「次世代エレクトロニクスデバイスの創出に資する革新材料プロセス研究」

平成24年度 研究終了にあたって

「次世代エレクトロニクスデバイスの創出に資する革新材料プロセス研究」研究総括 渡辺 久恒

 本研究報告書は「次世代エレクトロニクスデバイスの創出に資する革新材料プロセス研究」領域の平成19年度採択の5研究チームおよび平成21年度採択の1研究チームの研究成果をまとめたものです。

 本研究領域では、半導体ロードマップ戦略に基づく技術進化の飽和を超越することを目的として、微細化パラダイムのみでは実現できない機能・性能を持つ、革新的且つ実用化可能なエレクトロニクスデバイスを創製するための材料・構造の開発及びプロセス開発を行います。具体的には、新しい原理により消費電力の増大、製造コストの巨額化といった実用上の問題を解決するための高集積情報処理デバイス、異種材料や技術の融合により新機能・高性能を発揮するデバイス、及びそれらを可能にするプロセス研究、従来にない斬新なアプリケーションを切り拓く研究等が含まれます。また、材料・プロセスの特性・機構解明に留まらず、実用技術に発展することが十分見込まれる研究を推進してきました。

 課題の採択にあたっては、半導体分野における新材料の開拓、新プロセス開発、デバイス創成技術を対象とし、研究遂行にあたって産学連携を通して積極的に実用化に挑戦しようとする姿勢を重視しました。本研究領域では、限界に直面している課題を材料・プロセス科学の基礎に戻って徹底的に理解し新たなコンセプトを創出しようとする提案(Discovery Science)、あるいは画期的な材料・プロセス、デバイスの採用で従来技術の置き換えを追求する提案(Disruptive Technology)、さらに、異分野材料の物性や原理の異なるデバイスを従来の半導体デバイスと融合させて上記課題を克服しようとする提案(Fusion Device)のいずれかを期待しました。

 秋永チームは、強相関状態にある電子群を3端子のスイッチング素子に利用し、さらにそれをシリコンデバイスと融合させるというかなり高度な挑戦でした。ゲートにイオン液体を用いた3端子動作を成功させ、酸化物をベースにした3端子素子化というテーマを、他のチームや海外との連携も含めて一つの研究ジャンルにする活動に結びつけたことで、今後の発展がますます楽しみとなりました。
 尾辻チームは、グラフェンの新製法、デバイスプロセスの開発、および集積化デバイスの3テーマを並行して進めました。シリコン基板上に成長させたグラフェンによる、CMOS原理のスイッチング素子の実証に成功し、CGOSとしての概念提唱に到達させました。テラヘルツ通信を用いるデジタル信号送受信モジュールという集積化デバイスの概念は、今後、さらにインパクトの大きい成果を創出していただけるものと期待しております。
 佐々木チームは、LSIマスクの欠陥検査装置の光源に用いるCLBO結晶の延長的改良開発を行い、目標値以上の大幅な寿命改善をもたらす結晶成長技術の開発に成功しました。このチームは基礎研究から製品化までシームレスに連携し、出口シナリオが無理なく描ける理想的な構成でした。ここまで密な産学連携を組まれそれを最後まで機能させたことに敬意を表しております。終盤での新結晶の発見があり、さらに次の発見・発展もあるものと今後の研究推進にも大いに期待しております。
 菅原チームは、スピンMOSと疑似スピンMOSという提案を、素子の新規性だけをポイントとせず、不揮発性動作をLSI回路全体のアーキテクチャとして最適化して組み込み大幅な低消費電力化をもたらす提案に発展させました。擬似スピンMOS方式の方が製造プロセス上簡単であり実現性も高く、今後の性能実証が期待されます。また、スピンMOSの実現のための高品質フルホイッスラー合金の再現性良い製法の開発は本CRESTらしい大きな成果でした。今後、このチームのメンバーの世界的リーダーシップ発揮を期待しております。
 田川チームは、EUVリソグラフィにおけるレジストの化学反応を素過程に分解してモデル化する手法やシミュレータを開発しました。このチームは研究開始当初から、世界的プレゼンスが高く海外企業も含めた産学連携を進めていました。レジスト材料の高性能化はEUVリソグラフィの大きな課題であり、CRESTで開発したシミュレータは企業のレジスト開発者に大いに役立っていると聞いております。また、終盤での電子線とEUV光の照射後の類似性をベースにした斬新なプロセスアイディアの創出にも大きく期待しております。
 大毛利チームは、MOSトランジスタの内部で発生する雑音の徹底的追求と、その結果もたらす静かなトランジスタの設計指針の開発に取り組みました。極限的な雑音解析のためには、まず測定系(プローブ)の開発から始め、最終的にはプローブという概念から飛び出し、極限的超低雑音解析専用デバイスを開発し、桁違いに小さい雑音信号の解析に成功しました。3年計画でしたが、成果のレベルは予想以上のものとなり、LSIの主流学界で連続的に論文発表が採択され時代の注目を集めつつあります。

 本報告書を通じて、これらの成果が、発見、発明、解析、アーキテクチャ開発、研究ジャンルの創出、驚異的極限追求等に満ちたインパクトのある研究であることをご理解いただけると思います。

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