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平成22年度 研究終了にあたって

「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」 研究総括 田中通義

 本研究報告書は「物質現象の解明と応用に資する新しい計測分析・基盤技術」研究領域の平成16年度採択研究チームの研究成果をまとめたものです。
 本研究領域は、科学技術の発展の原動力である新原理の探索、新現象の発見と解明に資する新たな計測・分析に関する基盤的な技術の創出を目指すものです。新規なあるいは極めて高度でインパクトの大きい計測・分析基盤技術を世界に向かって発信し、今後、世界標準になりうるような計測・分析基盤技術の開発を目指しています。本領域は具体的にはX線、電顕、NMR、MS、SPM、レーザー、電子分光、アトムプローブをはじめとする極めて広い分野の計測・分析技術をカバーしています。
 課題の採択にあたっては、次世代の産業にもつながるナノスケールの計測・分析や極微量物質の計測・分析などにかかわる基盤技術の開発研究と同時に、より将来を見据えた基礎的な開発研究を重視しました。また、これまで注目されてこなかった計測・分析技術の優れた研究者および将来の大きな発展が期待される若手研究者の発掘に努め、機器や技法の開発に関わる研究者が大学に研究室を確保できるようにすることも目標の一つとしました。このことなしには若手研究者、後継者の育成はできないからです。
 平成22年度に終了した課題は、NMR1件、質量分析1件、光電子分光1件、放射光メスバウアー分光1件、水素検出顕微鏡1件、アトムプローブ元素分析1件、赤外分光1件の計7件です。固体用のNMRでは検出系の冷却法を開発し、測定時間を最大1/16に短縮することに成功しました。また0.1mg以下の微量試料の測定を可能にするマイクロコイルを開発しました。質量分析では投影型イメージング法で空間分解能1μm、質量分解能1万で、100μm2の領域を数10分で測定できるレーザー脱離イオン化イメージングに成功しました。光電子分光では実験室用のキセノンプラズマ放電管を開発し、低加速電圧に最適化した高効率モット検出器を開発し、エネルギー分解能8meVを持つバルク敏感かつスピン分解光電子分光装置を建設しました。放射光メスバウアー分光では、放射光のエネルギー選択性を利用してFe以外の元素Ge、Eu、Sm、Ni、I、Te、Sn等のメスバウアー分光を可能にし、Feについては放射光の鋭い指向性を利用して高効率のモノクロメーターを開発して、放射性同位体線源の10万倍の輝度の光源を実現して薄膜、界面の電子状態の測定を可能にしました。水素検出法では、共鳴核反応を利用して、1気圧以下のガス雰囲気中で材料中の水素の3次元分布を、深さ分解能10nm、面内分解能20μmで測定できる水素顕微鏡開発しました。アトムプローブ元素分析法では、紫外光超短パルスレーザーを併用することにより、金属のみならず半導体やセラミックスの解析を質量分解能>1000で、3次元解析することを可能にしました。赤外分光では、スペクトル幅の狭いピコ秒光源を採用して、共焦点光学系で空間分解能0.41μmと周波数分解能を同時実現した和周波法顕微鏡を作製しました。また、空間分解能3μmで超高真空対応の和周波顕微鏡を開発しました。
 これらの成果はいずれも、世界初、世界最高分解能、世界最高感度を備えたものであり、極めて高度でインパクトのある研究であることをご理解いただけると思います。
 計測・分析技術は、新奇な材料の研究開発やモノづくり技術の発展などに重要な役割を果たす基盤技術です。本領域での計測・分析基盤技術の最先端の研究で達成された【世界最高分解能】、【世界最高感度】、【世界初】の研究成果を、今後の計測・分析機器開発の実用化をはじめ材料物性の研究、材料開発等に活用していただけることを期待します。