサを中心に、医学・健康に応用できるような道筋を立て、ヘルスケアサービスとして確実な成果を出すことに成功した。

(3)「パラサイトヒューマンネットによる五感情報通信と環境センシング・行動誘導」では、人間の感覚・運動・生体情報を計測し同時に各種感覚提示による錯覚利用の運動誘導を可能にするウェアラブル技術「パラサイトヒューマン」を用いて、装着者自身をセンサとアクチュエータを備えた双方向機能ノードとしてネットワーク接続し、五感情報通信による協調作業型行動支援や、少数装着者による群衆の移動誘導などにより、安全・安心をより直観的で効果的な行動支援の実現を目指した。特に中間事業評価後に、新しい「視野合成法」の社会実装に積極的に取り組んだ結果、社会的に高いインパクトのある応用ケース先を見つけて積極的に研究開発を進めた。パラサイトヒューマン技術の本質的な部分の応用はこれからであるが、今後の展開に期待が持てる。

(4)「災害時救命救急支援を目指した人間情報センシングシステム」では、地震や列車事故など短時間に多数の傷病者が発生する事故現場において、生体情報センサを介して傷病者の情報を迅速に収集すると共に、無線アドホックネットワークを用いて傷病者の位置や病状変化をリアルタイムで監視・収集し、救命活動を行う関係者にその情報を提示する救命救急医療支援システム開発を実施した。本研究においては、救命緊急医療支援への応用以外にも、位置情報技術やトリアージ訓練シミュレータ等の様々な要素技術が開発され、また基盤的研究が広く蓄積されており、多くの社会実装の可能性を有している。

研究の終了にあたって、研究成果を研究終了報告書として取りまとめた。ご高覧頂き今後の研究・実用化の進展に向けてアドバイスを頂ければ幸いである。

最後に課題の選定評価にとどまらず、シンポジウム、サイトビジット、領域会議等で適切な助言指導を頂いた領域アドバイザーの青山友紀特別招聘教授、梅津光生教授、尾形仁士社友、金出武雄教授、岸野文郎教授、徳田英幸教授、保立和夫教授、前田章准教授、前田龍太郎研究センター長、故高木幹雄教授、故谷江和雄教授、故森泉豊榮名誉教授の諸先生方に深く感謝致します。

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