「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」

平成24年度 研究終了にあたって

「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」研究総括 堀池 靖浩

 本研究報告書は、「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」研究領域の平成19年度採択の5チームの研究成果をまとめたものです。本領域は、略称「ナノ製造」と呼び、革新的技術によって新規ナノ機能体を創製して、実用化することを目的としています。
 平成24年に終了した課題を分野別に分けますと、ナノバイオ2件、SWCNT1件、ナノ粒子1件、ナノ計測1件の計5件です。
 ナノバイオの1件は、がんの免疫療法において、疎水化γ-PGA(ポリグルタミン酸)ナノ粒子に毒性の無い新規なアジュバンド機能を発見すると共に、阪大医学部付属病院薬剤部でGMP準拠の製造法を確立しました。抗腫瘍効果を有するペプチドをナノ粒子の表面に固定化したナノ粒子ワクチンに細胞性免疫と抗腫瘍効果を確認され、これを基に阪大医学部病院未来医療センターで臨床試験の準備が着実に進められています。本ナノ粒子の優れたアジュバンド性に注目し、ワクチン製剤の構築を目指した製薬メーカーとの共同研究講座が設置され、実用化に向けての環境が整えられています。他の1件は、抗体の軽鎖に存在する触媒三つ組み残基に優れた抗体酵素機能があることを発見し、本CRESTでは「ヒト型」の「スーパー抗体酵素」開発に的を絞りました。得られたクローンの活性を網羅的にin vitroin vivoで調べ、多くの有望なクローンが見出しました。狂犬病やインフルエンザウイルスに対して、マウスで抑制効果と安全性が確認され、クローンによってはシスプラチンを越えるがん細胞傷害性が見出され、実用化研究への移行が始まっています。
 SWCNT研究では、半導体型の高精度分離を目指し、経済的なゲルを用いた精製法を発想し、マルチカラム法や温調法の独創的高純度化技術を開発し、半導体型を99.9%の純度で分離しました。その結果、単一構造のSWCNTの大量分離を達成したのみならず、鏡像異性体分離にも成功しました。初期のゲル分離法はNEDOプロジェクトに技術移転されました。デバイス応用としては、異なるドーパントの内包によりp型、n型を作製し、各FETからCMOSを作りインバータ特性を確認しました。基礎的分野ではSWCNT内包の水のグローバル相図を完成すると共に、ナノ強誘電体メモリの可能性も見出されています。
 ナノ粒子では、イオン液体の導電性と真空中での不揮発性に着目して、イオン液体を電極としたスパッタやEB照射により優れた電極触媒性能を有するナノ粒子を生成すると共に、イオン液体中での電気化学反応をSEM、XPSなどによるin-situ観察や計測を行い、生成反応機構を明確化し、更にEBやFIB照射によって三次元のナノ構造を創製しました。特筆すべきは、従来、生体試料作製には1週間以上要したのに対し、試料に塗布のみで電顕観察を可能にしたことにより、生物、医学の異分野の研究者を巻き込み、新研究分野を創り上げ、医療への適用までもって行きました。
 ナノ計測は、「ナノ製造」では分析・計測法が不可欠であるとの方針で採択されました。対象は有機や生体高分子等のソフト材料に特化しました。まず、集束クラスターイオンビームによってスパッタ前後にスペクトルに全く変化が無い深さ方向分析のMolecular Depth Probing法を開発し、このイオン源は既に国内外のXPS装置などに搭載され、商用化しました。更に、高速重イオンを用いた高分子材料のSIMSは、収率が従来より3桁高く、クラスターイオンと合体したToF-SIMSイメージング装置を開発し、水の飽和水蒸気圧下での“Wet-SIMS”が可能になりました。その結果、揮発性物質や有機溶媒も測れ、開発した静電型四重極レンズで集束したビームを用いて10μmの分解能の質量イメージングを達成し、ラットの脳切片をMALDIでは観察できない構造を見出しました。
 「ナノ製造」研究領域は、来年3月末に4件の研究をもって終了します。「実用化」を目指して、以前より増して努力を尽くす所存です。

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