「生命現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」

平成23年度 研究終了にあたって

研究総括  柳田 敏雄

 生命科学は新しい計測技術の開発とともに発展してきました。遺伝子の解明が進んだ結果、生命現象を担う役者とその構造の知識が広がりました。しかしそれら分子の働く機構を知るためには、機能している現場で現象を正確に記述することが必要とされており、そのために新しい発想に基づく革新的な技術開発が求められています。研究領域「生命現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」は、分子から細胞、個体にわたり新しいツールを創出し、生命現象解明のために新しい道を切り開くことを目指し設定されたものです。その結果,領域の研究は新しい生命観への道を拓き,また診断・治療など新しい医療技術の開発にも展開しています。

 本領域は、平成16年度から開始され、初年度4課題、第2年度5課題、第3年度5課題の合計14課題を採択し、そのうち平成23年3月までに10課題が研究期間を終え終了しました。本年度は残り4課題が終了し領域のすべての課題が終わります。それぞれの課題では、ユニークな発想のもと、さまざまな要素技術開発を経て新しい計測手法へ基盤を確立しました。今年終了の課題には、マウス個体の中で1分子を追跡する技術から、がん転移のメカニズムに迫る可能性を示しました(研究代表者 樋口秀男)。また、タンパク質1分子の構造変化を高速で観察する技術を開発し、働いている分子の動きを捉えることに成功しています(研究代表者 佐々木裕次)。分子の相互作用の力や細胞の発生する熱を、新しい素材カーボンナノチューブの特性を利用して計測する技術を開発しました(研究代表者 中山喜萬)。電子顕微鏡の技術開発では、細胞の中で特定の分子や分子集合体の構造を観察する技術の開発が進められました(研究代表者 宮澤淳夫)。

 生命現象の計測の基盤技術は開発から応用まで長い年月を要するもので、5年間の研究はこの長い過程のそれぞれの一部です。最終的に計測が生命現象の原理解明に資するためには、多彩な生命現象の中から、開発した技術が力を発揮するような対象と巡り会うのも重要なプロセスです。今後,JST、領域、研究者が協力してこのようなチャンスを探り、育ててゆきます。各課題の成果が多くの人の目に触れ,新しい計測の可能性が引き出される機会が増えることを願っています。

一覧に戻る