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平成17年度採択課題1件の研究終了にあたって

「先進的統合センシング技術」 研究領域総括 板生 清

 異常を迅速に検知するためのセンシング技術は、産学官の有識者による安全・安心な社会の構築のための科学技術に関する検討において、多くの安全・安心を脅かす要因の解決に資する共通基盤として取組むべき重点課題として示されている(「安全・安心な社会の構築に関する科学技術政策に関する懇談会」報告書)。また、内閣府総合科学技術会議の「平成17年度科学技術に関する予算、人材等の資源配分方針」(平成16年5月26日決定)においても、強化すべき取り組みとして、テロ(NBC(核・生物・化学)等)の脅威や、過密都市圏等における災害脆弱性の増大等への対策が、また、社会基盤分野の重点領域として、有害危険物質の検知・除染技術や、社会基盤を適切に維持・管理するための対策が挙げられている。このような状況を踏まえ、現在、各省庁においても安全・安心な社会を構築するための科学技術の取り組みが始まっており、関係省庁間における将来的な連携が急務である。すなわち、統合センシング技術の研究開発を早急に開始し、新技術シーズを創出することは、我が国にとって喫緊の課題である。
 異常を早期に検知し、その情報を迅速に伝達する統合センシング技術を確立することで、迅速かつ的確な対応をとることが可能となり、被害を大幅に軽減することが期待できる。危険物・有害物質を高感度・高精度に検知し、その情報を迅速に伝達する技術を確立することにより、危険物・有害物質を用いた犯罪・テロ、環境汚染等の発生を迅速に把握し、的確な対応を講じることが可能となる。
 平成17年度に発足した本研究領域では、17年度に6研究課題、18年度に5研究課題、19年度に4研究課題の合計15研究課題を採択した。中でも喫緊の課題である生物剤テロ対策では、平成17年度から3年間の短期間で成果を出す課題として「全自動モバイル型生物剤センシングシステム」を採択した。生物剤が何者かによって仕掛けられたとき、いち早く処置することへの期待に応えるためである。20年度末に研究を終了する課題は本課題1課題のみであるが、本研究課題は生物剤遺伝子を電流検知型DNAチップを利用して検出するというユニークな方式での研究であり、研究にあたっては当初より応用を見据えたもの、利用者のニーズを踏まえたものとなっている。研究期間は3年と短かったが、米CDC指定のウィルス19種の検出が出来、当初計画外のRNAウィルスにも対応可能となった。
 本研究課題の成果は生物テロ発生時の高感度・高精度検知と迅速な対応を可能とするものであり、本領域の戦略目標「犯罪・テロや災害等社会の安全・安心を脅かす危険や脅威を高感度・高精度に検知し、その情報を迅速に伝達することが可能な先進的統合先進技術の創出」に直接的に貢献する成果であるといえる。
 本研究は生物剤遺伝子を核酸増幅させプローブと反応させ、挿入剤架橋により発生する電流検知型DNAチップを利用する技術的にも独自性のある研究であり、その成果である全自動検知システムはユーザーニーズに応えた市場競争力の高いものとなっている。また、本研究成果は生物剤に限定することなく、DNAチップを利用した手法としては他の分野・用途(食品の衛生検査、法微生物学鑑定など)にも応用可能であり、安全・安心に向けた社会実現への貢献は大きい。残された課題はさらなる小型化と測定時間の高速化、およびオンライン処理などがあげられる。
 研究の終了にあたって、研究成果を研究終了報告書として取りまとめた。ご高覧頂き今度の研究・実用化の進展に向けてアドバイスを頂ければ幸いである。
 最後に課題の選定評価にとどまらず、シンポジウム、サイトビジット、領域会議等で適切なご助言ご指導を頂いた領域アドバイザーの青山友紀先生、梅津光生先生、尾形仁士先生、金出武雄先生、岸野文郎先生、徳田英幸先生、保立和夫先生、前田章先生、前田龍太郎先生、森泉豊栄先生の諸先生方に深く感謝致します。


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