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平成17年度採択課題 研究終了にあたって

「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」研究総括 伊澤 達夫

 「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」研究領域は、平成17年に発足して以来3期にわたり公募を実施、合計16の研究チームを採択して研究を推進してまいりました。月日の過ぎるのははやく、第一期生である平成17年度採択チームが5年の研究期間を経て研究終了を迎えました。
 本領域は、戦略目標「光の究極的及び局所的制御とその応用」のもと、我が国が比較的優位に立っている光・光量子科学技術を核にした次世代基盤技術を早期に開拓することを目的に、「究極的な光の発生技術とその検知技術の創出」「光と物質の局所的相互作用に基づく新技術の創出」「光による原子の量子的制御と量子極限光の開拓」の3つが中核テーマとして設定されています。そこで、本領域は、情報処理・通信、材料、ライフサイエンスなど、基礎科学から産業技術にわたる広範な科学技術の基盤である光学および量子光学に関し、光の発生、検知、制御および利用に関する革新的な技術の創出を目指す研究を対象として推進してきました。
 採択された課題を概観すると、情報処理・通信技術や計測技術などの飛躍を目的とした量子ドット、フォトニック結晶、非線形光学の応用などによる新しい光機能素子などの原理や技術、分子・原子や化学反応の制御、生体観察・計測、産業・医療などへの利用を目的とした未開拓の波長域発生などの新しい光源・検出手法の開発・高度化と利用技術、近接場光などを利用した光と物質の局所的相互作用の解明と超微細加工や超大容量メモリなどの利用技術、光による原子の量子的制御技術や光の本質に基づく新たな物質科学などの創出を目指す研究、さらには研究にブレークスルーをもたらす新材料に関する研究が含まれています。

 岸野チームは、ナノコラム結晶効果を駆使して、窒化物レーザならびに窒化物LEDの波長域拡大を阻んでいる課題解決に挑戦、単一および集団ナノコラムで発現される物性現象とナノ結晶効果を学術的に解明、選択成長による周期配列ナノコラムの作製技術を確立し、緑色InGaN系半導体レーザや三原色InGaN系LED実現のための基盤技術を開拓しました。以上の研究成果は、Si基板上で作製できることから安価で量産化につながる基盤技術であり、開発される素子は次世代のディスプレイ光源として我が国がリードでき、今後の発展が期待されます。

 末宗チームは、超伝導LEDを作製して、電子クーパー対のもつ巨視的な量子状態を発生するフォトンに転送し、量子もつれあい光子対を発生させる技術の開発を目標にかかげ、Nb超伝導電極付LEDを試作、超伝導臨界温度以下で電子クーパー対をp-n接合に注入することで10倍以上の発光強度増加を観測、量子もつれあい光子の発生について理論的解明を行いました。LEDから発生した光子が量子もつれあい光子対となっているかどうかの実証には困難が伴いますが、この実証は近い将来成し遂げられることと期待します。

 野田チームが取り組んだ研究は、国内外の類似研究と比較して、そのレベルや重要度も極めて高いものです。同チームは、当初計画通りに研究を多方面にわたって発展させ、フォトニック結晶研究で世界的な研究拠点を作りあげ、さらには若手、民間企業における人材育成でも力量を発揮、我が国において重要な研究活動をリードしました。フォトニック結晶レーザは、原理的に単一モードで高出力化が可能で、従来の半導体レーザの限界を超えたワット〜キロワット級レーザの実現も可能とされており、今後の研究成果が大いに期待されます。実際、研究期間を通じ関連学協会からの受賞、新聞報道等も際立って多く、本研究に対する社会の関心や期待の高さがうかがわれます。

 堀チームは、研究開始時に、これまでの情報処理にはエネルギー多消費、無駄な計算を繰り返す欠点があるのに対し、ナノ光電子の強い相互作用を利用して、それらを階層化することで合理的で低消費な情報処理ができるという壮大な研究を提案しました。「デバイスおよびシステム開発と機能評価」、「ナノ領域固有の機能を設計する数理機構開発」、「ナノ領域固有の機能を評価する物理理論構築」の三つの研究項目を掲げ、当初の目標は概ね達成されましたが、なお研究半ばであります。しかしながら研究テーマは、全く新しい概念のナノ信号処理システムであり、サイエンティフィックには非常に興味深いもので、本CRESTをステップとして躍進することが期待します。

 山下チームは、超オクターブ光の発生・操作・計測技術、具体的には、高出力光発生、光増幅、光電場位相・振幅制御、光電場スペクトル位相計測、チャープ補償に関する極限光技術を開発すると共に、こうした極限光技術の新領域への展開として、光応答性DNAの超高速光異性化反応の解明と量子制御への展開、DNAハイブリダイゼーションの高効率光スイッチング技術の開発、遺伝子発現の光制御の実現などを目指したものです。特に、極限光技術に関しては、世界初となる成果が数多く得たことは評価されます。今後は極限光技術の新領域への展開における成果が期待されます。

 このたび本報告書に集大成された研究成果は、研究チームが一丸となってあげらたものであると同時に、サイトビジットやシンポジウムなどの場において貴重な助言、ときには叱咤激励をおこなった領域アドバイザー各氏の貢献があってこそなされえたものです。こうした関係諸氏に深く感謝を表したいと思います。第一期の研究チームは、今回をもってCRESTとしての研究は終了しますが、今後もこれまで以上に高い水準の研究を推進されるよう祈念すると同時に、本研究領域の仲間でこのあとも研究を進めるチームに対し、大いに刺激を与えエールを送っていただければと願います。