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平成16年度採択課題 研究終了にあたって

「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」研究領域
研究総括 原島 博

 「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」研究領域は平成16年度に発足した。我が国において同領域が設定された背景には、平成13年にメディア芸術などの文化芸術活動を科学技術の活用も含めて国を挙げて振興するための最初の基本的な方向性を示した「文化芸術振興基本法」が公布されたこと、その後、平成16年2月に科学技術・学術審議会資源調査分科会報告「文化資源の保存、活用及び創造を支える科学技術の振興」がまとめられたこと、同年国会において「コンテンツの創造、保護および活用の促進に関する法律」が議員立法され、メディア芸術創造のための新しい科学技術の研究の推進が提言されたことなどがある。
 心豊かな社会の実現のためには、経済のみならず文化芸術の振興が重要な課題であり、その創造を支援する科学技術の推進は不可欠である。映画、アニメーション、CGアート、ゲームソフトなどコンピュータなどの電子機器を駆使したメディア芸術は、芸術と科学技術研究との融合領域であり、そこで制作される作品の質を高めるためには、芸術的な感性とともに作品の創造基盤となる研究開発が必要である。このような研究が、前述のような背景のもと、JSTの戦略的創造研究推進事業において実現されたことは極めて画期的なことであったといえよう。
 以来5年が経過し、平成16年度採択の課題が研究終了を迎えた。本研究プロジェクトの活動がきっかけとなってメディア芸術の新たなコンセプトが提唱され、技術に基づく日本のメディアアート活動が国際的に注目されるようになった。コンテンツ制作現場と研究機関の連携が米国に比べ日本は遅れていたが、現場からも評価される基盤技術が活発化した。また、アートとエンタテイメントの基盤となる科学と技術の創成を目指す新たな活動が、技術のみならず芸術・文化サイドからも始まった。こうして本研究領域は、文化芸術と科学技術を結ぶ新たな学術領域を開拓してきたのである。
 この新しい未踏分野において、本研究領域が直面したもっとも大きな課題は、研究の推進方法と成果に対する評価軸であった。新しく立ち上がりつつある分野だけに先行研究が存在せず、また、従来的な科学技術研究の評価基準を適応することも困難であるという状況にあって、本研究領域では、当初より新たな学術領域における研究の方法論も含めて研究対象となり、それに基づいて研究を推進し、成果の発信に努めてきた。この取り組みは、研究者が日々取り組む研究と同様の労力・努力を要するものであり、第1期の研究チームはこうした困難を乗り越えて研究を遂行してきたという点においても敬意を表するに値する。
 稲蔭チームは、「ユビキタス・コンテンツ」なる新しいコンテンツの領域の開拓を目指したもので、21世紀の創造型社会のライフスタイルに根ざした新しい表現活動の提案を行い、その有用性を実証した。今後の普及活動や社会実証を通じて広く具体化されていくことを期待したい。
 森島チームは、アニメ制作の高能率化へ向けて4つの研究機軸を設定し、それぞれが連携するかたちでバランスよく研究開発を進め、アニメ制作現場でも広く利用が可能なオーサリングツールを多数開発、商用アニメ作品においてその実用性の検証と機能拡張が進められた。本研究が日本アニメを牽引する重要な原動力になることが期待される。
 藤幡チームは、科学技術系研究者と芸術系表現者がコラボレーションすることで人間の根源的行為である「描く」を科学するという課題に取り組んだ。一連の研究は「油絵描画シミュレーター」などの具体的な成果として結実した。研究上のコラボレーションは、「運動体」としての性格も有するもので、今後も芸術表現活動に対する根源的な問いから出発して研究が推進されることを期待したい。
 廣瀬チームは、「デジタルパブリックアート」なる新たなデジタルメディア作品の概念を提唱、その制作を支援するための基盤技術の開発を進め、プロジェクトの集大成として羽田空港における「空気の港」として大規模な展示活動を具現化するなど、メディア芸術における新たな表現ジャンルの確立に貢献した。今後は、より豊かな公共空間を創出するための基盤技術としてますます発展していくことを期待したい。
 本報告書にまとめられた研究成果は、研究代表者はもとより参加研究者それぞれの努力によるものであるが、同時に、常日頃よりそれぞれの研究課題に対し、サイトビジットや研究会、ワークショップ、展示会などの場において貴重な助言と励ましをいただいた領域アドバイザー諸氏の貢献があって得られたものである。これまで支えていただいたすべての関係各位に深い感謝を述べるとともに、本研究領域の残された期間において戦略目標の達成へ向けて高い水準の研究が推進されるよう最善を尽くしていきたい。